更新日: 2024.06.18 働き方

複数の会社で働いています。社保加入の条件に当てはまると「複数の厚生年金保険料」を天引きされるのですか?

複数の会社で働いています。社保加入の条件に当てはまると「複数の厚生年金保険料」を天引きされるのですか?
働き方の選択肢が増えるなか、社会保険の加入の可否についての相談が増えています。社会保険料の負担は、手取り額に影響するため、自分の場合はどうなのか悩まれるようです。
 
また、複数の会社で勤務する方の場合、それぞれから天引きされることに疑問を持ったり、金額が適正な額なのか知りたいといったケースも見られます。
 
とくに、厚生年金は将来の年金受給に影響を及ぼすため、適正に加入し、金額についても納得しておきたいものです。今回は、社会保険制度の概要を整理するとともに、加入要件、複数の会社で働く場合の保険料の計算方法についてお伝えします。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP🄬認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

社会全体で支える「社会保障制度」

社会保険には、病気やケガに備える健康保険、老後や障害状態に備える年金保険、介護に備える介護保険、失業などに備える雇用保険、業務上の災害などに備える労災保険の5種類があります。これらは社会生活におけるさまざまなリスクに備えるための公的な保険制度です。
 
社会保険への加入にあたっては、社会保険の「適用事業所(もしくは任意適用事業所)」といった会社の要件とともに、雇用形態、勤務時間などによる従業員の要件で対象の可否が決められています。
 
基本的には、社会保険が適用される会社に雇用される従業員、つまり、労働の対価として賃金を得る人であれば、社会保険の被保険者となり、従業員と事業主との労使折半で社会保険料を負担します。
 
厚生年金保険は70歳未満、健康保険は75歳未満、介護保険は40歳以上65歳未満の人が対象となり、従業員負担分は、給与および賞与から従業員負担分が差し引かれます。
 
なお、健康保険については、75歳以降は「後期高齢者医療保険」へ移行、介護保険については、65歳以降は「第1号被保険者」となり、負担や納付方法が変わります。
 
従業員の要件において、会社の就業規則に定められた勤務時間等にもとづいて従事するフルタイムの「通常の労働者」は基本的に加入するため問題ないのですが、パートやアルバイトなどの「短時間労働者」の場合は、加入の可否の判別が分かりづらいかもしれません。
 

パートやアルバイトなど「短時間労働者」の社会保険加入要件

パートやアルバイトなどの「短時間労働者」については、以下の条件のいずれかを満たす場合には、社会保険の加入対象となります(※1、2)。


■1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上
■フルタイムの正社員の4分の3未満でも、以下の(1)~(5)のすべてを満たす場合
 
(1)週の所定労働時間が20時間以上
(2)賃金の月額が8万8000円以上
(3)2ヶ月を超える雇用の見込みがある
(4)学生ではない
(5)従業員数101人以上の企業(2024年10月以降は51人以上の企業へ対象拡大)

*従業員数とは、フルタイムの従業員および週労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数で、現在の社会保険加入対象者数です。

社会保険適用の範囲は、段階的に拡大されており、2024年10月にはさらに拡大予定のため、今後は、社会保険の被保険者の数は増えていくことが見込まれます。
 
一方で、複数の会社で勤務していても、それぞれの雇用契約がいずれも要件を満たさない短時間勤務であれば、原則として、社会保険加入の対象外です。その場合には、個人で国民健康保険・国民年金保険に加入しなければなりません。
 

複数の会社での勤務で、いずれも社会保険の適用に該当する場合

最近では、働き方が多様化しており、複数の会社での勤務するケースも増えてきました。また、会社の方針で関連会社の業務に関わり、双方から報酬が支給されるケースも見られます。
 
例えば、A社とB社いずれも社会保険の加入要件を満たす場合には、両方で社会保険に加入することになります(※3、4)。
 

2ヵ所以上で働き、どちらも社会保険の加入要件を満たす場合の手続き

複数の会社で勤務し、いずれも社会保険の加入要件を満たす場合には、該当することとなった日から10日以内に、いずれかを「主たる事業所」として選択したうえで、被保険者自身が日本年金機構(送付先は年金事務所または事務センター)へ届出を行う必要があります。
 
被保険者が提出するのは「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」という届出書です。
 

2ヵ所以上で働き、どちらも社会保険の加入要件を満たす場合の保険料

管轄する年金事務所では、双方の報酬額を合算し、標準報酬月額を決定します。算出された保険料は、それぞれの会社の報酬割合に応じて双方で負担します。
 
例えば、A社とB社で勤務(いずれも社会保険加入対象)している場合
 
A社 報酬月額20万円 + B社 報酬月額10万円 = 合算した報酬月額30万円
 
標準報酬月額30万円の場合の厚生年金保険料(被保険者負担)は、2万7450円であるため、
 
A社での保険料負担は、2万7450円 × 20万円/30万円 = 1万8300円
B社での保険料負担は、2万7450円 × 10万円/30万円 = 9150円

 
上記の計算により、それぞれの勤務先から差し引かれる(負担する)ことになります。
 

まとめ

せっかく収入を増やそうと副業(複業)しても、そちらでも社会保険料が差し引かれることにガッカリすることがあるかもしれません。ただし、上記の厚生年金保険料のほか、健康保険料や介護保険料(40歳以上)などの社会保険料は、労働者(雇用される人)だけでなく、事業主(雇用する人)も折半で負担しています。
 
こうした届出や割合に応じた負担は、複雑で面倒ですが、病気やけが、そして将来の年金受給などへの備えとして、適正であるべきこと、そして負担責任を明確にするためでもあることを理解しておきたいものです。そのためにも、副業で社会保険の要件に該当する場合は、忘れずに届け出を行うようにしましょう。
 

出典

(※1)日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大 3、短時間労働者の概要
(※2)日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内
(※3)日本年金機構 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き
(※4)厚生労働省・日本年金機構 兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務する皆さまへ
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士

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