証券会社で株の売買をしていた父が亡くなった。遺した株を相続するにはどうするの?
配信日: 2021.12.23
執筆者:村川賢(むらかわ まさる)
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。
証券会社の特定と口座名義変更
まず取引していた証券会社を特定する必要があります。最近はインターネットで株取引を行っている人も多く、パソコンやスマホのパスワードが分からないと、すぐに調べることが難しい場合があります。そのような場合には、以下の手順で調べてみてください。
(1)証券会社から定期的に取引残高報告書や特定口座年間取引報告書などの書類が届いていると思います。郵便物の中に証券会社から送られている書類がないか調べてみてください。複数の証券会社で取引している場合もあるので注意が必要です。
(2)(1)でも証券会社が分からない場合は、「証券保管振替機構」に開示請求書と必要書類を送付して調べてもらうことができます。費用は有料です。(※1)
(3)証券会社が特定できたら、証券会社に連絡をとって、被相続人の口座名義変更手続きについて問い合わせします。通常ではそのまま名義変更ができないので、まず相続人がその証券会社に相続人名義の口座を作り、口座振替(移管手続き)をする必要があります。相続人が既に同じ証券会社に口座を持っていれば、その口座に振り替えてもらえます。
Aさんの場合は父の取引していた証券会社に口座を持っていなかったので、新たに自分の証券口座を作らなければなりませんでした。
相続人の遺産分割協議書が求められる場合もある
証券会社で口座振替を行うには、以下のような書類が必要です(証券会社によって若干違うので必ず確認してください)。
(1)被相続人の出生から死亡までのすべての原戸籍や戸籍謄本
(2)被相続人の住民票除票
(3)相続人の戸籍謄本、住民票、本人確認書
事前に法務局で法定相続情報一覧図を作成して交付してもらうと便利です。(※2)
(4)遺言書か遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書)
遺言書がなく遺産分割協議書も作成されていない場合は、まず相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。Aさんは最近の取引残高報告書を見つけることができたので、それをもとに他の遺産を含めて弟Bさんと遺産分割協議を行い、Aさんが証券関係の遺産すべてを引き継ぐことで合意しました。
【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断
株式等の相続税評価
証券口座の取引残高と他の遺産の相続税評価額と合わせて相続税の基礎控除額(3000万円+法定相続人の数×600万円)を上回る場合には、上回った課税評価額に対して相続税を払わなければなりません。相続税の申告と納付期限は、亡くなった日の翌日から10ヶ月以内です。
上場株式の相続税評価額は、(1)被相続人が亡くなった日の終値、(2)被相続人が亡くなった月の終値の平均額、(3)被相続人が亡くなった前月の終値の平均額、(4)被相続人が亡くなった前々月の終値の平均額、のうち最も低い金額です。(※3)
Aさんの父の取引残高には、株式だけではなく公募投資信託や債券なども含まれていました。これらは、上場株式とは違った評価方法となります。
例えば、日々決算型(中国ファンドやMMFなど)でない公募投資信託では以下のようになります。
被相続人が亡くなった日の1口あたりの基準価格×口数-解約した場合の源泉徴収税額-信託財産留保額および解約手数料 (※4)
Aさんは知り合いの税理士に納税のための手続きを依頼しました。
終わりに
以上のように、株式の売買など証券取引を行っている場合は、いざというとき相続人がその証券遺産を引き継ぐのに手間と時間、費用がかかります。できるだけ生前に売却するか、遺言書で証券資産について遺贈の仕方等を記入しておくことが望ましいでしょう。
また、インターネットを使って証券取引している場合には、パソコンやスマホのパスワード等と一緒に、証券会社のID、パスワードも遺言書やエンディングノートなどに残しておきましょう。
(出典)
(※1)証券保管振替機構 ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合
(※2)法務局 「法定相続情報証明制度」について
(※3)国税庁 No.4632 上場株式の評価
(※4)国税庁 No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)