金価格の上昇基調は続くのか? 30年以上前と最近の2つの金貨、どこが違っていて、何が同じなの?
配信日: 2021.02.02
「有事の際、頼りになる」とか「インフレに強い」といわれる金ですが、コロナ禍が世界的規模で長期化している状況のもとで、存在感がさらに増しているのかもしれません。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
金は、どんな資産なの?
金価格の動きですが、三菱マテリアルのサイト(※1)で表示される値動きのチャートは、【図表1】のとおりです。
ここ5年で見ると、2018年夏以降の上昇率が際立っています。同サイトの2020年の小売価格の値動きは、6013円(1月6日)から7769円(8月7日)と幅広く、年末(12月28日)は6977円でした。
金はこのように価格変動があって、元本保証もありません。この点はほかの大半の投資商品と変わらず、しかも金利や配当なども付きません。
そして金は、そのもの自体に価値がある「実物資産」でもあるのです。これまで人類が採掘してきた総量は約19万トンで、オリンピックプール(50メートル)で4杯分くらいしかないと聞いたことがあります。
こうした希少性に加えて、その輝きや重みが“持ってる感”を高めてくれる。そんな点が、預貯金、株式、債券などのような紙(データ)の資産とはちょっと違う存在なのでしょう。
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日本の金貨。こんな2つの事例
このような金ですが、現物を比較的手軽に持てる手段の1つが金貨です。金貨といっても、海外で発行されたもので小さいサイズであれば数万円くらいで買えます。
こうした「地金型金貨」といわれるものは、地金としての価値に加えて金貨にするためのデザイン・加工・流通などのコスト(プレミアム)も反映した数字で市場評価されています。
海外では定番の金貨が毎年継続して発行されているケースもありますが、戦後の日本では「記念貨幣」の形で何らかのイベントや節目の際に登場しています。
財務省のサイト(※2)には記念貨幣のうち計20種類の純金貨幣が掲載され、ここ3年間だけで6種類も発行されていることが分かります。20種類の中で最初と最後の発行である2つのざっとしたプロフィールは次のとおりです。
(1)天皇陛下御在位60年
[発行時期] 1986・1987(昭和61・62)年
[発行枚数] 1100万枚
[重量] 20グラム
[額面] 10万円
(2)2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会記念(第四次発行分)
[発行時期] 2020(令和2)年
[発行枚数] 4万枚
[重量] 15.6グラム
[額面] 1万円
2つの金貨の大きな違いとは
それぞれの販売状況などをまとめると【図表2】のようになります。
2つの金貨は、発行時期が30年以上も違います。当然、発行時点の金自体の価格も大違いです。(1)が発行された1986年や1987年の金価格チャートを確認すると、2000円を切る局面も見られます。
仮に金価格=1900円として、ざっと[純金の価値3.8万円+プレミアム6.2万円]。地金の価値を大きく超えた発行だったわけです。
それから長い年月を経て、金価格は大きく上昇しました。現時点でこの2種類を仮に同じ価格で入手できるとすれば、(コンディションの差などによるプレミアム部分の価値の差はともかく)重量が4.4グラムも多い(1)のほうがかなりおトクなようにも思えてしまいます。
そして、何よりも違うのは額面です。2つの金貨は、その地金価値などとは無関係に額面で買い物をしたり銀行預金ができたりします。その際に、10万円と1万円の差はあまりにも大きいでしょう。今後金価格がもしも暴落したとしても、(1)は額面10万円として流通するのです。
一方で、両者の発行枚数もまた大違いです。発行枚数がはるかに少ない(2)は、2020東京オリンピック・パラリンピック自体の今後の動向などによっても、プレミアム部分が大きく変化する可能性がなくはないかもしれません。
まとめ
先述のように金はいろいろとユニークな側面があって、投資商品としては主役よりは“脇役”の一員のほうが似合っていそうな存在です。
金貨は、こうした金を比較的手軽に現物で持てる手段です。2つの比較事例だけでしたが、個別の金貨にはそれぞれにメリットとデメリットが混在していることでしょう。
その時々の金の地金価値の裏付けを持っていて、換金性もそれなりにあって、収集したりそれをプレゼントやギフトとして使えたり……。金貨も、やり方次第でそれなりに味のある“脇役”の投資商品になってくれるかもしれませんね。
[出典]
(※1)三菱マテリアル株式会社「金価格推移」
(※2)財務省「わが国の貨幣」~「記念貨幣一覧」~「純金貨幣」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士