更新日: 2022.10.31 その他家計

中小企業における割増賃金率の「猶予措置」が廃止! 何が変わる?

執筆者 : 齋藤たかひろ

中小企業における割増賃金率の「猶予措置」が廃止! 何が変わる?
改正労働基準法が施行され、これまで中小企業に適用されていた割増賃金率の猶予措置が終了します。具体的には、2023年4月1日から、月60時間を超える時間外労働での法定割増賃金率が、25%から50%へと引き上げられます。
 
本記事では、中小企業における割増賃金率が変更される概要や、労働者の目線から知っておくべき内容について解説します。
齋藤たかひろ

執筆者:齋藤たかひろ(さいとう たかひろ)

2級ファイナンシャルプランナー

法定割増賃金率引き上げとは

2023年4月1日から、月60時間を超える時間外労働での法定割増賃金率が、50%に引き上げられます。ここでの時間外労働とは、会社が定める所定労働時間ではなく、法定労働時間を超えるものを指します。
 
この割増賃金率の引き上げは、大企業では2010年から適用されていますが、中小企業は適用が猶予されてきました。しかし、2023年4月1日からは猶予措置が廃止され、中小企業も対象となります。
 

働き方改革関連法により猶予措置が終了

割増賃金率が中小企業においても引き上げられる背景として、いわゆる「働き方改革関連法」の改正施行により、猶予措置が終了することです。中小企業は、これまで大企業に遅れること13年もの間、適用を猶予されてきました。
 
この割増賃金率は、原則として1日8時間・1週40時間の「法定労働時間」を基準とし、月の時間外労働が60時間を超えた場合に適用されます。
 
会社が定める「所定労働時間」は、この法定労働時間とは異なることに気を付けましょう。労働者の皆さまは、自身の1ヶ月間の時間外労働の時間を意識して、何時間残業したら50%の割増賃金率となるかを確認しておくとよいでしょう。
 

対象となる中小企業

猶予措置の廃止で50%の割増賃金率が新たに適用される企業とは、図表1の基準を満たす中小企業に該当する企業です。事業所単位でなく、企業単位で判断されます。
 
<図表1>
 

 
出典:厚生労働省 2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられますより筆者作成
 
図表1の「資本金もしくは出資の額」「常時使用する従業員」のどちらも満たす場合はもちろん、いずれか一方を満たす場合でも法令上の「中小企業」に該当します。自身の所属する企業が該当するどうかを把握しておきましょう。
 

深夜労働・休日労働との関係

ここで、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、深夜労働・休日労働における割増賃金率と重複して適用されるかどうか、整理します。
 

深夜労働のケース

月60時間を超える時間外労働を、22時から5時までの時間帯に行うケースです。この場合、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%が適用されます。割増賃金率が重複して適用されるため、このケースは収入に大きな影響を与える可能性が高いといえます。
 

休日労働のケース

月60時間を超える時間外労働を、休日に行うケースです。このケースでは、法定休日に行う場合と、それ以外の休日に行う場合とで分けて考える必要があります。
 
法定休日とは、労働基準法による、最低でも1週間に1日または4週間4回の休日のことです。法定休日の労働時間は時間外労働に含まれないため、割増賃金率は従来どおり35%のままです。
 
一方で、法定休日以外の休日に行った労働は、時間外労働に含まれます。法定外の休日に行う時間外労働は、休日の割増賃金が支給されず、月60時間を超える場合に時間外割増賃金率の50%が適用されます。ただし、会社によっては、就業規則で法定外の休日についても割増賃金率を設定している場合もあるので確認しておくとよいでしょう。
 

引き上げが労働者にもたらす影響

法定割増賃金率の引き上げは、会社の経費が増えるだけではなく、労働者も大きな影響を受けます。労働者が受ける主な影響は以下の2点です。
 

長時間残業の収入が増える

中小企業に勤めていて、月60時間以上の時間外労働をしている方なら法定割増賃金率の引き上げにより収入が増えることになります。もし長時間残業が常態化しているような方なら、毎月の収入も大きく増額します。ただし、年間720時間を超える時間外労働は、特別条項付き36協定を締結している場合でも違法に当たるので注意しましょう。
 

代替休暇の付与

企業は、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の方の健康を確保するため、 割増賃金を支給する代わりに、引き上げ分(25%)の代替休暇(有給の休暇)を付与することもできます。
 
ただし、この代替休暇制度を導入するにあたっては、労働者の過半数を占める労働組合、それがない場合は過半数の労働者代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。また、労使協定を結んだ場合も一律に代替休暇とはならず、個々の労働者の意思によって実際に代替休暇を取得するかどうかを決定できます。
 

まとめ

中小企業の割増賃金率の猶予措置が廃止されることで、中小企業の労働者への収入などが大きな影響を受けます。深夜労働や休日労働の割増賃金率との関係も出てくることから、月60時間の時間外労働を行った場合は、自身でも一度、割増賃金率の計算が正しいかどうか確認しておくことをお勧めします。
 

出典

厚生労働省 2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます

厚生労働省大阪労働局 法定労働時間と法定休日、時間外労働の基本

 
執筆者:齋藤たかひろ
2級ファイナンシャルプランナー