更新日: 2022.05.18 その他相続

遺産相続における「遺留分の侵害」にはどんなケースがある?

遺産相続における「遺留分の侵害」にはどんなケースがある?
相続では「遺留分の侵害」について問題となることがあります。遺留分の侵害は、時に侵害した方も侵害された方も意図しないまま起こり、それが原因で相続が泥沼化することもあり得ます。
 
遺留分の侵害とは、どのようなケースが該当するのか解説します。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

遺留分とは

まずは遺留分について確認します。遺留分とは、相続人に最低限保障された相続分のことをいいます。
 
遺留分は、民法の第1042条から始まる第9章で定められており、亡くなった方の意思とは関係なく、一定の相続人に与えられる権利です。遺留分の存在によって、亡くなった方に相続財産があれば、原則、相続人が財産をまったく相続できないということがないようになっています。
 
しかし、遺留分は全ての相続人に認められるわけではなく、亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分は与えられていません。逆に、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められているということになります。
 
遺留分は、亡くなった方と相続人となる親族の関係によって、下記のように遺留分総額の割合が異なっています。

相続人の内訳 遺留分の総額
直系尊属(父母・祖父母など)のみの場合 相続財産の3分の1
配偶者、子や孫が相続人となる場合 相続財産の2分の1

※筆者作成
 
また、実際の個人ごとの遺留分については、遺留分の総額に自身の法定相続分(法律によって定められた相続分)を掛けて算出される点にご注意ください。

法定相続分
配偶者と子が相続人の場合 配偶者;2分の1
子:2分の1
※子が複数いる場合は2分の1を人数で割った数値
配偶者と直系尊属(父母・祖父母など)が相続人の場合 配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1
※直系尊属が複数いる場合は3分の1を人数で割った数値
配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合 配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
※兄弟姉妹が複数いる場合は4分の1を人数で割った数値

※筆者作成
 
例えば、亡くなった方の妻と子が相続人となる相続では、遺留分はどちらも4分の1となります。
 
遺留分(2分の1)×法定相続分(2分の1)=4分の1
 

遺留分の侵害とはどんなケース?

遺留分の侵害とは、一言でいってしまえば、遺留分を有する方の遺留分が侵害されている状態です。よくあるケースとして下記のような例があります。
 

特定の相続人に相続財産が集中する内容の遺言がある

最も分かりやすい例でいえば、遺言書に「相続財産は○○に全て相続させる」とあるような場合です。
 
例えば、親の相続財産が3000万円、相続人は長男・次男・長女の3人という相続で、家を継ぐ長男にすべてを相続させて、他の相続人である次男と長女には一切の財産を残さないという内容の遺言書があったとします。
 
この場合、次男と長女には以下のように遺留分が500万円ずつあるため、長男は遺留分を侵害していることになります。
 
遺留分(3分の1)×法定相続分(2分の1)=6分の1
3000万円×6分の1=500万円
 

生前贈与があった場合

遺留分を算定する際の相続財産は、亡くなったときに存在する財産だけでなく、原則、被相続人が相続人に対して行った贈与については過去10年分、相続人以外への贈与は過去1年分が含まれます。
 
例えば、妻と子が相続人となるとき、相続財産2000万円があったとして、それを妻500万円、子1500万円でわけても遺留分の侵害となりません。
 
遺留分(2分の1)×法定相続分(2分の1)=4分の1
2000万円×4分1=500万円
 
ただし、10年以内に子へ500万円の贈与があったとしますと、相続財産は実質的に2500万円として扱われ、妻の遺留分は625万円となり、遺留分が侵害されているということになるのです。
 
2500万円×4分1=625万円
 

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遺留分を侵害している相続は無効なのか

遺留分を侵害している相続も無効ではなく、有効となります。遺留分の侵害という事実のみをもって、遺言書や遺産の分割の手続き自体が無効となったりすることはありません。
 
遺留分の侵害があったとしても、あくまで遺留分を有する方が、遺留分を侵害している方に対して遺留分の引き渡しを請求したとき(遺留分侵害額の請求時)に、遺留分を主張された側が侵害額相当額の金銭を支払わなければならないというものにとどまります。
 
遺留分侵害額の請求は口頭のほか、書面でも有効に行えますが、実務上、書面で行われるか、口頭で行われた後に合意書などとして書面に残されることがほとんどです。
 
また、当事者で話し合いができない場合は、家庭裁判所で調停が行われることもあります。調停についての詳細などは、家庭裁判所へご相談ください。
 

遺産相続においては遺留分の侵害に気をつけるべき

遺産相続において遺留分が侵害されている状態とは、遺言書の内容や生前贈与などによって、相続人が最低限の遺留分すら相続できないケースになります。
 
遺留分が侵害されていると相続争いが起きる原因にもなります。もし、自身が当事者となる遺産相続で遺留分の侵害が発生していたら、まずは状況を整理して相続人同士で話し合いなどを行い、場合によっては弁護士など相続の専門家へご相談ください。
 

出典

e-Gov法令検索 民法
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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