転職先で「経理担当」で内定をもらったのに、入社後に「しばらくは営業をお願いしたい」と言われました。年収は「500万円」で通知書のとおりなのですが、こんなときどうすれば良いのでしょうか…?

配信日: 2024.09.10 更新日: 2024.10.10

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転職先で「経理担当」で内定をもらったのに、入社後に「しばらくは営業をお願いしたい」と言われました。年収は「500万円」で通知書のとおりなのですが、こんなときどうすれば良いのでしょうか…?
会社が従業員を採用するときには、労働条件通知書で労働条件を明示しなければなりません。業務内容もその1つです。入社時に労働条件通知書と待遇が異なっていた場合には、救済措置が明確に定められています。募集時にも重要な労働条件の明示が義務付けられています。
 
最近の法改正で労働者保護の仕組みはさらに強化されています。実際の問題発生時の相談先・対応策も含めて解説します。
玉上信明

執筆者:玉上信明(たまがみ のぶあき)

社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

業務の内容・就業の場所は、募集時にも正式採用時にも明示が必要

事業主は、募集時と採用時に、入社時に従事すべき業務、就業の場所(勤務地)を明示しなければなりません。2024年4月からは、入社後の業務範囲や勤務地などの変更の範囲も明示することが定められました。すなわち、配属先と異動の範囲の明記が義務付けられているのです(労働基準法第15条1項、労働基準法施行規則第5条)。
 
育児や介護などさまざまな事情で、勤務地や勤務時間等に制約のある人材がいます。また、高度専門的なキャリア形成が必要な職務なら、プロフェッショナルとしてキャリア展開していく働き方が望まれるでしょう。
 
勤務地、職務、勤務時間を限定した「多様な正社員」について、労使双方にとって望ましい形で普及を図る、という政府の方針によるものです。
 
これまでも、入社時の勤務地・業務内容については明示が必要でしたが、2024年4月以降は入社後の異動の範囲についても明示が必要とされたのです。モデル労働条件通知書の該当部分は図表1のとおりです。
 
図表1

図表1

厚生労働省 モデル労働条件通知書(抜粋)
 

労働条件付通知書と実際の労働条件が違う場合には即時退職も可能

労働条件通知書で明示された勤務地・業務内容と、実際に入社したときの勤務地・業務内容が異なっていた場合には、直ちに退職することもできます。
 
就業のために住居を変更していたなら、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、会社は帰郷旅費を負担する義務があります(労働基準法第15条3項)。
 
会社が労働条件の明示義務を怠ったり、会社が帰郷旅費を負担しなかったりした場合には罰則が科されます(労働基準法第120条)。
 

約束していた業務と命じられた業務が異なっていた場合の対応

経理担当のプロフェッショナルとしてキャリア形成を望んでいた人が、入社後に「しばらくは営業をお願いしたい」と言われた場合、どうすべきでしょうか。
 
まず「採用内定時には希望通り経理担当」ということですが、労働条件通知書の「従事すべき業務の内容」をもう一度しっかり確認してください。本当に経理担当と明確になっているでしょうか。
 
(雇入れ直後)あるいは(変更の範囲)で「会社の定める業務」などといった包括的な記載になっていると、経理担当に業務が限定されているとはいえなくなります。内定前までにしっかり確認しておく必要があったのです。
 
労働条件通知書で明確に経理担当と記載されているのに、実際に命じられた業務が異なっているのなら、会社に説明を求めましょう。会社の説明に納得できない場合、直ちに退職することも可能です。就業規則等で退職の場合は1ヶ月前の予告が必要、などと記載されていても気にする必要はありません。前記の労働基準法の定めが就業規則に優先します。
 
「勝手に辞めるなら損害賠償請求する」などと言う会社もあるかもしれませんが、根拠のない脅しです。法令の定めに反し、約束を守らなかったのは会社側です。なお、会社に説明を求めても応じてくれないなら、不誠実な対応であり、退職を検討するのも良いでしょう。
 
もっとも、会社にも中途採用した有望な人材の育成についての考えがあるでしょう。会社の説明に納得し、合意したならば、それが労働条件となります。その場合も、将来のキャリア形成について納得いくまで説明を求めてください。
 

募集時にも労働条件の明示は求められている

なおこのような労働条件の明示は、会社が労働者を募集する場合や職業紹介事業者に求人の申込みをする際にも、義務づけられています。求人広告のスペースが足りないといったことから「詳細は面談時にお伝えします」ということは許されますが、この場合も、次の対応が必要とされています。

●原則として面接などで求職者と最初に接触するまでに、全ての労働条件を明示する
●面接等の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、変更内容を明示する

求職者としては、労働条件がすべて明らかになっているか、正式内定までに面接等で求人企業に確認することが大切です。なお、このような基本的なルールも守れない会社なら、そもそも転職先としてふさわしいかどうか、考え直すべきです。
 

自身のキャリア形成は、自身で道を切り開くべき

現在の労働法や政府の方針は、業務を限定してキャリアアップを図りたいといった労働者の希望をできる限り尊重しようとしています。
 
とはいえ会社の中には、従来のように、入社すれば会社が意のままに担当業務も勤務地も決定できる、と思い込んでいる人もまだまだ多いようです。
 
そのような思い込みに引きずられることなく、自身のキャリア形成は、自身の責任で主張するべきです。必要があれば総合労働相談コーナー、労働条件相談ほっとライン、労働基準監督署等の公的機関等に相談することも、1つの選択肢でしょう。
 

出典

e-Gov法令検索 労働基準法
e-Gov法令検索 労働基準法施行規則
厚生労働省 モデル労働条件通知書
厚生労働省 求職者の皆さま 企業から受ける労働条件明示のルールが変わります!
 
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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