更新日: 2021.12.14 相続税

事実婚と法律婚は、相続税を計算するときにどう違う?

執筆者 : 新美昌也

事実婚と法律婚は、相続税を計算するときにどう違う?
結婚のあり方も多様化し、事実婚も珍しくなくなりました。婚姻届を出していないが、お互いに結婚の意思があり、事実上夫婦のように生活しているカップルを事実婚(内縁)といいます。
 
しかし、婚姻届の有無で、事実婚と法律婚とでは遺産の取得方法や相続税の計算においては大きな差があります。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

事実婚の妻(夫)に財産を承継する方法

事実婚のパートナーは、民法上の法定相続人ではないので、そのままでは事実婚のパートナーの遺産を相続できません。
 
事実婚のパートナーに財産を承継するには、(1)遺言書で遺産を遺贈する、(2)特別縁故者(民法958条の3)として遺産を受け取る、(3)生命保険(契約者=被保険者)を活用する、(4)生前に贈与するなど、があります。
 

事実婚のパートナーの相続税の計算

事実婚のパートナーが遺贈などを受け相続税がかかる場合、事実婚は法律婚と比べ相続税計算上不利な点が多々あります。
 

▽基礎控除額

基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で求めます。事実婚の場合、法定相続人が存在しないので、基礎控除額は3000万円になります。法律婚に比べ、「600万円×法定相続人の数」だけ損をします。
 

▽配偶者の税額軽減

法律婚の場合、配偶者が実際に取得した財産額が1億6000万円または法定相続分のどちらか多いほうの金額までは控除される「配偶者の税額軽減」を受けられます。事実婚には適用されませんので、法律婚に比べ多額の相続税が発生します。これは痛いですね。
 

▽小規模宅地の特例

亡くなった人の自宅の土地や事業用地については、小規模宅地の特例を適用することで土地の相続税評価額を最大8割引き下げることができます。事実婚には小規模宅地の特例が適用されません。納税のため、マイホームを手放さなければならないかもしれません。
 

▽障害者控除

相続人に障害者がいる場合には、「(85歳-相続開始日の障害者の年齢)×10万円(特別障害者は20万円)」をその相続人の相続税額から控除できます。しかし、事実婚のパートナーが障害者であってもこの特典は適用されません。
 

▽相続税の2割加算

相続税の計算では配偶者と一親等以内の血族以外は、相続税の額が2割加算されます。事実婚のパートナーは「配偶者(法律婚)」ではないので、相続税の額が2割加算されます。
 

▽生命保険の非課税額

生命保険金を相続人が受け取った場合、「500万円×法定相続人の数」まで非課税になる特典がありますが、事実婚のパートナーにこの特典は適用されません。
 

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事実婚のパートナーに財産を効果的に承継する方法

パートナーに財産を承継させる旨を記載した、公正証書遺言を作成しておくことが必須です。基礎控除額は3000万円を超える多額の財産がある場合は、生前贈与するなどして、相続財産を減らすとよいでしょう。
 
また、主な財産が居住用不動産の場合、小規模宅地の特例が使えないので、相続税額が多額になる可能性があります。納税のために自宅をパートナーに遺(のこ)せないかもしれません。生命保険で納税資金を準備するといいでしょう。事実婚のパートナーを受取人とする生命保険は、以前は加入が難しかったですが、近年は事実婚が珍しくなくなったので、加入できる生命保険も増えています。
 
被相続人に相続人が存在しない場合などは、特別縁故者として相続財産の分与を受けられる場合があります。特別縁故者とは「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項)をいいます。
 
具体的に特別縁故者に該当するか否かは家庭裁判所が判断します。
 
事実婚のパートナーに財産を効果的に承継する方法には、見てきたようにさまざまな方法がありますので、弁護士や税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
 
このように相続(法律)や相続税(税金)は、事実婚については法律婚より不利ですが、年金などの社会保険は寛容です。例えば、遺族年金は事実婚でも受給可能です。
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。

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