更新日: 2024.10.10 働き方

「遅刻が多い」という理由で社長にクビと言われました。1ヶ月分の解雇予告手当は払われるようなのですが、「不当解雇」ではないでしょうか?

「遅刻が多い」という理由で社長にクビと言われました。1ヶ月分の解雇予告手当は払われるようなのですが、「不当解雇」ではないでしょうか?
「解雇予告手当さえ払えばいつでも従業員を解雇できる」と誤解している経営者がいるようですが、それは大きな間違いです。解雇には正当な理由が必要であり、その場合も従業員の生活が困らないように解雇予告期間(または解雇予告手当)が必要です。本記事ではこの趣旨について、事例を踏まえてわかりやすく解説します。
玉上信明

執筆者:玉上信明(たまがみ のぶあき)

社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

解雇予告手当の意味

「解雇」とは、会社側から従業員との労働契約を解約することです。従業員から労働契約を解約するのは「辞職」、労使の合意で労働契約を解約するのは「合意解約」に当たります。従業員にとっては、会社から一方的に解雇されると生活が成り立たなくなります。
 
法律では、解雇に様々な制限を設け、さらに正当な解雇の場合でも従業員の生活を守るための手続きを設けています。その1つが「解雇予告手当」です。
 
「解雇予告」は、会社が従業員を解雇するならば30日以上前に予告するか、30日分以上の平均賃金を払わなければいけない、と労働基準法に定められています。この30日分以上の平均賃金の支払いのことを「解雇予告手当」といいます。
 

解雇は正当な理由がなければできない

「解雇」は、正当な理由がなければできません。そもそも法律で解雇が禁止されている場合もあります。正当な理由とは「客観的に合理的な理由があること」「社会通念上相当であること」の2つの要件を満たした場合に限られます。
 

客観的に合理的な理由があること

合理的な理由としては、次のような場合が当てはまります。まず、私的な事故などにより、従業員の労働能力や適格性が低下または喪失した場合です。ただし、業務上の災害や通勤災害の場合には厳しい解雇制限があります。
 
次に、従業員が義務違反や規律違反行為をした場合です。とはいえ後述のとおり、軽微な違反行為があったからといってすぐ解雇になるわけではありません。
 
もう1つは、経営難で人員整理もやむを得ない、といった経営上の必要性がある場合です。ただしこの場合は、従業員には何ら落ち度はないため別途の厳しい規制があります。
 

社会通念上相当であること

前述の合理的な理由がある場合でも「社会的に相当と言えるのか」という要件で厳しくチェックされます。
 
まず、従業員の労働能力や適格性の低下・喪失の場合でも、「これまでの業務が無理でも他の業務ができるのであれば解雇せず雇い続けるべき」と裁判所が判断した事例が多数あります。
 
また、従業員の義務違反や規律違反行為についても、「解雇するほどの重大な違反行為か」ということが厳しく問われます。数回の遅刻程度では解雇するまでの社会的相当性はないと考えられるでしょう。
 

解雇が禁止されているケース

一例として、「差別的な解雇」や「法律上の権利行使を理由とした解雇」は禁止されています。
 
「差別的な解雇」とは本人の信条や組合活動、性別を理由とした解雇、または女性の婚姻や妊娠、出産などを理由とする解雇などです。
 
「法律上の権利行使を理由とした解雇」とは、育児介護休業の申し出・取得を理由とする解雇や労働基準監督署等に法違反を申告したことを理由とする解雇、個別労使紛争の助言・指導・あっせんの申請を理由とする解雇、公益通報を理由とする解雇などをいいます。
 

解雇に正当な理由があっても解雇予告または解雇予告手当が必要

合理的理由があり社会的相当性があって解雇が有効になった場合でも、解雇前には解雇予告またはそれに代わる解雇予告手当の支払いが必要です。これは、従業員の一定の生活上の打撃を和らげるために会社に義務づけられているものです。
 
解雇予告手当は原則として、平均賃金の30日分以上です。平均賃金は、解雇の直近3ヶ月間の賃金総額をその期間の総日数(暦日)で割ると計算できます。その際、臨時の賃金やボーナスなどは含まれません。解雇予告をしている場合には、予告期間の日数と予告手当の日数を合計して30日以上とします(例えば20日前の予告と10日分の予告手当など)。
 
なお懲戒解雇等、従業員の著しい非行での解雇という場合も、会社が解雇予告手当を払いたくないのなら、労働基準監督署に「解雇予告除外認定申請」等を提出し、認定を受けなければなりません。
 

不当解雇かどうかの見極めが重要

遅刻を繰り返すのは、従業員として反省しなければなりません。とはいえ、会社が解雇予告手当だけですぐ解雇できるわけではありません。会社の言うことを鵜呑みにするのではなく、解雇に正当な理由があるのか、行き過ぎた解雇ではないかをよく見極め、会社とよく話し合うなど適切な行動をとるようにお勧めします。
 

出典

e-Gov法令検索 労働基準法

e-Gov法令検索 労働契約法

 
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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