「手取り25万円」の会社員。引っ越しで通勤手当が「1万→2万円」になったけど、社会保険料が増えて「手取り」が減る場合もあるの? 仕組みを解説
配信日: 2025.04.05

本記事では、通勤手当の変動と社会保険料上昇の関係について紹介します。

執筆者:橋本典子(はしもと のりこ)
特定社会保険労務士・FP1級技能士
通勤手当で社会保険料が変わる?
社会保険料は、4月から6月までの賃金を元に算定され、通常は1年間、同じ額です。しかし、年の途中で社会保険料が変わることがあります。それはどのようなときでしょうか。
社会保険料が変わるとき
年の途中で社会保険料が変わるのは、次の全てに当てはまるときです。
・固定的賃金の変動があった
・変動月から3ヶ月間の給与で計算した標準報酬月額が、現在と比べ2等級以上、上がった(下がった)
・その3ヶ月全ての月で、賃金支払基礎日数が17日(パートは11日)以上あった
上の3つに該当した場合は「給与に大きな変動があった」とされ、新しい給与に相応した社会保険料に変わります。これを「随時改定」といいます。ちなみに、年に一度の社会保険料決定は「定時決定」です。
通勤手当は固定的賃金
「固定的賃金」とは、毎月支払われる支給額(支給率)が固定されている手当などを指します。基本給(月給、時給など)、役職手当、資格手当、住宅手当、通勤手当などが固定的賃金の例です。そのため、引っ越しなどで通勤手当に増減があれば「固定的賃金の変動」に当たります。
なお、パートなどの場合、出勤日数によって通勤手当が毎月変わることがありますが、所定労働時間や所定労働日数に変更がなく、通勤手当の単価自体が変わらなければ、固定的賃金の変動には該当しません。
通勤手当の変動がきっかけになることも
「通勤手当なんて基本給や役職手当に比べれば額が少ないから、通勤手当が変わったくらいでは社会保険料は増えないよね」と思う人もいるかもしれません。しかし、通勤手当のほんの少しの変動が、随時改定につながることがあります。
手取り額はいくら変わる?
通勤手当が1万円増えたケースについて考えてみます。「手取り額が25万円」とのことですので、社会保険料や所得税を差し引く前の総支給額は30万円程(標準報酬月額30万円)と考えられます。
「基本給その他が29万円、引っ越し前の通勤手当が1万円、残業手当なし」として計算してみましょう(住民税は考慮しません)。
通勤手当が増えただけでは変わらない
まず、通勤手当が増えただけのケースを挙げます。
4月 基本給ほか29万円+通勤手当2万円
5月 基本級ほか29万円+通勤手当2万円
6月 基本給ほか29万円+通勤手当2万円
この場合、1月あたりの賃金は31万円であるため、標準報酬月額に2等級以上の変動はなく、社会保険料が変わることもありません。
もし残業などが多いとどうなる?
しかし、残業や休日出勤などが多かった場合はどうでしょうか?
4月 基本給ほか29万円+通勤手当2万円+残業など4万円
5月 基本級ほか29万円+通勤手当2万円+残業など3万円
6月 基本給ほか29万円+通勤手当2万円+残業など4万円
このケースでは、給与の平均額は34万6666円です。標準報酬月額に2等級以上の差が生じるため、随時改定が行われます。
2等級上がった社会保険料
従前の社会保険料は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料を合算して4万3965円です。
2等級上がると、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の合計は4万9864円となり、約5900円、社会保険料負担が増える結果となります(令和7年4月以降、全国健康保険協会・東京都・40歳未満の場合)。
まとめ
本記事のケースでは通勤手当が1万円も上がっていますが、たとえ増加額がわずか「100円」でも固定的賃金の変動に当たります。そのため、続く3ヶ月の給与によっては、社会保険料の増額につながることがあります。
固定的賃金が増えた直後の時期に、あまり残業をしないようにできるとよいですが、現実は難しいかもしれません。それでも、社会保険料の増額分が気にならないくらい、新しい生活を楽しめるとよいですね。
出典
日本年金機構 随時改定(月額変更届)
全国健康保険協会 令和7年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)
厚生労働省 令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士