相続登記が義務化。どのような影響があるの?

配信日: 2021.06.22

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相続登記が義務化。どのような影響があるの?
2021年3月に「相続登記が義務化に。増える所有者不明の土地、何が問題なの?」というタイトルで記事を書かせていただきました。その後、2021年の4月21日に民法、不動産登記法の改正案が参議院本会議で可決され成立。28日に公布されました。早ければ2023年には施行される予定です。
 
自分には関係ないと思っているかもしれませんが、影響を受ける人は少なくないはずです。改めてどのような影響が出そうか考えます。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
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所有者不明土地が発生する最大の原因は「相続」

日本国内の所有者不明土地は九州本土の面積、国土の10%を超えています(※)。不動産の所有者は登記することにより登記簿に記載されますが、これまで登記すること自体は義務ではありませんでした。
 
都市部で土地を買いその上に建物を建てる、あるいは建て売りの住宅を買う、といった場合にはほとんどの場合住宅ローンを組み、取得する不動産に抵当権を設定しますので、ほとんどの場合、所有権移転登記が行われます。
 
一方、相続の場合にはすぐに資金需要があるケースが少なく、抵当権を設定する必要がないことや、売買の場合と違い取引の相手方がいないため、登記による所有権移転をすぐに行う必要がないことなどもあり、速やかに売却しようと考えているような場合でない限り、「そのうち登記すればよい」と考え、そのままになってしまうケースが多いと考えられます。
 

これまでの主な相続登記に関連する法改正

「法定相続情報制度」

政府はこれまでに、「相続登記」をスムーズに行わせるためにさまざまな政策を打ち出してきています。
 
平成29年(2017年)には「法定相続情報制度」が開始されました。これは法務局に亡くなった人(=被相続人)の出生から死亡までの戸籍をそろえて提出することで「法定相続情報証明書」を発行する制度です。
 
従来、被相続人の資産を移動したり、不動産の相続登記を行ったりする場合には必要な戸籍情報をすべて収集し、その原本を各法務局や金融機関に持ち込む必要がありました。人によってはこの戸籍情報が膨大な量になることもあり、登記や金融機関での手続きに非常に時間がかかるケースがあります。
 
被相続人が複数の不動産を保有していたり、複数の金融機関に口座を保有していたりするような場合では、それぞれの法務局や金融機関で非常に時間がかかるケースもあり、これが登記などの手続きに手間取る原因にもなっていました。
 
戸籍情報の収集は行う必要がありますが、一度集めれば、被相続人と相続人の関係を証明する1枚の書面を法務局で作成、発行することができるようになり、手続きがスムーズになりました。
 

「自筆証書遺言の方式の一部緩和」

2019年には自筆証書遺言の方式が一部緩和されました。「自筆」とあるとおり、自筆証書遺言はすべて手書きしなければならないのが原則です。
 
しかし、多くの不動産や金融資産をお持ちの方が、資産リストもすべて自筆するのは大変な手間がかかります。そこで、資産リストについては一定の条件を満たせば、Excelなどで一覧を作ったり、コピーを添付したりすることが可能になりました。
 

「自筆証書遺言の保管制度」

令和2年(2020年)には「自筆証書遺言の保管制度」が開始されました。これまでの自筆証書遺言も有効ですが、紛失や廃棄、改ざんなどのリスクがありました。法務局で自筆証書遺言を保管することで紛失、改ざんの恐れがなくなります。
 
また、自筆証書遺言は裁判所で「検認」を行う必要があります。「検認」は相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。
 
この改正により、法務局で保管されている自筆証書遺言については「検認」の手続きが不要になりました。
 
遺言書に不動産をはじめとした、被相続人の資産を相続する人が記載されていた場合、その遺言書と相続人本人であることが確認できれば登記などが可能になります。この制度が開始された結果、自筆証書遺言を活用する機会が増え、相続登記もスムーズに進むケースが増えると考えられます。
 
これらの整備が整えられたところで、今回、不動産登記法の改正が決まりました。
 

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不動産登記法変更で何が変わる?

今回の改正では、不動産の相続登記が義務化されることが最大の変更点です。相続が発生し、自分が相続人としてその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記する必要があります。違反した場合には10万円以内の過料が課される可能性があります。
 
相続開始から3年が経過しても遺産分割協議が整わない場合などは、法定相続分による相続登記を行うか、自身が相続人であることを期限内に申請する「相続人申告登記」を行うことで過料を免れることができます。その後、遺産分割協議がまとまり、不動産を取得した場合には、それから3年以内に登記しなければなりません。
 
また、登記簿には所有者の名前と住所が記載されています。結婚などで名前が変わったり、住所変更をしたりしたものの、それを登記しないことで所有者が特定できなくなる問題も発生しています。相続登記だけでなく、名義や住所変更についても変更登記が義務化され、違反した場合は5万円以内の過料が課される可能性があります。
 
先述のように、登記簿には名前と住所が記載されています。登記簿は誰でも見ることができますが、名前や住所はまさに個人情報です。人によってはそれらの情報を人に見られたくないという人もいるでしょう。そうした人のために「住所を記載しない」という選択ができるようになります。
 
ただし、その不動産を売却する際には、住所を非掲載にしたままでは買い主が本人確認できず、支障があります。売却の際には非掲載にしていたものを公開するための登記が必要になると考えられます。
 
今回の改正は、改正前に相続し所有しているが相続登記未登記の不動産、あるいは住所変更登記を行っていない不動産についても遡及され、登記が義務化されます。改正前に自身が相続し取得することを知っていた場合、施行日から3年以内に登記を完了していなければ過料の対象になります。
 

まとめ

都市部でも相続登記未登記の不動産は少なくありません。地方では都市部以上にその割合が多くなります。相続登記がなされないまま放置されると、さらにその相続人に相続が発生し、関係者が増え、登記がより困難になります。
 
そもそも、所有者不明土地が非常に多いことが大きな問題になったのは、東日本大震災からの復興事業でのことでした。所有者不明土地が増えることによってさまざまな弊害が発生し、公共の利益を阻害するケースも少なくありません。
 
ひょっとすると、あなたが将来のその関係者になることもあり得ます。登記が完了していない不動産の中には、その手続きが非常に煩雑であったり、現状に合った正しい情報で登記することが困難になっていたりするものもあります。
 
「いつかやろう」と思っていても、時間が経過することで問題がより複雑になるケースもあります。心当たりがある方はもちろんのこと、自分は関係ないと思っている方も改めて自分や親族が所有している不動産の現在の登記情報を確認してみることをお勧めします。
 
(※)
国土計画協会「産学官の有識者らでつくる「所有者不明土地問題研究会」(座長・増田寛也東大公共政策大学院客員教授)」
所有者不明土地問題研究会「所有者不明土地問題研究会 最終報告概要/配布資料一覧 第4回研究会 資料1」
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役

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