中小企業に入社して初任給は18万円でした。これって平均より少ないですか?
配信日: 2024.05.11
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
学歴と会社規模による違い
まず、今年度新卒入社者における、学歴と会社規模による初任給の違いをご覧ください(※1)。なお、初任給にはいわゆる基本給に加え、各人の成績などに左右されず定期的に支払われる地域手当、住宅手当等の諸手当が含まれます。
表1
同学歴内では、会社規模による差はさほど大きくないようです。ただし、ここ最近の働き方改革や消費者物価上昇を受けて企業の賃上げ傾向が本格化しており、初任給の大幅引き上げに踏み込む動きも顕著になってきました。来年度以降も同様の傾向が続くと、大企業と中小企業の格差が広がっていく可能性もあるでしょう。
その他に何が影響するのか
Aさんが大卒であれば、たしかに大きな差ですから驚いてしまうでしょう。でもこの表からはそこまでの差は確認できません。
他に、初任給に影響するのはどのような事項でしょうか?以下に挙げてみました。
(1) 地域(大都市圏とその他など)
(2) 働き方のコース(総合職と一般職、転勤型と地域限定勤務など)
(3) 業界
(4) 職種
(5) 個人の専門性(新卒でも年収1000万円など)
厚生労働省の令和元年の調査資料(※2)では、都道府県別の大卒初任給平均額の上位3位は、東京(22万500円)、千葉(21万1700円)、神奈川(21万800円)でした。
低い方は、沖縄(17万5000円)、宮崎(18万8000円)、秋田(19万100円)となっており、20万円未満の都道府県が22と半数近くありました。あくまで平均値ですが、地域による幅はある程度存在することが分かります。なお、この調査時点での大卒全国平均は21万200円でした。
さらに、同じ会社内で金額水準に差が設けられているケースとして、(2)のように働き方の選択の違い、業務や責任範囲の大小による違いがあります。初任給が低めになる条件に複数同時にあてはまれば、さらに全国平均より差が広がることが考えられます。
Aさんの初任給は、会社規模に加え、就職した地域や働き方の選択など、何らかの条件が影響しているのかもしれませんね。
初任給の内訳を正しく理解する
これは、特に初任給が高い場合の大事なポイントです。平均額を大きく超えるような初任給に一気に引き上げる会社が、ここ数年散見されます。その多くには固定残業代(みなし残業代)が含まれています。
固定残業代とは、実際にその時間数の時間外勤務が発生するかどうかにかかわらず、残業したとみなした一定時間分の残業代を、毎月の賃金に含めるものです。この場合、初任給の内訳は、
「基本給+固定残業代」
の大きく2つの支給額で構成されることになります。
「働かなくてももらえるならいいじゃないか」と思えますが、会社は「固定残業代以上の貢献、価値のあるアウトプット」を期待している、そのような人材のために投資しているといえます。挑戦意欲のある方にはよいかもしれません。
ただ、入社したら固定残業代分は毎日働かされた……となると喜んでばかりではいられなくなります。
固定残業代が含まれなくても、例えば通勤手当や確定拠出年金の本人拠出分相当の手当など、さまざまな諸手当が含まれて初任給と表示されている場合もあります。
手当によって課税の有無や、社会保険料・時間外勤務手当算出の基礎賃金への算入有無など、取り扱いが異なりますし、何より自分が本当に自由に使えるお金なのかどうかが一番気になるところです。
見かけの「額面」だけではなく、本来の基本給はいくらなのか、基本給以外にどのような手当が何のために含まれているのか、正確に理解することが大切です。
最後に
初任給の差は、さまざまな条件で生じることをご説明してきました。学歴や会社規模だけでなく、就職場所や働き方の選択も大きな要素となるので、自分自身の意思決定が反映している場合もあるといえます。
ただ、10年後20年後の、それぞれの就職先の平均給与や各自の報酬額は、当然ながら初任給の差と同じ関係とはいえません。
また、初任給を無理して高くしたため、2年目以降の昇給がほとんどなく、数年で他社に追いつかれてしまう……そんな会社がないかと心配してしまいます。杞憂(きゆう)ならよいのですが。
今後数年は、初任給を大きく上げる会社があちこちに出てきそうですが、それに目移りするのではなく、賃金と同じくらい自分との相性もよく比較検討し、中長期の目線で会社選び、あるいは仕事選びすることが肝要と考えます。
出典
(※1)厚生労働省 令和6年3月 新規学校卒業者の求人初任給調査結果
(※2)厚生労働省 令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員