更新日: 2023.03.20 ライフプラン

会社員から個人事業主に。社会保険料の負担はどう変わる?

執筆者 : 大竹麻佐子

会社員から個人事業主に。社会保険料の負担はどう変わる?
会社員と個人事業主とでは、加入できる社会保険制度や負担する保険料が異なります。
 
会社員時代には、会社に任せきりで、給与明細の控除金額をじっくり見たことがなかった、という方も多いようですが、個人事業主の場合は、社会保険制度や負担する保険料について、自分自身で管理しなければなりません。将来やもしものリスク対策のためにも、まずは制度やしくみを理解しておくことが大切です。
 
今後、個人事業主として独立を考えている方にも、ぜひ知っておいてほしい知識です。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP🄬認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

個人事業主が加入する社会保険

社会保険は、具体的には「年金保険」「医療保険」「介護保険」といった強制加入の保険制度であり、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットである社会保障制度のひとつです。社会保障制度には、ほかに生活保護などの公的扶助や、高齢者や障がい者、母子家庭などの社会福祉、保健医療・公衆衛生などの医療予防などの制度があります。
 

「年金」は、厚生年金から国民年金へ

会社員時代に給与から差し引かれるのは「厚生年金保険料」です。基本給や手当などの支給額から標準報酬月額を算出、保険料が決定します。保険料は、会社と折半で負担します。厚生年金の制度は、20歳から60歳までのすべての国民が加入する国民年金を土台に、厚生年金が上乗せされる2階建て構造です。
 
つまり、原則として65歳以降受け取ることのできる老齢給付は、国民年金からの「老齢基礎年金」と上乗せ部分の報酬に応じた「老齢厚生年金」の2種類です。
 
個人事業主になると、上乗せ部分の厚生年金がないため、国民年金を全額自己負担で支払うことになります。国民年金保険料は、一括払いや口座振替など支払方法により若干の差はあるものの、報酬にかかわらず決まった額を負担します。
 

「医療保険」は、健保組合から国民健康保険へ

会社員の場合は、会社の規模などにより健康保険組合や協会けんぽ、共済組合等の加入先は異なりますが、基本的には、厚生年金と同様に、標準報酬月額から算出した保険料を会社と折半で負担します。病気やケガにより医療機関を受診する際の医療費の3割負担や高額療養費制度など基本的な保障のほか、加入先によっては、独自の給付など手厚い保障が備えられている場合もあります。
 
個人事業主の場合は、市区町村(お住まいの自治体)が運営する国民健康保険に全額自己負担で加入することになります。病気やけがをした場合に誰もが安心して医療にかかることのできる制度であるため、基本的な保障の差はありません。
 

「介護保険」は、支払方法と保険料額が変わる

介護保険は、原則40歳になると毎月介護保険料を支払うことになるという点で、会社員も個人事業主も違いはありません。さらに、年金受給者となっても、介護サービスを受ける場合でも支払い負担はあります。
 
40歳から64歳の会社員の場合には、標準報酬月額をもとに自治体ごとの料率で算出した保険料を会社と折半で給与から差し引かれて負担しますが、個人事業主は、所得や世帯の被保険者の数などによって市区町村が保険料を決定し、口座振替もしくは納付書で支払います。
 

「雇用保険」「労災保険」の負担はなくなる

広い意味で社会保険に含まれる「雇用保険」や「労災保険」は、雇用される労働者の生活の安定や業務中の災害の補償を目的とするため、基本的に、経営者である個人事業主は加入できず、保険料の負担もありません。
 

個人事業主の社会保険には「扶養」の概念がない?

会社員と個人事業主とで加入する社会保険制度の違いは前述のとおりですが、さらに、家族がいる場合の社会保険料の負担についても大きく異なる点を理解しておきましょう。
 
そもそも個人事業主の社会保険には「扶養」の概念がありません。
 
会社員の場合には、配偶者がパートや専業主婦(夫)で年収130万円(現状、会社の規模等により106万円)未満であれば、働き手となる会社員が「扶養者」、扶養される家族や親族を「被扶養者」として、生計を一にする家族は、保障の対象に含まれます。年金については、厚生年金に加入する会社員に扶養される配偶者は、保険料負担なく国民年金の加入者(第3号被保険者とよびます)となることができます。
 
一方、扶養の概念がない個人事業主の家庭では、同じ働き方の配偶者がいても、それぞれが加入者(第1号被保険者)となる必要があり、2人分の保険料負担が生じます。国民健康保険については、家族人数分の保険料を世帯主が支払うことになります。
 

リスク対策は自分自身で

こうして見ると、会社員は手厚い保障にもかかわらず少ない負担で、会社に守られているように感じるのではないでしょうか。ある意味、その通りかもしれません。
 
それが気になったときには、なぜ、個人事業主という働き方を選んだのかについて思い出してみてください。おそらく、会社員として働くことよりも、自分らしく生きられる、活躍できると感じたからではないでしょうか。
個人事業主だから社会保障が充実していないのではなく、自分の責任で自由に選ぶことができるのが個人事業主であり、経営者でしょう。
 
厚生年金の代わり(※1)に、小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)で節税※2しながら、退職金や老後資金を準備することも、民間医療保険や生命保険への加入で、より充実した手厚い保障を備えることも選択肢です。
 
※1 65歳以降の老齢厚生年金については、全く受け取れない訳ではありません。会社員時代に納付した分については老齢基礎年金の受給要件を満たせば上乗せとして受給することができます。
※2 小規模企業共済やiDeCo(確定拠出年金)の掛け金は、所得控除の対象となるため、課税所得金額が下がり、結果として所得税や住民税の税負担を抑えることができます。
 
事業主は、収入を得るための事業展開、経費などの支出、社会保険や税金なども自分で考えなければならないことが多く大変ですが、社会保険については、開業時に、それぞれの制度の概要を理解したうえで、届出や手続きを漏れなく行えば問題ないでしょう。個人事業だからこその「働き方」のメリットを生かしつつ、自分自身のライフプランとともにリスク対策についても考えてみましょう。
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士

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