相続に関する法律が改正されます。そのポイントは?
配信日: 2018.02.21 更新日: 2019.01.10
相続に関する規定は、40年ほど見直されてきませんでした。
高齢化社会が進むなか、残された配偶者の権利保護、遺留分(遺族に保障される最低限の取り分)の制度の見直しなど、実情を考慮した改正が行われます。改正のポイントを解説します。
配偶者居住権の創設
これまでの民法の規定では、夫が死亡した際の妻の取り分は、子がいたときは遺産全体の2分の1となっています。
もし相続財産が家と土地だけに限られると、他に相続財産がないため、家を処分してその金額の半分を受け取るという不都合さがありました。今まで住んでいた家に住めなくなるのです。
思いの詰まった住宅を泣く泣く手放すことには、法律に沿っているとはいえ、どうしても良い制度とは思えません。
こうしたことをなくすために改正相続法では、「配偶者居住権」が創設されます。これは住宅の所有権と居住権を分離し、故人の配偶者が所有権をもたなくても自宅に住み続けることができる権利を創設します。居住できる期間は、遺言や遺産分割協議をもとに決められます。
この居住権の評価額は、配偶者の平均余命などをもとに決められますが、高齢になるほどこの評価金額は低くなり、相続財産が多くなる仕組みになります。ただ配偶者の年齢が若いと評価金額が高くなり、相続する資産が大きく減るため課題になりそうです。
もう一つの改正は、婚姻期間が20年以上あれば、夫婦間で贈与された自宅は、遺産分割の対象から除外する仕組みです。
自宅は残された配偶者のものとなり、遺産分割の対象から外され、それ以外の遺産を相続人が法律に沿って分割します。配偶者居住権と合わせて、高齢の配偶者が安心して生活を続けることを支援することが目的です。
遺留分を正当な権利として保障
実効性のある遺言が存在すると、故人の意志の反映として尊重され、遺留分にも満たない財産しか相続できない相続人が出ることもあり得ます。
遺留分とは、どの相続人に認められた最低限の取り分で、法定相続分の半分にあたる額になります。ただ子の1人が親と生前から対立していたため、親が「あの子には出来るだけ財産分与をしたくない」と考え、遺留分を大きく下回る財産しか受け取れない遺言状を作成したとします。
これまでは、遺言状自体に不備がなければ、他の相続人から遺言状通りの配分を実現しようと同意を迫られ、しばしばトラブルになっていました。
故人の意志である遺言状を優先するか、法律の趣旨に沿って遺留分を保障するか、これまではあまり明確でありませんでした。
対立して結論が出ないときは、確実に遺留分の履行を求める側が家庭裁判所に持ち込み、調停や和解が成立しないと、遺留分を獲得できませんでした。これが今回の改正では、遺言状の中身がどうあれ、遺留分の確保が権利として認められます。
かりに財産分割の中に現金などが少ない場合でも、他の相続人が遺留分に満たない相続人に対して、その差額分を補償することが求められます。
これまでは、遺留分を受け取るための訴訟を起こしても、結果として土地・建物を共有名義にする解決策もあり、かえって混乱するケースも目立っていました。共有の分割を求める訴訟も多かったためです。
このため遺留分に満たない額を請求する側が、現金で請求出来るようになりました。相続時に、財産分与を多く受けた相続人は、遺留分に満たない分を現金で工面するか、支払い期限を延長するかなど、対応を迫られます。
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介護貢献度を金銭で評価する
これまでは、親と同居する長男の嫁が介護などで苦労をしても、親の死後、相続財産のうち夫の取り分は寄与分として評価されても、彼女の貢献度に対しては認められませんでした。
これでは介護をした人の苦労が報われないとして、相続権はなくても、貢献度に対する特別寄与料として金銭の請求ができるようになります。
相続が発生した時点で、相続人以外でも介護の貢献度に応じて、相続人に対して特別寄与料の支払いを求めることができます。
もし当事者間の協議で合意できないときは、家庭裁判所の調停になります。法律上の相続権はなくても、金銭で保障が受けられることが明文化されます。高齢化社会が急速に進むなか、深刻化する介護問題に対して、今回の法改正は一つの指針を示すことになります。
自筆証書遺言の作成がより簡単に
自筆証書遺言についてもこれまでより、簡単に書き残せるよう工夫されます。その一つが、財産目録などが自筆ではなくても済むようになることです。これまで遺言は、すべて自筆が原則で財産目録もその対象でした。預金や株式などは、遺言を作成した後でも数字は刻々と変化します。何度も作成し直す必要がありました。
数字をパソコンで管理していれば、変更があっても上書きが随時できます。
手書きである必要がなくなるので、財産目録の作成は、非常に楽になります。
また自筆証書遺言を法務局で保管する制度も新設されます。これまでは自筆のものは、相続発生後に「検認」を受けなければ開封できませんでした。故人が内緒で預けている信託銀行や弁護士に預けた場合は、遺言状自体が発見されないこともありました。この保管制度を利用すれば、検認の手続きも不要になります。
また保管を申請する際に、細かい内容のチュックもしてもらえるので、効力の発揮できる自筆証書遺言の作成が、これまでより手軽にできるようになります。
これ以外にも、故人の金融資産の引き出しが、現在よりも自由になるなどの、改正が行われます。
すでに、法制審議会で3年にわたって審議されてきており、通常国会が混乱しないかぎり、2019年度には施行される見込みです。
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職