更新日: 2024.02.28 その他資産運用
【シニア世代の資産運用】資産の取り崩しに工夫をし投資にも着目
日本は預貯金の比率が高い
シニア世代の多くは、銀行や郵便局にある程度の預貯金の口座をもっています。しかし現在の金融環境では、極端な低金利で利息がほとんどつかない一方で、食料品など日常生活に使う商品は次々と値上げされ、日々の日用品購入に頭を悩ませているのが現実です。生活が苦しくなれば、エアコンやテレビなどの買い替えなども思うようにはできません。
確かに現在も仕事を続けている方は、政府の後押しもあり賃金の上昇の恩恵を受けることができます。65歳以上の方で、再雇用やパートの仕事を続けていれば、給与面での改善も期待できるはずです。しかし、70歳を超え完全にリタイアされている方にとっては、年金収入の増額は期待できないため、現在保有する金融資産を、どう長持ちさせるかが大きな課題となります。
総務省の2022年の「家計調査」によると、65歳以上で世帯主が無職のケースの金融資産保有額は約2360万円です。その内訳は約67%が預貯金、約16%が有価証券(株式や投信など)、同じく約16%が保険(死亡保険、医療保険など)となっています。とくに株式など投資に回る資金が少なく、預貯金など貯蓄に占める割合が高く、全体の3分の2となっています。
直近では預貯金比率が減る傾向が見られるようですが、配当の期待できる投資信託などの保有比率が高い欧米に比べると、日本は大きく異なります。金利はわずかですが、「元本保証」に魅力を感じ、預貯金に多くの資金が集まっていることがよくわかります。
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資産の目減りをどう抑えるか
限られた金融資産を長持ちさせるためには、預貯金の取り崩しをいかに抑えるかが大切です。少なくとも平均寿命を超えて生きることを前提に、保有する資産を計画的に減らしていくことを考えたいものです。
自分の寿命を想定し、それまで1年間に取り崩し可能な金額を計算し、それに沿って金融資産を減らしていくことです。ここ最近の物価の高騰は頭の痛い問題ですが、それでもムダな失費を抑え、できるだけ基準を守って生活費を収めていくことが大切です。
加入している保険の見直しも必要です。若いころに加入し、そのまま放置している死亡保険があるかを点検しましょう。まだ子どもが小学生であれば、将来を考え死亡保険に加入するメリットは十分にあります。
しかし子どもが社会人として自立していれば、死亡保険に加入し続けるメリットは薄れてきます。最近では、葬儀の簡素化が進み、「葬式の費用を保険で賄ってほしい」という発想も不要になりつつあります。
さらに医療保険も見直します。多くの疾病が「高額療養保険制度」の対象となり、一定額以上かかった医療費は還付される仕組みがあります。通常の健康保険に加入していれば、ある程度はカバーできます。「がんになったら高い医療費の支払いに困る!」などの不安に駆られ、加入した医療保険のスリム化は十分に可能です。これまで加入してきた保険を、可能な限り整理しましょう。
低金利の続く預貯金は、すでに実質的には目減りしていると考えて行動することです。とくに最近は、物価上昇を前提とした社会になりつつあります。例えば、毎年2%程度のインフレが進行することが前提になりつつあり、わずか0.1%程度の預金金利では、実質資産の目減りが確実に起こっています。
株式などへの投資は損害が出る、との側面も否定はできませんが、元本保証の預貯金が目減りしているのです。政府も「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと。2024年1月から新NISAを制度化し、金融資産の移転を奨励しています。とくに預貯金中心の金融資産を保有されている方は、資産の延命を考える観点からも、一部は投資に移行させることを検討してはいかがでしょうか。
少額からでも投資へのシフトを
2024年1月からスタートした新NISAは、できれば活用したいものです。これまでのNISAと比較して、利用できる枠が拡大し、株式、投資信託などの保有期間も無期限になるなど利用しやすくなりました。株式投資は元本保証ではありませんが、購入した株式や投資信託が、まったくゼロになってしまうケースもまずありません。
NISAでは、配当などが非課税になることが大きなメリットです。いまの制度では、通常配当には20%課税されますが、NISAに加入していれば、配当には課税されません。NISAによる非課税制度は、積極的に利用し金融資産を増やしたいものです。
例えば100万円を定期預金に預けていても、受け取れる年間利息は1000円にもなりません。もし、5%の配当が期待できる会社の株式を100万円ほど保有していると、年間の配当金が5万円受け取れる計算です。NISAに加入することで、5万円全額を非課税で受け取ることができます。
とくに投資に関心を示してこなかったシニア層も、これを機会に証券口座を開き、NISAの特典を活用したいものです。リスクの高い新規上場の株式や証券会社の薦める手数料の高い商品購入はできるだけ避け、比較的高配当が期待できる堅実な企業の株式を中心に、分散投資することをお薦めします。
また日経平均に連動する日本の投資信託や、S&P指数に連動する米国株で運用する投資信託は、1社ではなく多くの会社の業績と連動するため、比較的リスクの少ない商品といえます。こうすれば、年間4%程度の配当金を受け取ることができるかもしれません。
少しでも金融資産が増加すれば、老後資金を延命させることに役立ちます。できれば90歳まで金融資産を延命させることを心掛けたいものです。
出典
総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。