更新日: 2023.11.16 年収
物価上昇に見合う賃上げが実現!? 「実質賃金」と「最低賃金」の推移を見てみよう
この記事では、私たちに身近な賃金を考える場合に影響を及ぼす指標である「実質賃金」と「最低賃金」について、その概要やこれまでの推移などを確認してみたいと思います。
執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
実質賃金の推移
「実質賃金」とは、給与所得者等の所得税、社会保険料等を差し引く前の「現金給与総額(退職金は含まない)」と物価変動(消費者物価指数)との関係を示す指標です。この実質賃金は、現金給与総額(指数)を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で除して算出され、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」として公表しています。
図表1は、実質賃金、現金給与総額、消費者物価指数の過去の推移を表したものです(消費者物価指数は、総務省が公表している消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比を示しています)。
※令和5年6月は速報値のため、令和5年5月(確報値)を掲載
毎月勤労統計調査 令和5年6月分結果速報より筆者作成
現金給与総額については、おおむね上昇傾向にあり、令和4年度以降に特に顕著に上昇している結果となっています。その一方で、消費者物価指数も上昇傾向にあり、同じく令和4年度以降にその上昇が顕著となっています。さらにこの指数は、現金給与総額の上昇率を上回る数値となっています。そのため、結果的に実質賃金は減少傾向となっています。
昨今の「物価高に見合う賃金の上昇」を望む声が上がる背景の1つには、このような物価と賃金の上昇幅にギャップが発生していることが挙げられます。
最低賃金の推移
「最低賃金」とは、最低賃金法に基づき定められる、賃金の最低限度のことです。雇用主は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず、それに違反する場合には罰則も設けられています。
令和5年度には、2023年10月より最低賃金の改定が実施されています。実際の発効年月日は都道府県別に異なりますが、図表2に記載のとおりです。
【図表2】都道府県別最低賃金の改定状況
厚生労働省 令和5年度地域別最低賃金改定状況より筆者作成
【図表3】最低賃金の全国加重平均額の推移
厚生労働省 平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況より筆者作成
最低賃金は全国加重平均額で、初めて1000円を超える1004円となりました。また、前年度(令和4年度)からの上昇率は、過去最高の4.28%上昇、プラス43円となっており、特に令和4年度以降、顕著に上昇していることが分かります。
都道府県別に見てみると、令和5年度において最低賃金が低い県は、岩手県で893円、次いで徳島県・沖縄県の896円となります。最も高い東京都の1113円との差異は、岩手県でマイナス220円、徳島県・沖縄県でマイナス217円となります。
また、令和4年度からの上昇幅が大きかった県は島根県・佐賀県でプラス47円、続いて山形県・鳥取県でプラス46円となっています。なお、三大都市圏の都府県は1000円を超える高い金額となっています。
最低賃金は正社員にも影響する
最低賃金の表示は、時給で表されるため、パートやアルバイトの最低時給をイメージしてしまうこともあるかもしれません。しかし、当然ながら最低賃金は正社員の給与にも影響します。
例えば、正社員(月給)の最低賃金の計算方法は、以下のとおりです。
月給(賃金に含まれる手当等を含む)÷1ヶ月平均所定労働時間≧最低賃金
仮に、東京都の最低賃金1113円となるための月給の金額はいくらか計算すると、1日8時間、年間労働日数を250日とした場合、1113円×8時間×250日÷12月=18万5500円となります。
まとめ
ふと、学生のときに習った「スタグフレーション」という言葉を思い出しました。
実質的に賃金が上がらない(むしろ、下落している)状況にもかかわらず、原油高や原材料などの高騰を理由として継続的な物価高(インフレーション)が進行している状況を示す言葉です。このような状況下において、最も厳しい状況にさらされるのは、一般市民の私たちです。
今後の政府や日本銀行による金融財政政策の動向についても注視するとともに、今回説明した「実質賃金」と「最低賃金」の変化やその影響にも注目していきましょう。
出典
厚生労働省 令和5年度地域別最低賃金改定状況
平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況
毎月勤労統計調査 令和4年分結果速報の解説
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー