更新日: 2020.04.07 その他相続

相続法が改正され、2019年から実施されます

執筆者 : 黒木達也

相続法が改正され、2019年から実施されます
民法に含まれる相続に関する規定(相続法)の改正案が、2018年の通常国会に提出されて成立し、2019年から順次施行されます。
 
相続に関する規定は40年ほど見直されておらず、社会の変化が進むなか、残された配偶者の権利保護など、実情を考慮しトラブルを防ぐ内容を盛り込み改正が行われました。
 
主な改正のポイントを解説します。
 

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黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

新たに「配偶者居住権」を設定

夫が死亡した際の妻の取り分は、子がいる場合は遺産全体の2分の1と、民法で決められています。配偶者が残した相続財産が家と土地が中心だと、自宅を処分し売却金額の半分を受け取るという仕組みです。今までの自宅に住めなくなる不条理がありました。思い出の詰まった住宅を手放すことには、法律には沿った措置とはいえ、決して好ましい制度とは思えません。
 
これを解決するため、改正相続法では「配偶者居住権」が創設されました。これは住宅の所有権と居住権を分離し、故人の配偶者が所有権を持たなくても自宅に住み続けることを保障する仕組みです。
 
居住できる期間は、遺言や遺産分割協議をもとに決められます。この居住権の評価額は、配偶者の平均余命などをもとに決められますが、高齢になるほど評価金額は低くなり、相続財産が多くなる仕組みになります。
 
ただし、所有権に比べると居住権のほうが弱いため、居住権登記の手続きをすることで、権利を確保する必要があります。この登記により、子などが所有権を一部は持っているため、所有権を他人に売却されることで、実際に住んでいる家からの退去という事態を防ぐことができます。
 
配偶者の権利が認められるもう1つの改正は、婚姻期間が20年以上あれば、夫婦間で贈与された自宅は、遺産分割の対象から除外する仕組みです。
 
自宅は残された配偶者のものとなり、遺産分割の対象から外され、それ以外の遺産を相続人同士が法律に沿って分割します。高齢の配偶者の安定した生活を支援することが目的です。
 

介護貢献度を寄与料として評価

親と同居していた長男の妻が介護で苦労したとしても、夫の取り分としては評価されても、相続人ではないため彼女自身の貢献度は評価されませんでした。今回の改正により、相続権はありませんが「特別寄与料」という制度が創設され保護されます。
 
相続が発生した時点で、介護の貢献度に応じて相続人に対し請求できます。法律上の相続権がない人でも、特別寄与料の請求が法的に認められます。ただし親族以外の第三者が介護に協力したとしても、この特別寄与料は認められません。ますます深刻化する介護問題へ、1つの指針が示されたことになります。
 
特別寄与料の請求先は義理の兄弟姉妹になるため、現実的にはかなり大変です。合意できないときには、家庭裁判所が提示している算式が参考になります。家庭裁判所での寄与分の算定は、1日当たり8000円程度を目安に介護した期間を掛けて算定しています。
 
ただし相続財産の多寡により、特別寄与料も変わることが予想されます。実際の額は200~500万円程度が目安となるかもしれません。
 
相続財産が少ない場合は、現実には100万円以下となり、家庭裁判所の基準に沿った受取額になるのは難しいケースも出てきそうです。
 

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遺留分を正当な権利として保障

実際に遺言状が存在すると、故人の意志が尊重され、遺留分に満たない財産しか相続できない相続人が出てきます。遺留分とは、どの相続人にも認められた最低限の取り分で、法定相続分の半分にあたる額です。
 
例えば、子の1人が親と生前から対立していたため、親が「あの子には財産分与をしたくない」と考え、遺留分を大きく下回る財産しか受け取れない遺言状を作成したとします。これまでは、遺言状に不備がなければ、ほかの相続人から遺言どおりの配分に同意を迫られ、しばしば問題になってきました。
 
故人の意志を優先するか、法律に沿って遺留分を保障するか、これまではあまり明確でありませんでした。
 
対立して結論が出ないときは、確実に遺留分の履行を求める側が家庭裁判所に持ち込み、調停や和解が成立しない限り、遺留分を獲得できませんでした。今回の改正で、遺言状の中身がどうあれ、遺留分の確保が権利として認められました。
 

自筆証書遺言の作成・管理がより容易に

自筆証書遺言を作成するには、これまでは結構面倒でした。それが簡単に書き残せるよう工夫されました。その1つが、本文は自筆で書くことは変わりませんが、財産目録などは、パソコンなどからの印刷物で済むようになりました。
 
これまでは、すべて遺言は原則自筆なため、財産目録もその対象でした。預金や株式などは、遺言を作成した後でも数字は刻々と変化します。何度も遺言書を作成し直す必要がありました。財産目録をパソコンで管理していれば、金額等に変更があっても上書きし随時印刷ができます。手書きの必要がなくなるので、財産目録の作成は非常に楽になります。
 
また自筆証書遺言の作成だけでなく、法務局で保管する制度も新設されます。これまでは自筆の遺言は勝手に開封することができず、相続発生後に裁判所の「検印」を受ける必要がありました。また故人が内緒で信託銀行や弁護士に預けた場合は、遺言状自体が発見されないこともありました。
 
この保管制度を活用すれば、検印の手続きも不要になりますし、発見できない危険もなくなります。保管を申請する際に、細かい内容のチェックもしてもらえるので、効力の発揮できる自筆証書遺言の作成が、これまでより手軽にできるようになります。
 

預金仮払い制度の創設

遺産分割の協議中は、故人の預金を含め金融資産の引き出しはできませんでした。これが変更され一定限度額内であれば、金融機関から故人の預金を引き出すことができる「仮払い制度」が創設されました。これにより葬儀費用の支払いや残された家族の生活費など、相続が確定する前の段階で必要な諸経費に充当することができます。
 
遺産分割協議は長引くこともあり、困惑していた人も多かったため、実情に配慮した改正といえます。引き出し額の上限は、相続人1人当たり、法定相続分の3分の1に当たる金額となる予定です。
 
全体として、今回の改正案は、法制審議会で3年にわたって審議されてきたもので、社会情勢を考慮し、ニーズに沿って相続税制を変更したものといえます。
 
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職