更新日: 2020.10.08 不動産投資
いまさら聞けない不動産投資の基本(12) 不動産投資法人と相続の関係
これまでにお伝えしてきた以外にも、法人か個人事業かで得られるメリットの違いがあります。今回は、不動産投資を法人として行う場合のメリット、デメリットについて少し掘り下げます。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役
http://www.nishiyama-ld.com/
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
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法人のほうが融資を受けやすい?
どんな方でも新たに不動産投資を始める場合には、最初の1戸目、1棟目があります。将来、物件数を増やし、10戸、20戸と増やしていこうと考えている場合には法人を設立し、最初から法人で取得するほうが有利になる場合が多いことは以前にお伝えしたとおりです。
不動産投資の実績があり、順調に回っていれば追加投資の融資も受けやすくなります。初めて不動産投資を行う人が法人を設立し、その法人で融資を受けて投資用物件を購入することも可能ではあります。ただしそのような場合、法人には事業実績がありませんので、個人としての代表者が連帯保証人となります。事実上その個人の与信で融資を受けると考えるべきです。
代表者となる個人にどの程度の信用があるか、資産や収入がどの程度あるかによって借り入れ可能な金額も変わってくるでしょう。まとまった資産を保有していて、その金融機関と長年取引を行っている方ならば、まとまった金額の融資を受けやすくなります。融資以外の自己資金を、どれだけ投資に充てるかにも影響されるでしょう。
最近は、金融機関の融資姿勢も慎重になってきています。実績がない個人、あるいは実績がない法人が融資を受ける場合、物件価格の2~3割程度の自己資金を求められることも少なくありません。普通の会社員がいきなり大きな金額の融資を受けるのはかなりハードルが高いといえます。それだけに、1つ目の物件選定が重要になります。
最初の物件が順調に収益を上げれば、次の物件を購入するための追加融資も可能になるでしょう。その際にも連帯保証人の与信も影響するでしょうが、実績が認められれば法人の信用も上がり、融資枠も広がると考えられます。
法人を設立して最初に受ける融資は、あくまでも個人の与信に影響される場合が多く、法人だから融資を受けやすいということとは違うように思います。
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個人の「専従者給与」と法人の「役員報酬」
個人で行う場合、家族に給与を支払うことは原則としてできません。しかし「事業的規模」と認められ、「青色申告事業者」として税務署に届け出、自分の家族を「専従者」とすることで給与を支払うことができるようになり、その分を経費に含めることができます。そもそも、経費として支払う以上の利益が得られていなければ関係ありませんが。
青色専従者として給与を支払い経費として処理できるためには、
(1)青色事業専従者に支払われた給与であること
青色専従者として認められる要件は
・ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族
・ その年の12月31日現在年齢が15歳以上
・ その年の6ヶ月を超える期間(あるいは従事できる期間の1/2以上)、その青色申告者の営む事業にもっぱら従事している
(2)「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出している
(3)届出書記載の方法と金額の範囲内で支払われたものであること
(4)青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であるという条件があります。
一方で、青色専従者給与の支給を受けている家族は、「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」の適用も受けられなくため注意が必要です。
法人で行う場合には、親族などを役員として役員報酬を支払うことが可能です。他に仕事をしていたとしても問題ありません(報酬を受ける人が勤める会社の副業規定などについては別途確認が必要です)。
個人で行う場合、家賃収入は投資者個人に入り続け、結果として資産が増え、相続時に支払う相続税が大きくなることがあります。相続税を抑える基本的な考え方は、資産の増大を抑え、相続税評価額を小さくすることです。日常の支出以上に収入が多い場合には、法人化も選択肢の1つになるでしょう。
法人で行う場合、相続人となる人を役員として報酬を支払うことで、投資者自身、すなわち被相続人となる人への資産の集中を抑えるとともに、相続税が発生する場合にもその納税原資となる資金を相続人に移しておくことができるため、法人の活用が有利に働きます。
相続税対策としての資産管理法人
不動産を個人として保有している場合、相続発生時にその分割方法などでもめるケースは少なくありませんが、資産管理法人であれば、不動産も名義変更などは発生せず、相続人は法人の株式を相続することになります。ただし、未公開株式として相続税評価することになり、その評価は単純ではありません。税理士などに算出してもらうことになるでしょう。
また、個人で不動産を相続した時に土地の評価額を下げる「小規模宅地の特例」は、法人では使えないことも法人化のデメリットともいえます。
相続が発生すると、その株式などを相続した人が資産管理法人の経営を引き継ぐことになると考えられますが、スムーズに引き継がれないと、その物件に居住している賃借人などにも迷惑が及ぶことにもなりかねません。
資産管理法人を設立し、自身が亡くなった後も相続人が運営し続けるならば、相続人にも事業を継承する意思が必要ですし、そのためのノウハウの継承も必要になります。
相続人が事業を継承する意思がない場合、資産管理法人の解散も検討しておいたほうが良いでしょう。
資産管理法人の解散
個人が保有していた不動産を売却し、譲渡益が得られた場合には、その譲渡益に約20%の譲渡所得税がかかります(長期保有の場合)。法人を解散する場合には、その資産を売却し換金する必要があります。譲渡益に対して課される法人税の実効税率は30%強ですので、個人の場合より高くなることになります。ただし、法人であれば他の損失との損益通算できるなどのメリットもあるので、一概にどちらが有利とも言い切れません。
売却にもある程度のノウハウが必要であり、それまで不動産投資と縁がなかった相続人が引き継いだ場合には、専門家のアドバイスも必要になります。
まとめ
個人と法人のどちらで不動産投資を行うかの判断基準は、税金面だけではありません。法人化した場合、その運営にも少なからず手間や費用がかかります。その他の条件も考慮し、どちらが有利かを判定する必要がありますが、その条件は人によってさまざまです。どちらが得かということだけでなく、先のことまで考え、事業継承対策も併せて考えておくべきだといえます。
(参照)
国税庁タックスアンサー「No.2075青色事業専従者給与と事業専従者控除」
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役