更新日: 2023.10.06 年収

転職先で「うちは年俸制だから残業代はつかないよ」と言われましたが、本当に支払われないのですか? ブラック企業なのでしょうか?

転職先で「うちは年俸制だから残業代はつかないよ」と言われましたが、本当に支払われないのですか? ブラック企業なのでしょうか?
1年間の給与総額をあらかじめ決定し、分割した額を毎月支払う「年俸制」ですが、残業代の扱いはどうなるのでしょうか。「年俸制でも残業代は当然に支払う」との意見もあれば、「年俸制の場合、残業代は別途支払う必要はない」と考える経営者もいるようです。
 
この記事では、年俸制と残業手当について解説します。
橋本典子

執筆者:橋本典子(はしもと のりこ)

特定社会保険労務士・FP1級技能士

「年俸制は残業手当がつかない」は誤り

年俸制でも、法定労働時間を超えて働いた場合は残業手当が支払われます。
 

年俸制でも残業手当は支払われる

年俸制とは、賃金の総額を年単位で決定する制度です。「年俸は○○万円」と1年間の賃金総額を決めるもので、成果主義と相性が良いといわれています。
 
そして年俸制であっても他の制度と同様に労働基準法が適用され、当然ながら残業手当も支払われます。
 

年俸制で残業手当が支払われないケースは

ただし年俸制でも、残業代が支払われないことがあります。それは次のようなケースです。
 

固定残業手当が設定されているとき

年俸の一部に、固定残業手当が組み込まれている場合は、別途の残業手当は支払われません。ただし固定残業手当で決められている時間を超えて働いた場合は、超過分の残業手当が別途支払われます。
 

みなし労働時間制が適用されるとき

みなし労働時間制とは、実際の労働時間にかかわらず「○時間働いたものとみなす」制度で、事業場外みなし労働時間制、専門業務型裁量労働制などがあります。
 
この制度では、みなし時間が法定労働時間内の場合、実際に法定労働時間を超えて働いたとしても、残業手当は支払われません。ただし、みなし時間がもともと法定労働時間を超えているときは、超えた時間分の残業手当が支給されます。
 
なお、みなし労働時間制は、固定残業手当とセットで使われることがあります。この場合、前述の「みなし時間が法定労働時間を超えているため発生した残業手当」が固定残業手当でまかなえるときは、残業手当が別途支払われることはありません。
 
以上のように、これらのケースに該当すれば、たとえ年俸制でなくても残業手当は支払われません。つまり年俸制だからといって、残業手当について特別扱いはされないのです。
 

誤解の多い年俸制の残業手当

それでも世の中「年俸制だから残業代は支払わなくてよい」と誤解している経営者は少なくないのが現実のようです。
 

年俸が高くても残業代がゼロだと働き損に

仮に、年俸600万円で1ヶ月に40時間残業したら、残業手当は1年で178万円を超えます。冒頭の「年俸制だから残業代は出ないよ!」というブラックな会社では、これだけの額が「働き損」になってしまうのです(年間所定労働時間を2016時間として計算しています)。
 
ちなみに、年間の賃金480万円の人が同じ条件で残業し、残業手当がきちんと支払われた場合、残業代を含めた賃金総額は622万円を超え、前述のブラックな会社と逆転します。
 

契約前によく確認する

「残業代が出ない」会社で働いた場合でも、しかるべき所に相談すれば、未払残業代を払ってもらえる可能性があります。しかしそうした手続きを取れば、会社と従業員との関係は少なからず悪化し、働きにくい環境になるかもしれません。
 
そうならないためには、年俸制下の残業手当について誤解が多い現実を考慮し、年俸制の場合は特に、賃金面をはじめとする労働条件を事前によく確認することが大切です。
 

まとめ

年俸制とは、1年単位で賃金を決定する制度です。賃金の決め方が年単位だというだけで、残業手当の適用が除外されるわけではありません。
 
しかし「年俸制だから残業代を出さなくてよい」と誤解している経営者もまだ少なくないため、後々のトラブルを避けるためには、契約の前に特に賃金面について、よく確認したほうがよいでしょう。
 

出典

厚生労働省 年俸制賃金関係

 
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士

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