更新日: 2024.10.10 働き方
育休取得後に職場復帰。時短勤務での賃金が上乗せ? 「育児時短就業給付(仮称)」の方向性を探る
2023年11月13日、厚生労働省の労働政策審議会(職業安定分科会雇用保険部会)が開かれ、「育児時短就業給付(仮称)」の創設について検討が始まりました。
この施策は同6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」に盛り込まれているもので、育児を理由とした時短勤務中に支払われる賃金について、一定の割合を上乗せして支給するなどの案が提示されています。
今回は育児時短就業給付(仮称)の概要のほか、具体的に検討されている内容や方向性について、厚生労働省が公開している資料を基に確認したいと思います。
※この記事は2023年11月30日時点の情報を基に執筆しています。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
育児時短就業給付(仮称)の制度概要
育児時短就業給付(仮称)は、以下のように制度の概要が示されています。
被保険者が、2歳未満の子を養育するために、時短勤務をしている場合に、賃金の低下を補い、時短勤務の活用を促すための給付を支給する。
出典:厚生労働省 「これまでの議論の整理と見直しの方向性(育児休業給付等)」
ここでいう被保険者とは、雇用保険に加入している労働者のことです。また、時短勤務(短時間勤務)とは3歳までの子どもを養育している場合、希望により労働時間を短縮して働くことができる制度で、現行では1日当たりの所定労働時間は原則6時間となっています。
会社員で雇用保険に加入している方が育児のために時短勤務を選択すると、労働時間を短縮することで収入が減ってしまうほか、その後のキャリアに影響を与える、育児や家事の負担が女性に偏ったままになりやすいなど、いくつかの課題が指摘されていました。
育児時短就業給付(仮称)について、制度の概要としては時短勤務による収入の減少に対する施策となっていますが、検討されている内容からは他の課題も解決するために、現行の時短勤務制度についても見直しを図り、育児を行う多くの労働者に時短勤務を利用してもらう目的があると考えられます。
具体的にどのような案が検討されているのか、以下で確認していきます。
育児時短就業給付(仮称)について検討されている案
育児時短就業給付(仮称)で検討される案の方向性として、厚生労働省の資料では「柔軟な働き方として、男女ともに、時短勤務を選択し、所定労働時間(又は日数)が減少することに伴う賃金の低下を補い、育児・家事を分担できるようにする」と示されています。
具体的には、以下のようなもの提案があります。
被保険者の要件は、現行の育児休業給付と同様(開始日前2年間にみなし被保険者期間が12ヶ月以上あること)としてはどうか。
柔軟な働き方を支える観点から、給付対象となる時短勤務の労働時間(又は日数)について、制限を設けないこととしてはどうか。
男女ともに時短勤務を活用した育児とキャリア形成の両立を支援し、休業よりも時短勤務を、時短勤務よりも従前の所定労働時間での勤務することを推進する観点から、就業促進的な給付設計とし、時短勤務中の各月に支払われた賃金額の一定割合を支給することとしてはどうか。
給付水準を設定するに当たっては、以下の点を考慮することとしてはどうか。
●職場を支えている他の労働者の理解を得ながら、希望する者が気兼ねなく時短勤務を取得できるようにすること。
●他の給付(高年齢雇用継続給付)と同様に、給付額と賃金額の合計が時短勤務前の賃金を超えないようにすること。
出典:厚生労働省 「これまでの議論の整理と見直しの方向性(育児休業給付等)」
これらの提案のなかで考え方として最も重要な部分は、雇用保険に加入している男女が対象となっている点です。夫婦で育児・家事を行い、同時にキャリア形成にも支障のないよう配慮して、働きながら子育てができる環境を整えようとしていることが見て取れます。
これを現実的なものにするために、時短勤務の労働時間や日数に上限を設けない、時短勤務中の賃金額に一定の割合を上乗せして支給する、給付額と賃金額の合計が時短勤務前の賃金を超えないようにバランスを取る、といった方向性で検討を行いながら課題の解決につなげようとしているようです。
簡単にまとめると時短勤務をした場合、(1)労働時間などに制限がなくなることで、より柔軟な働き方ができる、(2)勤務先から支払われる給与が減ったとしても、国からの給付があるので実質的な収入は減らない、というのが要点になるでしょう。
このように時短勤務を利用することで、男女が育児・家事と仕事を両立できるようになれば、労働者にとって育児時短就業給付(仮称)は非常に有意義な制度になるといえます。
ただし、職場での制度への理解がどこまで進むかという問題もあります。収入や働き方の面で子育てを支援する制度ができたとしても、職場の周知がなければ浸透するのは難しいでしょう。また、人手不足の問題から、現実的には制度を利用しづらいという意見が出ることも当然考えられます。
まとめ
国は育児時短就業給付(仮称)について、2025年度からの実施を目指しています。実際に制度が開始され、広く周知されるには時間がかかり、また夫婦共働き・共育ての観点でいえば足りない部分はあるものの、従来と比べて子育て支援はさらに前進することが期待できます。
出典
厚生労働省 これまでの議論の整理と見直しの方向性(育児休業給付等)
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)