自己都合退職でお願いできますか? と会社の人事から頼まれました。これって違法では?
配信日: 2023.10.24
この記事では、「会社都合退職」と「自己都合退職」の違いや、雇用保険の基本手当(※1、以下「失業手当」といいます)について解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
「会社都合退職」と「自己都合退職」の違い
「会社都合退職」とは
「会社都合退職」とは、業績悪化などによる人員整理など会社の都合で労働者を退職させることで、退職者は7日間の待期期間経過後、直ちに失業手当を受給することができます(※2)。待期期間とは、ハローワークに離職票を提出し求職の申し込みを行った日から失業手当が支給されるまでの期間で、離職理由にかかわらず7日間とされています(※2)。
また、倒産や解雇などの理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた、以下の要件を満たす方は「特定受給資格者」となり、失業手当の支給日数が多くなります(※3)。
(1)倒産などにより離職した者
(2)解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く)や労働条件の相違などにより離職した者
さらに、会社は原則として少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日以上の平均賃金を支払わなければなりません(※4、労働基準法第20条)。また、退職理由を「会社都合退職」とした場合、会社には、雇用関連助成金(例:地域雇用開発助成金、※5)を受給できなくなるなど、デメリットがあります。
「自己都合退職」とは
「自己都合退職」とは、労働者の自由な意思によって退職することです。失業手当には7日間の待期期間満了後さらに2ヶ月間(過去5年間に2回以上自己都合で離職している場合、3ヶ月間)の給付制限が設けられており、この間は失業手当を受給することはできません(※7)。
また、「自己都合退職」であっても、以下の理由に該当する方は、「特定理由離職者」として、支給要件の緩和や支給日数が多くなります(※3)。
(1)特定受給資格者以外の方であって、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことにより退職した者(雇止めによる離職)
(2)以下の正当な理由により自己都合により離職した者
ア 体力の不足や心身の障害などにより離職した者
イ 妊娠、出産、育児などで離職し、失業手当の延長措置を受けた者
ウ 家庭の事情が急変したことにより離職した者
エ 配偶者または扶養すべき親族と同居することが困難となり離職した者
オ 結婚などの理由により、通勤不可または困難になったために離職した者
失業手当の支給要件と所定給付日数
失業手当は、雇用保険の被保険者が離職し、失業中の生活を心配せずに求職活動を行い、1日でも早く再就職することを目的として支給されます(※1)。失業手当は、受給要件を満たした場合、受給期間内に所定給付日数分支給されます(※1、6)。
受給要件
雇用保険の一般被保険者は、次のいずれにも当てはまるときに失業手当を受給することができます。
(1)失業の状態(注1)にあること
注1:ハローワークで求職の申し込みを行い、積極的に就職活動を行い、就業能力があるにも関わらす就業できない状態
(2)離職の日以前2年間に、被保険者期間(注2)が通算して12ヶ月以上あること。ただし、特定受給資格者または特定理由離職者は、離職日の以前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上ある場合でも受給要件を満たします。
注2:雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1ヶ月ごとに区切っていた期間に、賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上または賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある月を1ヶ月と計算
受給期間
原則として、離職した日の翌日から1年間(所定給付日数330日の方は1年と30日、360日の方は1年と60日)です。
ただし、その間に病気、けが、妊娠、出産、育児などの理由により引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その働くことのできなくなった日数だけ、受給期間を延長することができます。
延長できる期間は最長で3年間ですが、所定給付日数330日・360日の方は、最大限3年からそれぞれ30日・60日を除いた期間となります。
所定給付日数
失業手当が給付される日数は、以下の区分のとおりとなります。
(1)特定受給資格者および一部の特定理由離職者(注3)
(注3)特定理由離職者の要件で(1)の雇止めにより離職した方は、受給資格に係る離職の日が2009年3月31日から2025年3月31日までの間にある方に限り、所定給付日数が特定受給資格者と同様となります。
(2)就職困難者
就職困難者とは、身体障害者、知的障害者、精神障害者、刑法等の規定により保護観察に付された方、または社会的事情により就職が著しく阻害されている方などが該当します。
(3)(1)および(2)以外の離職者
注4:特定理由離職者は、被保険者期間が離職以前1年間に6ヶ月以上あれば、失業手当の受給資格を得ることができます。
退職理由に不服がある場合の対処法
離職理由は、離職票に記載され、事業主と離職者がそれぞれ署名してハローワークに提出します。
ハローワークでは、離職票に記載されている離職理由について、客観的資料などにより確認が行われます。その際、離職者は事業者が記載した離職理由に異議がある場合は、その旨を申し出ることができます(※1)。
また、事業者は、離職票に退職理由を正しく記載しなければならず、虚偽の記載をすると労働基準法の規定により罰せられます(※4、労働基準法第22条、第120条)。
まとめ
退職理由には、「会社都合退職」と「自己都合退職」があります。「会社都合退職」の場合は、会社にとって不利となる場合があるため、「自己都合退職」にするよう要請されることがあります。
「自己都合退職」の場合、「会社都合退職」に比して失業手当に給付制限があったり所定給付日数が少なくなったりしますので、離職理由に不服がある場合は、ハローワークでその旨を申し出ましょう。
出典
(※1)ハローワークインターネットサービス 基本手当について
(※2)ハローワークインターネットサービス よくあるご質問(雇用保険について)
(※3)厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
(※4)e-Gov 労働基準法
(※5)厚生労働省 地域雇用開発助成金支給申請の手引き
(※6)ハローワークインターネットサービス 基本手当の所定給付日数
(※7)ハローワークインターネットサービス 雇用保険の具体的な手続き
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士