更新日: 2021.11.16 遺言書
法改正で自筆証書遺言はどう変わった?
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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自筆証書遺言とは
遺言は、自分の死後、自分が生前に持っていた財産を誰に引き継がせたいのかを表明するものです。遺言書の方式は、遺言者が自ら手書きする自筆証書遺言と、遺言者が遺言内容を公証人(元裁判官など)に伝え公証人が作成する公正証書遺言の2種類があります。
遺言書を作成することによって争族を回避できる可能性があります。ここでは、法改正で利用しやすくなった自筆証書遺言について解説します。
▽メリット
自筆証書遺言は、思い立ったときに、いつでも、どこでも作ることができる利点があります。また、費用もかかりません。
▽デメリット
自筆証書によって遺言をするには、原則、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければなりません(民法968条1項)。そのため、財産が多くある人は、膨大な文章をすべて手書きしなければならず大変です。書き方を間違えると無効になってしまいます。
さらに、きちんと保管しておかないと、紛失や改ざんのおそれもあります。また、遺言執行を開始するにあたっては、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
なお、検認とは相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせ、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありませんので知っておきましょう。
改正でデメリットの一部が緩和
上記のデメリットの一部が法改正により緩和されました。
▽財産目録は自署以外でも可(※1)
自筆証書遺言の要件が緩和され、財産目録については本文とは別に、パソコンなどでの作成や銀行口座の通帳コピーや不動産登記簿謄本などの添付などが認められるようになりました(2019年1月13日施行)。ただし、この場合、遺言者は、その目録の全ページに本文同様、署名、押印が必要です(民法968条2項)。
▽保管制度の創設(※2)
自筆証書遺言は自宅で保管されるケースが多く、紛失、改ざん、発見されないおそれがあり、争族のきっかけになっていました。そこでこれらの対応策として、自筆証書遺言について2020年7月10日より法務局で保管できることとなりました。これにより遺言の紛失、改ざんを防ぐことが可能になり、検認も不要になりました。
遺言書を法務局に預けるときに相続人が申し出ておくと、遺言者が亡くなったときに、法務局からその相続人に遺言書が保管されている旨が通知されます。また、誰かが遺言書の写しや閲覧の請求をした場合、他の相続人にも遺言書が法務局に保管されていることが通知されます。
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残された課題
自筆証書遺言は法律の専門家が作成するのではないので、有効性について、遺言者の死後争いになるおそれがあります。また、遺言書作成時点において認知症だったと相続人に主張されるおそれがあります。
相続人が多数で相続人間の仲がよくない場合などは争族に発展する可能性がありますので、費用はかかっても公正証書遺言で作成したほうがよいでしょう。
まとめ
なるべく争族を避けるという観点からは、遺言書は公正証書遺言で作成することをお勧めします。
ただし、死期が迫って公正証書遺言作成が間に合わないおそれがあり、自筆証書遺言なら作成する時間のある方が取りあえず作成する場合や、財産は少ないが死後の遺産分割の争いを避けたい場合、相続人間の仲が良い場合などは自筆証書遺言でもよいでしょう。
出典
(※1)法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」
(※2)法務省「預けて安心!自筆証書遺言書保管制度」
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。