先輩社員が「会社支給のスマホ」で頻繁にゲーム。業務時間なのに許される? 給料は発生していると思うのですが……
配信日: 2024.04.30 更新日: 2024.10.10
今回は、職務専念義務および懲戒処分について解説するとともに、社内通報制度を紹介します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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職務専念義務とは
会社員の職務専念義務は、法律に定められたものではなく、通常は雇用契約や就業規則に規定されています。一方、公務員は、法律により職務専念義務が規定されています。
1.国家公務員の職務専念義務
公務員の例として、国家公務員のケースで確認しましょう。国家公務員の職務専念義務については、国家公務員法第101条に「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と規定されています(※1)。
2.会社員の職務専念義務
会社員の場合は、職務専念義務が規定された法律はありません。しかしながら、労働契約の締結と同時に、職務専念義務が発生するものと考えられます。
3.職務専念の程度
それでは、職務専念義務は、職務を全ての私的行為に優先しなければならないのでしょうか。
例えば、業務時間中にトイレに行く行為や、給湯室にお湯くみに行く行為まで制限することは、逆に違法と判断される可能性があります。
一方で、会社のパソコンやスマホを使った有害サイトの閲覧やゲームはもちろんのこと、たとえ私物のスマホでも、業務時間中に大量のメール送信やSNSを用いた情報発信を行う行為などは、懲戒処分の対象になると考えられます。
懲戒処分とは
懲戒処分とは、業務専念義務違反など企業秩序や職務規律に違反する行為に対して行われる制裁罰で、人事院規則や労働基準法などに規定されています(※2、3)。
人事院規則には、懲戒の種類として停職、減給、戒告の3種類が規定されています(※2)。また、労働基準法では、就業規則に制裁規定を記載することが定められており、減給の額が規定されています(※3)。
社内通報制度とは
業務時間中に社用のスマホを用いてゲームを行うことは、明らかに業務専念義務違反に該当するものと思われます。それでは、その行為を見た社員が、会社に伝えるべきでしょうか。また、伝えるとして、どのような手段で伝えるべきなのでしょうか。
例えば、企業が企業内の不正を早期に発見して、企業と従業員を守るための手段として、組織内の不正行為に関する通報・相談を受け付け、調査・是正する「内部通報制度」があります(※4)。
また「公益通報者保護法」では、従業員が300人を超える企業は、内部通報制度を整備することが義務付けられており、300人以下の企業でも内部通報制度を整備することに努めるとされています(※5)。
この法律では、正社員はもとより、アルバイトやパートタイマーも通報者として保護される対象となります。この法律で公益通報の対象となるのは、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」に関わる関係法令に規定する犯罪行為、過料対象行為、または刑罰もしくは科料につながる行為です。
なお、公益通報の対象とならないものの、自社の内部規定違反に関する通報や相談についても、積極的に受け入れて調査・是正することが望まれています。
まとめ
業務時間中に社用のスマホを用いてゲームを行っている社員は、業務専念義務違反に該当するものと判断され、懲戒処分の対象となります。
その行為を発見した社員が会社に伝えるべきか否かは判断に迷うところですが、伝えるべきと判断した場合は、社内に内部通報制度が整備されている場合は、この制度を用いて通報するとよいでしょう。
出典
(※1)法令検索e-Gov 国家公務員法
(※2)法令検索e-Gov 人事院規則1210(職員の懲戒)
(※3)法令検索e-Gov 労働基準法
(※4)政府広報オンライン 組織の不正をストップ!従業員と企業を守る「内部通報制度」を活用しよう
(※5)法令検索e-Gov 公益通報者保護法
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士