年収1000万円の手取り額はどうしてこんなに少なくなるの?

配信日: 2021.07.12 更新日: 2022.10.13

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年収1000万円の手取り額はどうしてこんなに少なくなるの?
年収1000万円。サラリーマンの人にとっては「大台」となる数字として、特別に感じられることも少なくないのではないでしょうか?
 
また、年収1000万円を目標にして頑張っている人もいるかもしれません。しかし年収1000万円でも、その手取り額となると、まただいぶ違った数字になるようです。
小山英斗

執筆者:小山英斗(こやま ひでと)

CFP(日本FP協会認定会員)

1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ

人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。

「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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年収1000万円以上の人ってどれくらいいるのでしょう?

年収1000万円というと一般的には高収入といわれています。では、年収が1000万円以上の人はどのくらいいるのでしょうか? ここでは給与所得者(サラリーマン)の収入について見ていきます。
 
国税庁の「民間給与実態統計調査」(令和元年分)によれば、年収が1000万円超の人は給与所得者全体の4.8%となっています。全給与所得者約5255万人のうち約256万人(男性約229万人、女性約27万人)が該当します。100人いたら約5人は年収1000万円以上ということになります。多いと感じるでしょうか、少ないと感じるでしょうか?
 
一般的にサラリーマンであれば、年齢や勤続年数とともに年収は上がっていく傾向にあります。同調査によれば令和元年の平均給与は約436万円(男性約540万円、女性約296万円、ともに平均年齢46.7歳)ですが、年齢とともに以下のように年収1000万円に近づいていくことが分かります。
 

出典:国税庁 「令和元年分 民間給与実態統計調査 -調査結果報告-」
 
ちなみに、高い年収を得るためには、平均給与の高い業種で働くことがその可能性を上げる手段の1つともいえますが、同調査結果によると平均給与が高い業種の上位3つは「電気・ガス・熱供給・水道業」の平均824万円、「金融業・保険業」の同627万円、「情報通信業」の同599万円となっています。
 

年収が多いほど手取り額の割合が少なくなる?

「年収」と「手取り」はどう違うのでしょう。一般的にサラリーマンの場合、年収とは会社から支給されるお金の総額です。基本給や、残業手当・家族手当・通勤手当などといった各種手当、そして賞与(ボーナス)を含めた総額となります。
 
一方、手取りは年収から社会保険料や税金などが引かれたあとの金額になります。社会保険料には厚生年金保険料や健康保険料、雇用保険料、介護保険料(40歳以上が対象)、税金には所得税や住民税があります。
 
年収から引かれる保険料や税金は、所得税以外は収入に対してある程度一律の割合で計算されます。例えば、厚生年金保険料と健康保険料の合計は給与収入(標準報酬月額)の約15%、雇用保険料は約0.3%、住民税は課税所得の約10%などといった感じです。
 
これに対して所得税は「累進課税制度」となっています。所得税は年収が多くなるほど税率が高くなっていくため、引かれる所得税も増えていきます。このことが、年収の増え方に対して実際の手取り額が同じようには増えてはいかない大きな要素となります。
 
国税庁が提示している所得税の速算表からも、「課税される所得金額」が大きいほど税率が高くなっていることが分かります。なお、課税される所得金額は収入が給与収入だけの場合、下記のように計算します。
 

(1)給与収入-給与所得控除-所得金額調整控除=給与所得金額
(2)給与所得金額-所得控除(扶養控除、医療費控除など)=課税所得金額

 

出典:国税庁 「No.2260 所得税の税率」(平成27年度分以降)
 
所得金額が4000万円以上だと所得税率が45%にもなっています。住民税の10%と合わせると55%となり、「高い収入だと税金で半分持っていかれる」といわれるゆえんの1つとなっています。
 

年収1000万円の手取り額は?

では、年収1000万円の人の手取り額はいくらぐらいなのでしょう。実際の手取り額は、扶養している家族がいるかどうかで変わってくる配偶者控除や扶養控除、そしてその他の所得控除などにも影響されます。
 
ここでは独身(配偶者なし、扶養親族なし)で介護保険第2号被保険者に該当し、所得控除は基礎控除のみということでおおよその手取り額を試算してみます。
 

年収 手取り額 年収と手取り額の差
(年収-手取り額)
年収に対する
手取り額の割合
900万円 約656万円 244万円 約72.9%
1000万円 約722万円 278万円 約72.2%
1100万円 約786万円 314万円 約71.5%

※厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料は協会けんぽの東京都の保険料額表を参考にし、雇用保険料は月給の約0.3%、住民税は課税所得の約10%とし、所得税は「所得税の速算表」を用いて筆者試算
 
この表から分かることは、年収が増えるほど年収と手取り額の差が大きくなっているということです。その結果、例えば年収が900万円から1000万円へと100万円増えても、手取り額の増加額は約66万円(722万円-656万円)にとどまります。
 
そして年収が1000万円から1100万円に同じく100万円増えた場合の手取り額の増加額は約64万円と、その増加幅はさらに小さくなっています。
 
ちなみに、平均給与約436万円の年収に対する手取り額の試算では約340万円となっており、年収と手取り額の差は約96万円です。年収に対する手取りの割合は約78.0%です。
 
年収1000万円の人は平均給与年収(約436万円)の人の約2.3倍の年収を得ていて、その差は564万円です。しかし、手取り額で比較すると約2.1倍となっていて、その差は382万円(722万円-340万円)です。
 
年収の差額(564万円)と手取りの差額(382万円)の開きは実に182万円です。年収が増えるほどには豊かさの実感が比例して増えない要因の1つは、この差にあるのかもしれません。
 

手取り額をしっかり把握して適正な家計管理をしましょう

収入と同じようには手取り額も増えるわけではないことを見てきました。
 
年収1000万円というと、ちょっとしたステータスを感じて支出に対する気持ちが緩んでしまう人もいるかもしれません。金融広報中央委員会が実施した「家計の金融行動に関する世論調査」(令和2年)によれば、年収1000万円以上の単身世帯で、金融資産を保有していないと回答した人の割合が約24%という調査結果もあります。
 
実際の手取り額をしっかり把握して、適正な家計管理をしていきましょう。
 
出典
国税庁 「令和元年分 民間給与実態統計調査 -調査結果報告-」
国税庁 「No.2260 所得税の税率」
金融広報中央委員会 「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和2年調査結果」
協会けんぽ 東京都「令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
 
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)

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