遺言書にはどんな種類のものがある? 遺言書を書いておいたほうがよい人とは?
配信日: 2022.10.19 更新日: 2022.10.20
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
http://www.nishiyama-ld.com/
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
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遺言書とは
民法960条に「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定められています。「遺言書」と似た言葉で「遺書」があります。遺言書と遺書の違いは「法的効力があるか」ということです。
民法で定める要件にのっとって作成された「遺言書」は法的効力があり、「法定相続分」よりも優先されます。「遺書」は法的な効力のない「故人から遺(のこ)された人へのお手紙」です。
遺言書の種類
遺言書には一般的なものとして「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの形式がありますが、実際のところ「秘密証書遺言」はあまり使われていません。今回は主に「自筆証書遺言」について解説します。
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自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者自身がその全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければなりません。ただし、平成31年(2019年)1月13日以降一部要件が緩和されました。自筆証書と一体のものとして相続財産の目録を添付する場合、その目録については、自書する必要はなくなりました(パソコンなどで作成が可能)。この場合、遺言者は目録のすべてのページに署名し、捺印する必要があります。
また、自筆証書遺言は書いたものを自宅や弁護士などが保管するケースのほか、現在は自筆証書遺言保管制度(詳細は後述)が運用されています。
自筆証書遺言書の保管者またはこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遺言書を家庭裁判所に提出し、「検認」を受ける必要があります。ただし、公正証書遺言、自筆証書遺言保管制度を利用した自筆証書遺言は、検認が必要ありません。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が、遺言内容を整理し、遺言者の遺言能力の有無等、法的に有効な遺言とするために必要なチェックを行って作成する「公文書」です。作成の際は、遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝え、2人以上の証人が立ち会い、遺言者および証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名捺印。これを確認した公証人が署名捺印することで完成します。
自筆証書遺言に比べ高い証明力があり、無効になる心配はほぼありませんが、費用がかかります。費用は遺言者の財産額によって異なりますが少なくとも数万円が必要です。
信頼性が高い公正証書遺言ですが、遺言者が存命の間は資産状況も変化します。修正や書き直しが必要な場合もあるでしょう。その都度費用がかかることも考慮する必要がありそうです。
財産が多い、家庭環境が複雑、事業を行っていて確実に遺言書を実行したい場合などは、公正証書遺言を選択すべきだといえます。
遺言書を書くべき人
例えば、こんな方には遺言書を書いておくことをお勧めしています。
●子がいない
●相続人がいない
●相続人の数が多い、相続人間の仲が悪い、相続人に行方不明に人がいる(遺産分割協議を行うことが難しい場合など)
●相続人の誰かに多く遺産を渡したい(特定の相続人に事業を継承する場合など)
●相続人の中に未成年、認知症の人がいる
●前妻との間に子がいる
●相続人以外の人に遺産を渡したい(孫や内縁の妻・夫なども含め)
●遺産の中に占める不動産の割合が大きい
この他にもさまざまなケースがあります。遺言書の主な目的は「遺産分割の際などのトラブルを回避する」こととともに「相続手続きをスムーズに進める」ことです。
遺言書の書き方
自筆証書遺言は先述のとおり、
●遺言書の全文(財産目録を除く)を遺言者自身で手書きし、日付および氏名を自署し、捺印されていること。
●遺言書と一体の財産目録がある場合は、すべてのページに氏名が自署され、捺印されていること。
これらの要件を満たしていれば有効になりますので、そんなに難しいものではありません。ただし、使用する文言などは注意が必要です。「相続させる」と「遺贈する」の使い分けなどは注意しなければなりません。
自筆証書遺言の保管制度
自筆証書遺言を法務局において保管する「遺言書保管制度」の運用が、令和2年(2020年)7月から開始されました。制度の運用開始から2年余りが経過した2022年8月現在で約4万件の遺言書がこの制度を利用して保管されています。
(出典:法務省 自筆証書遺言保管制度(※1))
この制度を利用することにより、自筆証書遺言の弱点ともいえる「遺言書の紛失・亡失」や「相続人等の利害関係者による遺言書の破棄,隠匿,改ざん等」を防ぐことができます。一方、遺言書保管所となる法務局では遺言の内容についての相談は受けつけてもらえません。また、保管された遺言書の有効性を保証されるわけではないことにも注意が必要です。
保管の申請にかかる手数料は3900円と安価であることは魅力です。ただし、閲覧の請求や遺言書情報証明書の請求の際には別途手数料がかかります。
制度の詳しい内容については法務省の「自筆証書遺言書保管制度」を説明するサイト(※2)でご確認ください。
まとめ
相続対策というと、筆者のもとを訪れる多くの相談者さまが「うちにはあまり資産はないから関係ない」とおっしゃいます。そのような方はおそらく「相続対策=相続税対策」と思い込んでいるのでしょう。
相続税の基礎控除は、平成26年までに発生した相続では「5000万円+法定相続人の数×1000万円」でしたが、平成27年1月1日以降に発生した相続では「3000万円+法定相続人の数×600万円」に減額されました。法定相続人が1人しかいない場合、基礎控除が6000万円から3600万円に減額されたことになります。
相続税は多くの人が課税対象になりえる「比較的身近な税金」になっているといえます。
相続対策の中でも最も重要なのが「分割対策」です。遺言書があれば相続人間の遺産分割協議を行わずに相続手続きを進められるようにできます。ただし、遺言書があれば絶対にもめないというわけではありません。また、遺言書を書く際はご自身の資産状況の把握など、事前の準備が必要なケースもあります。
お子さまがいない夫婦の場合など、「遺言者は、遺言者が所有するすべての財産を遺言者の妻(夫)〇〇〇〇(19XX年XX月XX日生)に相続させる」という内容だけを記載するシンプルな遺言書であれば、自筆証書遺言で十分対応できます。ただし、遺留分には注意が必要です。遺留分については別稿(※3)でご確認ください。
遺言書を書こうとすれば、自分がお世話になった家族などとの関係を考えないわけにはいきません。自分の人生を見つめなおすという意味でも、遺言書を書く意義があるのではないでしょうか。
出典
(※1)法務省 自筆証書遺言書保管制度 01 遺言書保管制度とは?
(※2)法務省 自筆証書遺言書保管制度 自筆証書遺言書保管制度について
(※3)ファイナンシャルフィールド 相続法改正で何が変わった? 〜遺留分制度の見直し〜
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役