更新日: 2022.09.07 贈与
上場株式や投資信託は、早めに。相続人に譲ることで相続税対策になることも
執筆者:村川賢(むらかわ まさる)
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。
相続時精算課税制度を使って上場株式などを譲渡
Aさんの父は、ある日Aさんと弟のBさんを呼び出してこう言いました。「俺は投資が趣味で、上場株式や投資信託を2000万円ほど持っている。しかし、80歳を過ぎたので投資もそろそろ止めて、Aの名義に変更し譲ることにしようと思う。その代わりに俺が死んだらBにこの家と土地をあげようと思うが、二人ともどうだろうか。」
Aさんの母はすでに他界しており、仲の良い兄弟二人が父の相続人でした。実家の家は古く、土地も含めて時価評価額は2000万円ほどでした。そこで、AさんとBさんは相談して父の提案を受け入れることにしました。
Aさんは相続時精算課税制度を使って譲り受けたので、そのときの贈与税額はゼロです。3年ほどしてAさんの父は亡くなりましたが、当時の上場株式と投資信託は値上がりして3000万円ほどになりました。
しかし、相続税の計算ではAさんに譲渡した当時の価格(終値や基準価格)を他の相続財産に加算するので、相続財産の総額が基礎控除額(4200万円)以下となり、Aさんは相続税を払わなくて済んだのです。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度では、贈与税と相続税を一体として取り扱います。つまり、この制度を使って贈与した場合、原則2500万円までは贈与税がかかりませんが、贈与者が亡くなったときに、他の相続財産に加えて相続税額を計算することになります。
この制度の目的としては、高齢者層から若い世代に生前に資産を移転させ、若い世代が有効に資産を活用できるようにする狙いがあります。この制度の概要は以下の通りです。
(1)贈与者:贈与した年の1月1日に60歳以上の父母や祖父母
受贈者:贈与を受けた年の1月1日に20歳(令和4年4月1日以降では18歳)以上の推定相続人である子、または孫(推定相続人でなくて良い)
(2)暦年課税贈与(基礎控除額110万円。110万円を超える価額の贈与は累進税率を適用)との選択適用です。そして、贈与者ごと、受贈者ごとにどちらかを選択できます。また、一度この制度を選択したら、その選択を取り消すことはできません。
(3)この制度を選択した場合は、贈与した価額の累計が2500万円までは贈与税がかかりません。ただし、贈与を受けた年は贈与税がゼロであっても申告をしなければなりません。2500万円を超えて贈与を受けた場合は、超えた価額に対して一律20%の贈与税がかかります。
(4)この制度を使った贈与者が亡くなった場合、他の相続財産にこの制度を使って贈与した財産の評価額を加算して相続税の計算をします。その際の評価額は贈与した当時の時価となります。もし贈与税を払っていたら清算し、引ききれない金額がある場合は還付されます。
(5)この制度を初めて選択する場合は、「相続時精算課税選択届出書」と「贈与税の申告書」を所定の書類とともに、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に所轄税務署に提出します。また、複数回に渡って贈与を受けた場合は、その受けた年ごとに「贈与税の申告書」を提出する必要があります。
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相続時精算課税制度を使うメリットとデメリット
相続時精算課税制度を使う場合にはメリットとデメリットがありますので、簡単に見ていきましょう。
●住宅を購入したり事業を起こしたりする際に、親や祖父母から多額の資金を受贈したい場合、2500万円までなら贈与税がかかりません。(相続税に繰り延べ)
●将来価額が上がりそうな財産(例えば自社株や有価証券など)を贈与する場合、贈与した時点の時価評価額で相続税を計算するので有利になることがあります。
●相続時に相続財産の総額が基礎控除額以下、つまり相続税がかからないと見込める場合、税額ゼロで子や孫など若い世代に早くに財産を渡すことができます。
●暦年贈与との選択適用なので、110万円以下の贈与でも都度申告する必要があり、特別控除額(2500万円)を超えて贈与していた場合、必ず20%の贈与税がかかります。
●贈与した時点の財産評価額よりも相続時の評価額が下がってしまった場合、相続税での計算で不利となることがあります。
●「小規模宅地の特例(※2)」と同時に適用ができないので、自宅や事業用の宅地などで「小規模宅地の特例」を使って相続税評価額を減額できる場合、この制度を利用すると不利になることがあります。
終わりに
総務省統計局の調査(※3)によると、世帯主が70歳以上の高齢者世帯の平均貯蓄残高は2318万円(負債は86万円)なのに対して、40歳未満の若い世帯では平均貯蓄残高が726万円(負債は1366万円)と負債超過となっていて、お金が不足がちなのが分かります。
もちろん、老後の生活資金として貯蓄は必要ですが、若い世代に早めにお金を移して有効に使ってもらうことも大切です。そのような観点からも、相続時精算課税制度を使って生前贈与し、相続税対策と早めの資産移転を検討してみてはいかがでしょうか。
出典
※1 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
※2 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
※3 総務省統計局 家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)