更新日: 2022.10.31 その他相続
相続放棄と財産放棄、何がどう違う? 放棄する際にそれぞれ気をつけたいこととは?
先日も「叔父の一周忌に合わせて遺産分割協議をするようですが、あまり付き合いもなかったので相続放棄したいのですけど……」という相談がありましたが、それは「相続放棄」ではありません。
執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)
CFP(R)認定者、行政書士
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相続放棄ができるのは相続開始から3ヶ月以内
「相続放棄」とは家庭裁判所での手続きにより、亡くなった方(被相続人)の財産を相続する権利自体を完全に放棄することです。相続放棄を行うと初めから相続人でなかったことになるので、一切の相続財産についての相続権がなくなります。
相続財産には、金銭や不動産などプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。相続財産に借金などある場合に相続放棄をすると、被相続人の債権者は相続放棄した者に対して返済を請求することができません。
ただし相続放棄は、相続人となった事実を知ったとき(通常は被相続人が亡くなったとき)から3ヶ月以内に行わなければなりません。この短い期間に遺産の内容を確認し、家庭裁判所で手続きをすることになります。
相続放棄の件数は増え続けており、司法統計年報によると2020年には23万件を超えました。
限定承認の場合も3ヶ月以内に
被相続人が残した借金を相続した財産で支払うのはいいが、自分の財産からは払いたくないという場合は、プラスの財産を限度にマイナスの財産について相続する「限定承認」という制度もあります。
限定承認は借金の額が確定できず、相続財産より多いのか少ないのかはっきりしないケースなどに利用します。こちらも相続放棄と同様に、相続の開始を知ってから3ヶ月以内が期限となっていますが、さらに相続人全員で手続きを行うという条件が付きます。
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財産放棄
相続が発生し、被相続人の遺言がない場合には、相続人間での話し合い(遺産分割協議)で遺産の分け方を決めなければなりません。法定相続分と異なる割合での遺産分割も可能なため、自分が遺産を取得しないという内容の遺産分割協議書に署名押印をすれば、それは有効になります。
遺産分割協議において「私は遺産を相続しない」と他の相続人に伝えて同意を得ることを、「財産放棄」や「遺産放棄」といいます。財産放棄をした場合には、その旨を遺産分割協議書に記載することもあります。
ただし、債務(借金など)については遺産分割の対象ではなく、財産放棄をしても、被相続人の債務の返済義務は残ることになるので注意してください。
相続分の譲渡
「自分は財産を相続しなくていいが、被相続人の世話をしていた人は余分に相続してほしい」という場合には、自分の法定相続分を共同相続人や第三者に譲る「相続分の譲渡」ができます。
相続分の譲渡を行う場合は、遺産分割協議の前に相続分譲渡証明書を作成しておき、他の相続人に対して内容証明郵便で通知しておくと確実です。
すべての法定相続分を譲渡した人は、遺産の相続権を失うことになるので遺産分割協議に参加することはできませんが、相続放棄と違って被相続人の債務の支払義務はなくなりません。
なお、遺産分割協議では法定相続分と違う分け方も有効ではありますが、相続分の譲渡を受けて法定相続分が多くなった相続人は有利に協議ができるようになります。
遺留分の放棄
「遺言には従う。相続財産を取得できなくても、遺留分侵害額請求はしない」ということを遺言者に約束するための方法には、「遺留分の放棄」があります。
遺留分とは一定の範囲の相続人に認められる最低限の相続分のことですが、相続の発生前に遺留分を放棄する場合、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。遺留分は相続人の大切な権利なので、放棄については「その意思表示が強制されたものではないか」「合理的な理由があるか」などを基準に裁判所が判断します。
例えば、「相続人となる他の兄弟よりも親に迷惑をかけてきたので、親が亡くなったときに遺産はいらない」という場合に遺留分の放棄をしておけば、自分の遺留分を侵害する内容の遺言があったとしても他の相続人は相続を円満にできることが確実になるので、被相続人となる親は安心して遺言を残すことができます。
遺産を取得しない意思表示をするために
借金を相続したくない、遺産分割協議に参加したくない、余分に相続してほしい人がいるなど、さまざまな理由で自分の法定相続分を手放したいときには、理由や目的、効果を考えた上で相続についての方法を選択してください。
その前提として、相続財産の内容を確認しておくことも重要となりますが、負の遺産が多い場合に債務の相続を免れるためには、「相続放棄」か「限定承認」の手続きを相続開始から3ヶ月以内にしなければなりません。3ヶ月という期間は、あっという間に過ぎていきますので注意してください。
執筆者:宿輪德幸
CFP(R)認定者、行政書士