更新日: 2023.11.30 年収
年収1000万円が「損」な年収と言われるのはなぜ?
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
単純に、税率が高く、負担が重く感じられる
年収1000万円が「損」といわれる理由の一つに、「所得税の税率が上がるから」というものが考えられます。
所得税の税率は、5%から45%まで存在します。個別具体的な事情にもよりますが、このうち、年収1000万円の方に対する所得税の税率は20%または23%に該当します。
一方で、「一般的な年収」と呼ばれることの多い、年収400万円から500万円の方は、個別の事情などにもよりますが、所得税の税率は5%ないし10%に該当します。これは、年収1000万円の方の所得税の税率の半分から4分の1程度です。年収1000万円となると、収入が高い分だけ税率も高くなり、思ったほど手元にお金が残らず「損」といわれることがあるのです。
また、日本の税制は、所得に応じた負担をする累進課税制度になっています。多く納税をしたからといって、より優れたサービスや優遇を受けられることは基本的にありません。その点からも、「多く納税したのに損をする」といわれることもあります。
公的な援助が受けられないこともある
年収1000万円となると、受けられる支援が少なくなることがあります。高校無償化制度がその代表例です。例えば両親・高校生・中学生の4人家族であり両親の一方が働いている場合、年収910万円を超えると、高等学校等就学支援金を受けられなくなります。同様に、大学無償化の適用も受けられません。
児童手当についても、年収1000万円となると給付額が減額されます。例えば、世帯内に児童1人のみなど扶養親族等の数が1名の場合、年収875万6000円を超えると、児童手当の額が「特例給付」となり月額一律5000円に減額されます。3歳未満であれば1人当たり月額1万5000円、3歳から中学生までであれば1万円が支給されています。
また、令和2年に給付された「子育て世帯への臨時特別給付」も、収入制限が年収960万円未満であることとされ、年収1000万円の世帯は対象外となっています。
「子育て世帯にとっては、年収が1000万円あっても教育費の工面で大変だ」と言われるのには、こういった理由もあると思われます。
遺族年金にも制限がある
遺族年金とは、生計を維持している配偶者が亡くなった際に、遺族が受け取れる可能性のあるものです。あまり知られていないのですが、この遺族年金も、受け取る方の年収が850万円以上あると、原則として受け取れなくなってしまいます。
ただし、死亡当時に年収850万円以上であっても、おおむね5年以内に年収が850万円未満となると認められる事由(退職または廃業など)がある方は遺族年金を受け取ることができます。
年収が1000万円もあれば、遺族年金がなくとも一般的な生活はできると考えられるかもしれません。しかし、高年収であっても年収850万円未満、例えば年収800万円であれば遺族年金を受けられる可能性が高いことを考えると、年収1000万円では損だと思うのも無理はありません。
まとめ
年収1000万円は確かに高収入です。それゆえ、税負担が重くなったり、受けられる公的援助が減ってしまったりするなど、当事者は損してしまっていると感じることもあるようです。
もし「年収1000万円と高収入なのに何が損なんだろう?」と疑問に思ったときは、一度、社会保障制度などを調べてみるといいかもしれません。
出典
国税庁 No.2260 所得税の税率
内閣府 子育て世帯への臨時特別給付
日本年金機構 遺族年金ガイド
執筆者:柘植輝
行政書士