更新日: 2024.10.10 働き方
パートタイム主婦の収入の「壁」は、これからどう変わる? その1
この「壁」とは、従来あった「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」など、パート収入がその金額を超えたら夫の扶養から外れてしまい、税金がかかったり、社会保険への加入義務が生じて、家計の支出が増えてしまうことを説明しています。
これに加え、2020年5月に成立した年金改正法案の社会保険の適用拡大の措置が来年2022年から施行されるため、従来の「壁」の金額と内容が変化する見込みです。
この記事では、いわゆる「壁」の意味と、今後それがどう変わっていくのかについて整理してみたいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
いわゆる「壁」にはどんなものがあるか?
まずは従来いわれてきた「壁」の種類と、その内容について簡単に説明したいと思います。なお、この記事では便宜的に「パートタイム主婦」「夫」としていますが、場合によって「パートタイム主夫」「妻」と読み替えてください。
103万円の壁
103万円の壁とは、パートタイム主婦の方の年間の給与収入が103万円を超えると、給与収入に所得税がかかり、納税義務が生じるという分岐点を示しています(住民税の場合は100万円ですが、あまり表立った指摘はされていないようです)。
今まで税額ゼロで、給与収入=手取り収入だった状態から、納税しなければなららくなるので、従来「パートをするなら103万円まで」といわれてきました。この壁については、ご存じの方も多いと思います。
106万円の壁
106万円の壁とは、社会保険における夫の扶養から外れる分岐点を示しています。社会保険に関する「壁」には、130万円の壁もあって、勤める企業の規模によってどちらが適用されるかが決まります。
106万円の壁が適用されるのは、主に従業員数が501人を超える大企業で働く場合です。「主に従業員数が501人を超える大企業」としましたが、正確にいうと以下の条件を全て満たす短時間労働者は、社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入しなくはいけないというものです。
(1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
(2)雇用期間が1年以上見込まれること
(3)賃金月額が8.8万円以上であること(年収換算で約106万円以上)
(4)学生でないこと
(5)従業員が常時501人以上の企業に勤めていること
ポイントを示すと、勤務先の企業の従業員数が501人以上で、年収が106万円を超える短時間労働者は厚生年金保険、健康保険に加入する義務があります。8.8万円×12月=105.6万円(これを四捨五入して、一般に106万円の壁といいます)
106万円の壁を超えると、税金だけでなく、厚生年金保険料および健康保険料をパートタイム主婦自らが支払うことになり、家計の支出が大幅に増えることになります。
ただ、それはデメリットばかりではなく、将来自分自身の厚生年金をもらえるというメリットもあります。
130万円の壁
106万円の壁に当てはまらない企業でも、年収が130万円を超えると社会保険の扶養家族から外れ、自ら社会保険に加入する義務が生じます。これを通常130万円の壁といいます。
この場合も、税金だけでなく、社会保険料を自己負担する必要があるので、手取り収入が減るという問題があります。勤務先の企業の規模が小さいと、自ら社会保険に加入して国民健康保険料を支払うことになり、保障内容の割には保険料が割高になるという問題が生じることがあります。
150万円の壁
150万円の壁は、税金に関する「壁」です。
年収103万円を超えると、パートタイム主婦の方は自らの収入に対して税金を支払うことになりますが、収入が大きくないため、夫は配偶者控除または配偶者特別控除を受けることができます(この場合、夫の合計所得金額が900万円以下であるという前提で説明しています)。
配偶者控除および配偶者特別控除の満額は38万円ですが、妻の年収が150万円を超えると、所得控除が38万円から徐々に減少していくことになります。夫の所得控除が減少するということは、夫が増税になるということです。
記事の最後に記載している国税庁のホームページをご覧いただければ分かりますが、所得控除の38万円がいきなりゼロになるわけではなく、38万円から3万円へと段階的に減少していくので、税金も徐々に増えていくことになります。「壁」というより、むしろ、下り坂の開始点というべきものです。
201万円の壁
201万円の壁とは、150万円の壁で説明した配偶者特別控除がゼロになる妻の年収を指します。
パートタイム主婦の方とはいえ、年収201万円を超えると、自らの収入で所得税、住民税、社会保険料を支払い、夫も配偶者に関する所得控除を一切受けられなくなることになります。経済的にも自立した社会人となり、立派な共稼ぎ夫婦になるということです。
まとめ
「その1」では、パートタイムの主婦の方の収入について、一般にいわれている5つの壁と、その内容について解説しました。次回「その2」では、年金改正法による社会保険の適用拡大の内容、「壁」への影響および今後の対応策について説明したいと思います。
出典
国税庁 No.1191 配偶者控除
国税庁 No.1195 配偶者特別控除
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー