更新日: 2022.05.25 その他相続
相続時の遺産分割で揉めることが多い「特別受益」って何?
この特別にもらっている利益を「特別受益」と言います。なるべくトラブルを避けるためにも「特別受益」の意味と事前の対策を知ることが大切です。
執筆者:村川賢(むらかわ まさる)
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。
相続時の遺産分割協議で揉める事例
遺産分割で揉める簡単な事例を紹介します。85歳の父が先日亡くなり、母は既に他界しているので、相続人である兄(55歳)と妹(50歳)の間で、父の遺産3000万円(家の時価1500万円、預貯金1500万円)を分ける遺産分割協議をしました。
妹は、「お兄ちゃんが家をもらう代わりに、私は預貯金をもらうわ。これで半々で公平でしょ。」と遺産分割案を提案しました。
それに対して兄は、「お前は20歳のときにアメリカ留学しているよね。そのときに親父から500万円出してもらったじゃないか。それは特別受益にあたるから、俺は預貯金のうち250万円をもらうよ。」と主張しました。
妹は、「そんな昔の話は時効よ。それに親が子に教育費を払うのは当然でしょ。」と言い争いとなっています。
「特別受益」って何?
「特別受益」とは民法で定められている規定で、相続人の間で遺産分割する際に、特定の相続人だけが多く相続財産を取得することのないように、不平等を調整する仕組みです。民法では「特別受益」として次のようなものが定められています。
●婚姻や養子縁組のための贈与
結婚や養子縁組にあたっての持参金などです。親が子に対して結婚式の費用を拠出した場合などでは、社会通念上許容される範囲では「特別受益」に該当しないようです。
●生計の資本としての贈与
事業の開業や家を建てるにあたって多額の資金をもらっていた場合に該当します。親が子に対して留学費用を援助していた場合などでは、教育資金や扶養義務の範囲であれば該当しないので判断が分かれるようです。
「特別受益」に該当するかどうかの判断は難しい部分があり、結局相続人同士の話し合いで決めることが多いです。もし、話し合いだけで決まらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをして決めます。調停が不成立となった場合には裁判所の審判で決着させることになります。
なお、「特別受益」に時効はありません。ただし、遺留分(民法で定められた兄弟姉妹を除く相続人が最低限もらえる遺産の権利)を侵害するかどうかの算定においては、原則10年以内の生前贈与に限定されています。
「特別受益」に該当するかどうか揉めるような場合には、それを証明するものが必要です。例えば、被相続人の貯金通帳の過去の記載に、その時期にそれ相当の出金記録があるか等が証拠となります。
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「特別受益」がある場合の相続財産の分け方
「特別受益」がある場合は、それを相続時の時価に戻した後に、相続財産に加えて分割します。これを「特別受益の持ち戻し」と言います。分割した後では、「特別受益」があった相続人の相続分から「特別受益の持ち戻し」分を引きます。
もし、この額が相続分から引ききれなかった場合(相続分を超えていた場合)は、その相続人の相続分をゼロとします。先ほどの事例で妹の留学費用500万円が「特別受益」となった場合は、それぞれの法定相続分は次のようになります。
兄の相続分=(3000万円+500万円)÷2人=1750万円
→ 家(時価1500万円)+預貯金250万円
妹の相続分=(3000万円+500万円)÷2人-500万円=1250万円
→ 預貯金1250万円
「特別受益」でのトラブルを避ける方法
「特別受益」に関するトラブルを避けるためには、生前に被相続人が遺言書に「持ち戻し免除」の意思表示をしておくことが有効です。
例えば、「長女XXには留学費用として500万円をあげたが、これは私が死んだときに財産分けをしても相続財産の対象にはしないように。」と書いておけば、「特別受益」に該当せず争いとはならないでしょう。
ただし、遺言書を書く際は、他の相続人の遺留分を侵害しないように気を付けましょう。
また、自分が亡くなった後に配偶者の住居が心配な場合などは、生前に自宅を贈与しておく方法もあります。婚姻期間20年以上の配偶者であれば、2110万円(基礎控除110万円含む)まで居住用不動産を非課税で贈与できます。
そして、令和元年7月の民法改正により、婚姻期間20年以上であれば明確な「持ち戻し免除」の意思表示がなくても、居住用不動産については遺産分割の対象に加える必要がなくなりました。
終わりに
民法では、被相続人に対して生前に介護などをして特別な寄与があった相続人などには、「寄与分」として相応の相続財産を遺贈する仕組みもあります。
遺産分割の際に、「特別受益」や「寄与分」に該当するかどうかで争う場合は、その判断が難しいので、弁護士や司法書士などの専門家に相談するようにしてください。
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)