更新日: 2024.10.10 働き方
以前は有休で「1日9000円」もらえたのに、先月分は「6000円」しか支払われませんでした。「損」したようで納得いかないのですが、こんなことってアリなんでしょうか…?
本記事では、パート労働者が年次有給休暇を取得したときの賃金について解説します。
執筆者:橋本典子(はしもと のりこ)
特定社会保険労務士・FP1級技能士
有給休暇を取った日の賃金
年次有給休暇を取得した日の賃金の計算方法は、3種類あります。順にみていきましょう。
所定労働時間分(通常の賃金)から算出
年次有給休暇を取得した日に「もし出勤していたら支払われた賃金」を支払う方法です。時給制の場合は「時給×所定労働時間」で計算した金額になります。この方法は、賃金計算が簡易で、労働者の納得感も得られやすいため広く使われています。
平均賃金
有休取得時の賃金計算方法として「平均賃金」を用いることもあります。平均賃金とは、労働基準法に定められた計算方法である「直近3ヶ月間の賃金÷その期間の総日数」で算出された金額のことです。
なお日給、時間給、出来高払いの場合は、最低保証額(3ヶ月間の総支給額を労働日数で割った額の6割)と比べ、高い方を採ります。平均賃金は毎月変動するため、労働者が年次有給休暇を取得する度に、平均賃金を計算し直す必要があります。
標準報酬日額
健康保険の標準報酬日額を使う方法もあります。標準報酬日額とは、標準報酬月額を30で除した額です。
この方法を用いるには、労使協定を締結する必要があります。また社会保険に加入していないパートの場合には適用できません。そうした理由により、ほかの2つの計算方法に比べて、使用されることは少ないようです。
所定労働時間が複数あるパート
日によって所定労働時間が異なるパートの場合、年次有給休暇取得日の賃金は、具体的にいくらになるのでしょうか。
所定労働時間働いた場合の賃金で計算すると
月曜日の所定労働時間を「8時間」、それ以外の曜日は「5時間」のパート労働者(時給1200円)を想定して、計算してみましょう。
月曜日に有休を取った場合:1200円×8時間=9600円
それ以外の曜日に有休を取った場合:1200円×5時間=6000円
このように、有休を取得する曜日により、1日3600円もの差が生じます。「休んだ曜日によって賃金が違うのは不公平だ」と思うかもしれませんが、所定労働時間が曜日によって異なる以上、仕方がありません。その点、平均賃金を用いると、どの曜日に有休を取得しても支払われる賃金は同額です。
平均賃金で計算すると
平均賃金は「所定労働時間労働した場合の通常の賃金」に比べ、低額になる傾向があります。なぜなら図表1のように、平均賃金の原則的な計算には「総日数」を使うからです。
図表1
厚生労働省 平均賃金(労働基準法第12条)
総日数とは総暦日数のことで、所定休日が含まれています。分母が大きくなるため、1日あたりの賃金が低めに算定されるのです。なお、労働日数が非常に少ない場合などは、上の計算をすると不相応に低い金額になるため、最低保証額を算出し、高い方を平均賃金とします。
最低保証額=直近3ヶ月間に支払われた賃金総額/3ヶ月間の労働日数×0.6
賃金計算方法は就業規則等で規定
年次有給休暇を取得した日の賃金については、就業規則等で3つの方法から1つの計算方法を定めます。「この人は所定労働時間労働した通常の賃金」「この人は平均賃金」というように、労働者ごとに計算方法を変えることはできず、また労働者が自分で選ぶこともできません。
まとめ
年次有給休暇を取得した日の賃金計算方法は3種類ありますが、最もよく使われるものが「所定労働時間労働した場合の賃金(通常の賃金)」です。この方法だと、日によって所定労働時間が異なる場合は有休1日あたりの賃金額が変わるため、支払われる金額の違いに戸惑う労働者がいるかもしれません。
しかし事務処理の手間がかからず、賃金も低額にならないことから、最も広く用いられています。それでも「年次有給休暇分の賃金が低すぎる」と思ったら、就業規則等を確認してみましょう。
出典
e-Gov法令検索 労働基準法
e-Gov法令検索 労働基準法施行規則
厚生労働省 平均賃金(労働基準法第12条)
厚生労働省 年次有給休暇のポイント
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士