就業開始時間15分前に体操の時間があります。これは残業にはならないのでしょうか
配信日: 2023.04.01 更新日: 2024.10.10
執筆者:三藤桂子(みふじけいこ)
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士
大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルマザーとあらゆる立場を経験した後、FPと社会保険労務士の資格を取得し、個人事業主から社会保険労務士法人エニシアFP を設立。
社会保険労務士とFP(ファイナンシャルプランナー)という二刀流で活動することで、会社側と社員(個人)側、お互いの立場・主張を理解し、一方通行的なアドバイスにならないよう、会社の顧問、個別相談などを行う。
また年金・労務を強みに、セミナー講師、執筆・監修など首都圏を中心に活動中(本名は三角桂子)。
そもそも労働時間とは?
労働時間は、原則、労働基準法第32条で1週間40時間、1日8時間と決まっています。労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたるとされています(休憩時間は除く)。
※出典:厚生労働省「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」
労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等で定めの有無にかかわらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下にあるものと判断することができるか否かにより、客観的に定まるものとされています。
労働者の行為が使用者から指揮命令や明示されていなかったとしても、黙示の指示によって義務付けられ、選択の余地がないような状況などから、具体的、個別に判断されます。
労働時間に含まれるケース
それでは具体的に労働時間となるケースについて、その例をあげてみると次のとおりです。
(1) 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為
例:着用を義務付けられた制服への着替え、全員参加が義務付けられている就業前のラジオ体操や業務終了後の業務に関連した片付けや清掃等を職場内で行った時間
(2) 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることができずに労働者が時間を自由に使うことができない待機等している手待時間
例:タクシー運転者が駅前などで乗客を待っている時間や、トラック運転手が荷積み先で荷物を待っている時間(労働から離れることができない場合)
(3) 参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
例:海外取引や出張が多い職場で、業務上、必要な英会話を職場研修で行った時間
※厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」より筆者作成
上記以外で、使用者から業務上義務付けられていないケースであったとしても、人事評価が下がる、嫌がらせ行為を受けるなど、労働者に不利益が生じる場合などは、実態として労働時間であると解されます。
労働時間に含まれないケース
一方、同じ行為であっても労働時間に含まれないケースもあります。
(1) 制服や作業着の着用が労働者本人の任意(自由)であり、自宅から制服の着用を認めているような場合や、着替えにプラスして客観的にみて過度な時間をかけて化粧などを行う場合
(2) 始業開始前のラジオ体操で、業務上必要とされてない参加が任意(自由)とされている場合
(3) 業務とは関係がない一般的な研修・教育訓練で、参加が任意(自由)とされている場合
使用者の指揮命令下だけで判断できない
会社員Aさんのケースでは、実際に指揮命令がなかったとしても、社員全員そろって体操をする決まりになっている、さらに創業当時から続く慣例となっているのであれば、労働時間に含まれます。
その場合、本来の始業はラジオ体操を行う時間からにするべきであると解されます。もしくはAさんが疑問を抱いているように、残業代が発生します。
まずは、就業規則等に定めがあるかどうか確認してみましょう。直接、社長に確認するのをためらうようであれば、まずは職場の先輩に経緯を確認、相談してみるのもよいかもしれません。当たり前のように参加しているラジオ体操は、参加しないことで労働者に不利益等が生じないようであれば、逆に労働時間に含まれません。
まとめ
ラジオ体操の時間が5分程度だったとしても、毎日のこととなると、1ヶ月20日間勤務とすると、合計1時間40分になります。Aさんの会社のように毎日15分であれば、5時間です。業務開始前のラジオ体操が労働時間であれば、未払い残業代が生じていることになります(残業代請求の消滅時効は当面は3年)。
労働時間の把握については、タイムカードなどで適正に記録を確認するべきであり、全員参加が決まっている(参加が義務である)ラジオ体操から打刻、就業時間とすべきであると考えられます。労働時間の考え方を再度確認し、実態として明示または指揮命令がされているかどうかで判断が変わってくるでしょう。
出典
厚生労働省 労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い
執筆者:三藤桂子
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士