相続法の改正で創設された配偶者居住権。どういうものなの?
配信日: 2022.09.13
配偶者居住権を得るための条件、それを使った時のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
執筆者:田久保誠(たくぼ まこと)
田久保誠行政書士事務所代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、特定行政書士、認定経営革新等支援機関、宅地建物取引士、2級知的財産管理技能士、著作権相談員
行政書士生活相談センター等の相談員として、相続などの相談業務や会社設立、許認可・補助金申請業務を中心に活動している。「クライアントと同じ目線で一歩先を行く提案」をモットーにしている。
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、相続開始時に被相続人が所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません)に住んでいた配偶者が、「配偶者居住権」を取得できる制度です。この権利を取得すれば、終身または一定期間、その建物に無償で住むことができるようになります。
配偶者居住権に関する規定の施行期日は、令和2年4月1日です。よって、令和2年4月1日以降に亡くなられた方の相続から配偶者居住権が設定できます。亡くなった日が令和2年3月以前というケースでは、遺産分割協議が令和2年4月1日以降でも配偶者居住権は設定できませんので注意が必要です。
配偶者居住権が認められる条件は?
配偶者居住権が成立するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
1.亡くなった人の法律上の配偶者であること
配偶者居住権を取得できるのは、死亡した人の配偶者のみとなります。この場合の配偶者には、事実婚等は含まれません。相続人が子どもや親などの相続人だけであれば、当然配偶者居住権を設定できません。
2.配偶者が、亡くなった被相続人が所有していた建物に亡くなったときに居住していたこと
配偶者居住権を設定するには、被相続人が死亡した時に、配偶者が被相続人が所有していた建物に居住していたことが必要となります。配偶者自身の持ち家に住んでいた場合、賃貸物件に住んでいた場合、配偶者以外の者と建物を共有していた場合には、配偶者居住権を設定することはできません。ただし、上記のとおり配偶者が建物を共有していた場合は設定可能です。
3.配偶者居住権が設定されたこと
配偶者居住権は自動的に付与されるものではありません。遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかにより設定される必要があります。
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配偶者居住権のメリット・デメリットは
では、配偶者居住権のメリット・デメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、メリットとしては以下のとおりです。
1.配偶者が家に住み続けられる
配偶者居住権の設定によって今まで住んでいる家に住み続ける権利を得られます。
2.他の遺産も獲得しやすい
配偶者居住権と所有権を分離することによって、配偶者は預貯金等のその他の遺産を得やすくなります。これによって、居住権と生活資金を相続できるので、遺(のこ)された配偶者のその後の生活が守られます。
3.代償金を払わなくていい
遺産の多くが当該不動産である場合、家の所有権を配偶者が取得すると、配偶者は他の相続人へ「代償金」を支払わなければならない場合があります。しかし、配偶者居住権と所有権を分けることで、代償金支払いがなくなる場合あります。
4.相続税の節税対策になる場合がある
配偶者居住権は、居住していた配偶者が死亡すると権利が消滅するので、その配偶者が亡くなっても配偶者居住権の価値は相続税の評価とならないためです。
次に、デメリットは以下のとおりです。
1.配偶者居住権は譲渡・売却できない
配偶者居住権は、属人的な権利ですので譲渡や売却ができません。よって、高齢になって介護施設等に入所することになっても、売却や賃貸等で費用を捻出できません。
2.税金や登記の負担、維持費が必要となる
配偶者居住権を取得した場合、それに応じた相続税がかかる場合があります。また、配偶者居住権の登記、固定資産税の支払いが発生します。さらに、建物の維持管理費も必要となってきます。
3.建物所有者の同意が必要
配偶者居住権には無断賃貸や増築・改築も認められていません。第三者に賃貸する場合や増改築、リフォーム等行う場合には、所有者の許可が必要となります。万一、無断で賃貸や増改築などを行った場合には、所有者から配偶者に「是正」を求められ、配偶者が是正に従わなかったときには、配偶者居住権を「消滅」させられることもありますので注意が必要です。
住む場所と同時に生活資金も考えよう
配偶者が死亡して配偶者名義の家に住み続けたいとき、配偶者居住権は非常に有効的な手段です。そのためには要件を満たすために被相続人の生前から準備しておくことも必要ですし、実際に権利が発生した後も制約がある部分がありますので注意が必要です。
あくまでも「居住権」という住む権利だけの問題ですので、生活資金のことも十分考えるようにしましょう。
執筆者:田久保誠
田久保誠行政書士事務所代表