更新日: 2023.03.15 年収
【年収の壁】「月収10万円」のパートで社会保険に加入。5年働くと「年金額」はいくら増える?
執筆者:小山英斗(こやま ひでと)
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ
人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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パート収入における社会保険や税金の壁とは?
パートで働く人は「103万円の壁」や「130万円の壁」といった言葉を聞いたことがあるかと思います。この「壁」とは、年間収入が一定以上になると、税金や社会保険料に影響する数字を示したものです。
「〇〇〇万円の壁」は4つあります。また、壁の種類を大きく分けると「税金の壁」と「社会保険の壁」の2つに分類でき、簡単にまとめると図表1のようになります。
図表1
103万円の壁 | 税金の壁 | 年収が103万円を超える越えると、所得税が発生する。 また、配偶者(納税者)の税金の控除である「配偶者控除」(控除額38万円)が適用されなくなる。 なお、企業会社によっては扶養手当(配偶者手当)の支給条件を、この壁の年収以下としているケースも多い。 |
106万円の壁 | 社会保険の壁 | 一定規模以上の会社でパートやアルバイトをする場合、勤務先で社会保険への加入義務が生じる。 |
130万円の壁 | 社会保険の壁 | 年収が130万円を越えると、勤務先の規模にかかわらず、社会保険への加入義務が生じる。 |
150万円の壁 | 税金の壁 | 年収が103万円超150万円以下であれば、満額(38万円)の「配偶者特別控除」を受けることが可能(ただし控除を受ける納税者の収入要件もあり)。 150万円を越えると配偶者特別控除が満額から段階的に少なくなり、201万円で控除額はゼロとなる。 |
筆者作成
なお、住民税は所得税と算出方法が異なります。自治体によって違いはありますが、多くの場合で年収100万円を超えると住民税が発生する可能性があります。
106万円の壁は勤務先の規模によって社会保険への加入義務が生じる
パートの収入が年間で130万円を越える場合は、被扶養者の対象から外れて社会保険への加入義務が生じ、勤務先で社会保険(厚生年金、健康保険)に加入、もしくは自分で国民年金と国民健康保険に加入することになります。
ただし、2016年10月から始まった「社会保険適用拡大」により、勤務先の規模によっては、収入が月額で8万8000円以上ある場合も社会保険の加入対象になりました。月収8万8000円×12ヶ月で年間収入105万6000円となり、これがいわゆる「106万円の壁」です。
勤務先の規模の条件は図表2のようになっています。
図表2
2016年10月~ | 2022年10月~ | 2024年10月~ | |
---|---|---|---|
従業員数 | 501名以上 | 101名以上 | 51名以上 |
筆者作成
2023年2月時点では、「勤務先の従業員数」が101名以上の規模であれば社会保険の加入対象となり、2024年10月にも従業員数の引き下げが予定されています。
そのため、現在は勤務先の規模が適用対象外で社会保険の加入対象となってない人も、従業員数の引き下げの実施とともに、収入が変わらなくても社会保険の加入対象になる可能性があるので注意が必要です。
この社会保険適用拡大には、勤務先の規模や収入以外にも以下の条件があります。
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない
月収10万円で将来増える年金額
パート勤務で月収10万円の人が社会保険に加入することで、将来受け取れる年金額がどのくらい増えるのかを確認します。
月収10万円を年間収入にすると120万円です。「130万円の壁」には届いていませんが「106万円の壁」には該当しますので、勤務先が社会保険の適用対象であり、収入以外の条件も満たしていれば社会保険への加入義務が生じます。
勤務先の社会保険に加入するということは、年金では厚生年金に加入します。厚生年金に加入することで、老齢年金は基礎年金部分に加えて「報酬比例部分」の年金額が増えることになります。
図表3
※年金額は概数であり、実際の金額とは異なります
厚生労働省 「社会保険適用拡大ガイドブック」
図表3からも分かるとおり、例えば月収10万円(年間給与120万円)で厚生年金の加入期間が5年の場合、増える年金額は目安として月額2500円となります。年間では3万円の増額です。
60歳以降での厚生年金への加入で年金額をさらに増やせる場合もある
老齢基礎年金は20歳から60歳になるまでの40年の加入期間で、すべての国民年金保険料を納めていた場合に満額で受給できます。
60歳になるまでに国民年金保険料の未納分がある場合、60歳以降に厚生年金に加入することで、老齢厚生年金の経過的加算額が支給されることにより、未納分を穴埋めすることができます。60歳以降での厚生年金の加入期間1年当たりの経過的加算額は、目安として月額約1600円です。
なお、60歳から65歳未満で要件を満たす場合、国民年金に任意加入し、保険料納付期間を増やして老齢基礎年金を満額に近づけるといった方法もあります。
月収10万円の厚生年金保険料
厚生年金に加入することで将来の年金額が増えるメリットがありますが、一方で年金保険料を支払う必要も生じます(図表4)。
図表4
※年金保険料は概数であり、実際の金額とは異なります
厚生労働省 「社会保険適用拡大ガイドブック」
例えば、会社員の夫(第2号被保険者)の扶養に入っていた妻(第3号被保険者)の場合、保険料は夫が加入している厚生年金が一括して負担していたため、自身で納める必要がありませんでした。
しかし、月収10万円(年間給与120万円)のパート勤務となり、夫の扶養から外れて社会保険に加入した場合、保険料は上記表のように目安として月額9000円の負担が新たに生じます。
また、夫が自営業者などの場合では、それまで国民年金(令和4年度の月額保険料は1万6590円)に加入していた妻(第1号被保険者)がパートの勤務先で社会保険に加入することで、保険料が安くなる場合もあります。
なお、厚生年金保険料は勤務先との折半となっており、給与から天引きで勤務先が納付を行います。
まとめ
勤務先で社会保険に加入すると、厚生年金では将来受け取れる年金額が増えるといったメリットのほかにも、要件を満たせば遺族基礎年金と遺族厚生年金を併給できるなど、万が一の保障がより手厚くなります。
また同時に、勤務先が所属する「健康保険」への加入も伴いますが、国民健康保険にはない「傷病手当金」や「出産手当金」を受けられます。保険料の負担により手取りが減る場合もありますが、社会保険に加入するメリットも確認しながら働き方を検討するようにしましょう。
出典
厚生労働省 社会保険適用拡大ガイドブック
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)