更新日: 2022.06.28 その他相続

「認知症の相続人」でも相続放棄は可能! 「成年後見制度」のポイントを解説

執筆者 : 宮本建一

「認知症の相続人」でも相続放棄は可能! 「成年後見制度」のポイントを解説
相続放棄とは、相続人が相続する一切の権利を放棄することです。相続放棄は、財産を保有する人が亡くなり、つまり、その方が被相続人となり相続が開始したことを相続人が知ってから、3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
 
しかし、相続人が認知症の場合には、自身で相続放棄を申し立てることは困難です。では、認知症の相続人が相続放棄の手続きを行うにはどうしたらいいのでしょうか。
 
ここでは、成年後見制度の利用による相続放棄について、また、相続放棄以外の方法について説明します。
宮本建一

執筆者:宮本建一()

2級ファイナンシャルプランニング技能士

相続放棄とは

相続は、被相続人の死亡によって開始します。資産だけでなく、負債も相続します。相続放棄の代表的なケースとして、負債の方が資産より大きい場合があります。相続放棄により、どのようなことが発生するのでしょうか。
 

相続放棄はいつまで、どこで手続きすべきか?

民法では、相続放棄の期限について、「相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に、単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならないとしています。
 
「被相続人が死亡した時点から」ではなく、被相続人が亡くなったことを「相続人が知ってから3ヶ月以内」です。相続放棄をする際には、家庭裁判所に申し立てる必要があります。
 

相続放棄をするとどうなる?

相続放棄をするとどうなるのでしょうか。民法上、相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなすこととされています。つまり相続人として最初からいないものと考えます。
 

相続人が認知症の場合に、相続放棄はできないのか?

相続人が認知症の方であっても、相続放棄は家庭裁判所へ申し立てる必要があります。しかし、認知症の方が裁判所へ申し立てるのは現実的ではありません。相続放棄を申し立てる前に、成年後見制度を利用するのが一般的です。
 

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症など判断能力が不十分である方々を保護・支援する制度で、本人の判断能力の程度に応じて後見人や保佐人、補助人を家庭裁判所が選任することができます。
 
まず、成年後見制度を利用する人の住所地の家庭裁判所に、後見開始の審判などを本人・配偶者・4親等内の親族などが申し立てます。裁判所は審査を行って、成年後見人を審判します。成年後見制度を利用する際、申し立てから開始まで通常4ヶ月近くかかります。
 
注意点として、成年後見制度は本人の判断能力が回復したと認められるケース以外は、途中で制度の利用をやめることができません。また、成年後見人に対し、本人が死亡するまで費用がかかります。
 

知ったときから「3ヶ月以内」の基準は、成年後見人にも適用

相続放棄は、相続の発生を知ってから3ヶ月以内に手続きする必要があります。しかし、成年後見人の申し立てから開始まで4ヶ月近くかかるのならば、相続放棄の期限を過ぎてしまうのでは、と思われるかもしれません。
 
認知症の相続人は、そもそも相続の発生を知らないと解釈されるため、成年後見人が決まるまで、相続放棄の期間は始まりません。つまり、成年後見人が相続の発生を知ってから3ヶ月以内となるため、成年後見人の決定に時間がかかっても問題ないと考えられます。
 

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認知症の相続人に相続させない別の方法とは?

相続人に認知症の方がいる場合、成年後見人を立てる必要があるのですが、手間や費用がかかります。他に円滑に相続を行う方法はないのでしょうか。その場合は、遺言書による相続や、生前贈与が挙げられます。
 

遺言書により、認知症の人以外の相続人へと遺産を相続させる

認知症以外の相続人に相続する内容の遺言書を作成することで、認知症の人が相続人となる事態を防げます。遺言書を書いておくことで、相続人全員が署名し、実印を押印して作成する遺産分割協議書を作成する必要がなくなるといった利点があります。
 
注意点として、遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言などがあり、作成にあたってそれぞれ一定のルールがあるので、無効とならないよう注意が必要です。
 

生前贈与

生前贈与を行うことで、認知症以外の相続人、または相続人以外に財産を贈与することが可能です。相続のように遺言の作成も不要ですし、贈与人(財産を保有している人)の意思で、贈与先を決められます。ただし、金額などにより贈与税が発生するケースもあるので、注意が必要です。
 

まとめ

相続放棄を行うには、相続人は被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。しかし、認知症の方が相続人である場合、成年後見人が決定してからでないと相続放棄の申し立てはできません。
 
また、認知症の方が相続を放棄する以外にも、遺言書の作成や生前贈与といった方法もあります。認知症の相続人が相続しない方法を理解したうえで、もめごとなく財産を分割されることをおすすめします。
 

出典

e-Gov法令検索 民法
法務省 成年後見制度・成年後見登記制度
 
執筆者:宮本建一
2級ファイナンシャルプランニング技能士

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