更新日: 2024.10.10 働き方
昇進して課長になると「残業代がなくなる」と言われました。それって法律違反じゃないんですか? 支払われないのはどんなときでしょうか?
本記事では、管理監督者の判断基準について解説します。
執筆者:遠藤良介(えんどう りょうすけ)
社会保険労務士、FP2級
「課長」=「管理監督者」ではない!
労働基準法には、労働者の管理監督をする人は労働時間や休憩、休日の制限を受けないと定められています。では労働者の管理監督をする人とは、いったいどのような人が該当するのでしょうか。
管理監督者に該当するには?
厚生労働省によると、管理監督者とは「経営者と一体の立場にある者」とされており、以下の要件を満たすことが条件とされています。
・職務や経営上の必要性から労働時間、休憩・休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請される重要な職務と責任、権限があり、実際の勤務態様も労働時間の規制になじまない立場にある者
・自分の裁量で労働時間を管理できること
・賃金等の待遇面で一般従業員に比べてその地位にふさわしい待遇が与えられていること
また、管理監督者の「職務、責任、権限」については、以下の内容を総合的に判断するとされています。
・会社の重要事項への発言権や影響力があるかどうか
・労務管理上の指揮監督権(採用、解雇、人事評価等)があるかどうか
・実際の職務内容や職責の重要性がどの程度あるか
「待遇」については、一般従業員の残業代を含めると管理監督者の賃金よりも高くなる「逆転現象」が起こるケースもあります。その場合は、管理監督者として認められない要素の一つとなるため注意が必要です。
管理監督者には深夜手当や年次有給休暇もつかないの?
労働基準法では「労働時間」と「深夜業」については分けて考えられています。よって、深夜勤務の割増賃金は適用除外にはなりません。同様に年次有給休暇も適用除外にはならず、管理監督者であっても深夜割増賃金を受け取り、年次有給休暇を取得することができます。
なお、労働政策研究・研修機構の「管理職の働き方」の調査によると、7割程度の管理監督者に深夜割増賃金が支払われていることがわかります。調査結果は図表1のとおりです。
【図表1】
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 調査シリーズNo.212 管理職の働き方に関する調査
管理監督者に関する代表的な裁判例
管理監督者性が争われた有名な裁判例として「日本マクドナルド事件」が挙げられます。「管理監督者」とみなされたハンバーガー販売会社の店長が、支払われてこなかった残業代2年分の支払い等を求めて訴えた裁判です。
判決の趣旨は、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められず、自らシフトリーダーとして勤務し、長時間の時間外労働を余儀なくされており、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
さらに賃金面も、管理監督者に対する待遇としては十分であるとはいえない、などの理由から当該店長を管理監督者とは認めず、割増賃金の支払いを命じました。
同様に、飲食・小売チェーンの店長が管理監督者に該当するかどうかの裁判もありましたが、管理監督者ではないと判断されたケースが多くあります。
まとめ
「課長に昇進したら、残業代はなくなる」というのは、必ずしも法律違反というわけではありません。管理監督者の立場に該当するか、「職務内容」や「責任・権限」、「勤務態様」、「待遇」を総合的に見て判断されます。
そして、役職名関係なく管理監督者に該当するなら残業代の支払い義務は発生せず、管理監督者に該当しないなら残業代支払い義務は発生します。特に、管理監督者の当事者になり得る人や会社の人事・総務担当の人は会社の規定を再度チェックしてみてください。
出典
厚生労働省 参考1 基発第0909001号 平成20年9月9日 多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 調査シリーズ No.212 管理職の働き方に関する調査
厚生労働省 確かめよう労働条件 3-5 「管理監督者」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性
執筆者:遠藤良介
社会保険労務士、FP2級