更新日: 2024.10.10 働き方
転職先で「陰気な印象で職場に合わない」と言われ、試用期間で解雇を告げられました。これって仕方ないのでしょうか?
しかし、試用期間といっても従業員は既に採用されています。試用期間中の解雇や、試用期間終了後の本採用拒否などは、会社が無条件にできるわけではありません。具体的な事例等も紹介しながら、どのような場合が不当な解雇や本採用拒否にあたるのか、そんなときに、従業員はどのように対応すべきかを説明します。
執筆者:玉上信明(たまがみ のぶあき)
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
目次
試用期間の法的性質
多くの会社では、入社後3ヶ月や6ヶ月程度の「試用期間」を置き、実際に従業員を就労させ、その人物や能力などの適格性を評価して、本採用するかどうか決めることがよく行われます。
ただし、試用期間の定めは、就業規則や雇用契約書などで明記されている必要があります。「試用期間中の勤務状況を観察した結果、従業員としての適格性を欠くことが明らかになったときは、本採用しないことがある」といった規定です 。
しかし、規則や契約書に明記しているからといって、会社は自由に解雇できるわけではありません。従業員は、本採用を期待して他の会社に就業する機会を放棄しています。会社が自由に解約できるのなら、従業員の地位は極めて不安定になります。
判例ではこの試用期間の意味を「労働契約は既に成立しているが、会社の解約権が留保されている」としています。すなわち、解約権の行使は「客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」のです(三菱樹脂事件判決)。「自由に解雇できるわけではない。解雇権を乱用してはいけない」という考え方です。
なお、試用期間と解雇について「試用期間中に解雇される」「試用期間終了時に本採用を拒否される」の2つの場合がありますが、いずれも「解雇権を乱用していないか」という視点でチェックされます。
では、解雇が認められたケース、認められなかったケースを具体的に見てみましょう。即戦力が期待される中途採用者の場合に、特に問題になることが多いようです。
解雇が認められたケース
次のようなケースで解雇が認められています。
●中途採用者でAランクとして高給で採用したが、仕事を積極的にせず、英語能力も不十分、上司の指示にも従わない。
●パソコン操作が得意というので採用したが、業務指示に速やかに応じず、パソコン能力も不十分。
●管理職として採用したのに、パワハラ、勤務態度不良、能力不足などが判明。
●新卒採用で十分に指導教育しているのに、単純ミスを繰り返し、他の新卒社員より明らかに能力が劣る。
解雇が認められなかったケース
次のようなケースでは、解雇が認められていません。
●会長に声を出してあいさつしなかった、といったさまつな理由。
●勤務態度不良とか能力不足があっても、指導教育すれば十分に改善が見込まれる。
なお、例えば、「陰気な印象で職場に合わない」という理由での解雇は無効になるでしょう。これについては、内定取消無効となった事案があります(大日本印刷事件判決)。「陰気な印象」として内定取消されましたが、そんなことは内定時にわかっていたはずで、後で内定取消の理由にするのはおかしい、という判断です。
判決文の中で「就労有無の違いはあるが、採用内定者の地位は、試用期間中の地位と基本的には異ならない」とされています 。内定取消も試用期間の解雇も「陰気な印象」は理由にならないのです 。
試用期間で解雇されたり試用期間終了後に本採用されなかったときの対応の仕方
それでは、試用期間の途中で解雇されたり、試用期間終了後に本採用されなかったりして、納得がいかない場合は、どう対応すればよいのでしょうか。
解雇の無効を争い復職を求める、あるいは、復職はあきらめ解雇の違法不当を前提に未払い賃金や慰謝料等の金銭解決を求める、といった方法が考えられます。いずれにせよ、会社との厳しい交渉が必要です。総合労働相談コーナーなどの公的機関や、弁護士など法律の専門家に相談することをお勧めします。
実務的には、次のような手順を踏みます。
(1)会社に就業規則を見せてもらって、前述の試用期間の定めがあることを確認します。
(2)解雇理由を記載した「解雇理由証明書」の交付を会社に求めます(労働基準法第22条。会社に交付義務があります )。
納得できる解雇理由でなければ、会社にさらに詳しい説明を求めます。能力不足や適性を欠く、というなら、具体的にどのような能力・適性に問題があったかなどを、詳しく確認しましょう。
試用期間中の会社からの教育・指導・注意や、上司や同僚とのやりとりなども、できる限り詳しく記録します。これらが解雇の有効無効や金銭解決についての有力な手がかりとなり得ます。
試用期間中の解雇を安易に受け入れないこと
「試用期間」という言葉から、会社の一存で解雇されてもやむを得ない、と勘違いしないでください。就職活動の中で「ぜひこの会社に勤めたい」という思いがあったはずです。解雇を告げられても、納得いかないならば、諦めず専門家の力も借りて会社と交渉してみましょう。
結局自分には合わない会社と分かったのならば、金銭解決を考えて、次の就職先を探すことも1つの選択肢です。いずれにしても自分が納得できるような行動をすることをお勧めします。
出典
裁判所 三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日判決)
裁判所 大日本印刷事件判決(最高裁昭和54年7月20日判決)
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執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー