更新日: 2021.09.14 相続

認知症の母を遺して父が亡くなった。遺言書がない場合、相続はどうなる?

執筆者 : 村川賢

認知症の母を遺して父が亡くなった。遺言書がない場合、相続はどうなる?
認知症になる高齢者は年々増えて、2025年には約700万人(高齢者の約20%)になると推定されています。(※1)
 
また、65歳以上の高齢者がいる世帯で、夫婦のみで暮らす世帯は全体の31.5%と3割を超えています。(※2)
 
こういった高齢化社会のなかで、高齢夫婦のうち一方が認知症を発症し、その配偶者が介護をしている夫婦世帯も多く見られます。このような世帯で、介護している者が先に亡くなり、認知症である配偶者が遺された場合、相続はどうなるのでしょうか。
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村川賢

執筆者:

執筆者:村川賢(むらかわ まさる)

一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)

早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。

村川賢

執筆者:

執筆者:村川賢(むらかわ まさる)

一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)

早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。

認知症の人は、自分ひとりでは契約ができない

遺産を相続する際には、被相続人に遺言書がなければ、法定相続分で分けるか遺産分割協議を行う必要があります。しかし、認知症になると自分ひとりでは契約を結ぶことができないため、代理人を立てて遺産分割協議をしなければなりません。
 
代理人を立てるためには、本人もしくは親族などが家庭裁判所に申し立てをして、司法書士や弁護士などの利害関係のない第三者を成年後見人として選任してもらう必要があります。(※3)
 
家庭裁判所への申し立てから成年後見人を選任してもらうまでの手続きは、司法書士や弁護士等に代行してもらうのが一般的です。なお、選任された成年後見人には、被後見人が亡くなるまで毎月2万円~6万円(財産の額等による)ほどの報酬を払い続けなければなりません。それでは具体的な事例で説明します。
 

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父が突然他界。母は認知症であった

Aさんは90歳、妻のBさんは87歳で、夫婦二人で暮らしていました。子どもは54歳の長男Cさんと50歳の長女Dさんの二人がいますが、それぞれ結婚して別世帯です。Bさんは2年ほど前から認知症の症状が出てきて、要介護2と認定されました。認知症の症状は比較的軽く、食事をしたりトイレに行ったりすることは自分でできるため、Aさんが自宅で介護をしていました。そんなある日、Aさんが突然脳梗塞で倒れ、他界したのです。
 

 

遺産分割で揉めた相続人たち

葬儀等も滞りなく終わり、CさんはAさんの預金口座を解約してお金を引き出そうと銀行に行きました。銀行の窓口では、被相続人と各相続人の戸籍謄本などの書類の他に、遺産分割協議書の提出を求められました。
 
相続の専門家に相談したところ、「被相続人に遺言書がなければ、相続人全員が合意する遺産分割協議書を作成しなければなりません。」と言われました。しかも「Bさんは認知症のため自分では契約できず、代理人を立てる必要があります。」とのことです。代理人として、家庭裁判所が選任する成年後見人をつけなければなりませんでした。
 
家庭裁判所への手続きが済んで、成年後見人が選任され、ようやく遺産分割協議が行われました。成年後見人は、代理人としてBさんに不利にならないように法定相続分で分割する案を提案しました。つまり自宅を売却して現金化し、預貯金と合わせてBさんに1600万円、CさんとDさんにはそれぞれ800万円ずつ相続する案です。Dさんはこの提案に賛成し、Bさんにはグループホーム等への入所を勧めました。
 
しかし、Cさんはこの案に反対でした。「母がかわいそうだ。実家で自分が母親を介護する。」というのが主な理由です。Bさんの代理人とCさんおよびDさんで協議した結果、Bさんは配偶者居住権と600万円を相続し、Cさんは負担付所有権を相続(Bさんへ代償金200万円)、Dさんは預貯金のうち800万円を相続するという案で合意しました。
 

 
これで円満に解決したかに思えますが、懸念されるところもあります。Bさんは一人で生活できないため、Cさんが一生涯介護しなければなりません。将来、実家を売却してグループホーム等に入所させたくても、負担付所有権では売却が困難です。また、CさんがBさんを自分の家に引き取って介護するとなると、実家は空き家となってしまいます。
 

終わりに

上記のケースでは、Aさんが遺言書を書いて遺産分割をどうするか決めておけば、遺された相続人たちの負担は少なかったでしょう。または、Aさんが委託者となり長男などを受託者とする家族信託を結んでおいてもよかったかもしれません。
 
認知症になってからでは法的な契約ができず、困ることが多くあります。認知症になる前の対策が重要です。任意後見制度を使って元気なうちに信頼できる後見人を選任しておくことも一つの方法です。また遺言書を作成しておき、遺産の分配で相続人たちが揉めないようにしておくことも大切です。
 
出典
(※1)厚生労働省老健局 認知症施策の総合的な推進について(参考資料)
(※2)内閣府 第2節 1 高齢者の家族と世帯
(※3)法務省 成年後見制度・成年貢献登記制度
 
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)