更新日: 2022.12.15 贈与

孫に教育費資金を出してあげたいが、どのようにするのが良い?

執筆者 : 村川賢

孫に教育費資金を出してあげたいが、どのようにするのが良い?
日本の総人口に占める高齢者の割合は年々増加しています。一方、年齢階層別の平均世帯貯蓄額としては、70歳以上で2318万円に対して40歳未満では726万円と約3分の1となっています。(総務省統計局 2021年 家計調査報告[二人以上の世帯])(※1)
 
国としても、高齢者から若い世代に資金を贈与しやすいように税優遇制度を設けていますが、今回は孫に教育資金を贈与する場合の例を紹介します。
村川賢

執筆者:村川賢(むらかわ まさる)

一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)

早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。

75歳の後期高齢者となったAさんからの相談とは

75歳の後期高齢者となったAさんからの相談ですが、「まじめに働いてきて、預貯金として3000万円ほど溜まっている。妻には先立たれているし、2人の子どもたちも結婚してそれぞれ独立している。75歳となってこの先あまりお金を使うこともないと思うので、孫に教育資金を出してあげたいと思うが、どのようにするのが良いか? 」という内容でした。
 
Aさんは現在自宅に住んでいて、自宅の相続税評価額は3000万円くらいとのことです。預貯金と合わせると基礎控除額の4200万円(3000万円+600万円×2人)を超えてしまいます。
 
Aさんには長男と長女それぞれに一人ずつ合計2人の孫がいます。孫たちに同じように教育資金を出すことで預貯金を減らし、子どもたちにはなるべく相続税の負担をかけたくないというのも目的の一つとなっています。
 

暦年贈与で毎年110万円を贈与する

1月1日から12月31日までの1年間に、合計110万円の基礎控除の範囲までなら贈与があっても贈与税を払わなくて良いのです。このしくみでの贈与を「暦年贈与」と言います(※2)。
 
ちなみに贈与税とは、受贈者(贈与された人)が払う税金で、贈与者(贈与する人)が払うのではないので誤解しないようにしてください。
 
もし、2人の孫に毎年110万円ずつ10年間に渡って教育資金を贈与すれば、非課税でトータル2200万円贈与することができます。ただし、暦年贈与には以下のような注意点があります。

1.定期贈与と見なされる場合があります。相続税対策として1100万円を10年間に分けて贈与したと見なされ、10年間の贈与額1100万円から基礎控除110万円を引いた990万円に贈与税が課税される場合があります。
 
2.孫名義の口座に振り込む場合は、孫がまだ小さいときなどには「名義預金」と見なされ、その親などに対して相続時に相続税がかかる場合があります。つまり、相続発生以前3年間の持ち戻しとして、その親(被相続人から見ると子)などへ相続税がかかる場合があるのです。

祖父母が孫に学費などの教育費を支払ってあげるのは、その都度支払うのであれば、社会通念上の金額の範囲においては非課税です。暦年贈与には上記のような懸念もあるので、教育費はなるべくその都度支払うことをお勧めします。
 

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教育資金一括贈与の非課税制度を使う

平成25年4月1日から令和5年3月31日までの間では、教育資金として非課税で1500万円まで一括贈与できる「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」(※3)の制度があります。この制度を使って、仮に孫2人に1000万円ずつ教育資金を贈与すれば、預貯金から2000万円減らすことができます。
 
この制度の概要を列挙します。

1.贈与者は受贈者の直系尊属(父母や祖父母)
2.受贈者は30歳未満の子や孫で、贈与される前年の所得が1000万円以下
3.贈与目的は教育資金で、非課税限度額は1500万円(学校以外では500万円)
4.贈与方法は、金融機関に受贈者名義で専用口座を設け、一括で入金する。また金融機関経由で非課税申告書を税務署に提出する。
5.資金を専用口座から引き出す場合は、教育費としての支払いが明確になるような書類を金融機関に提出する。例えば教育費の支払領収書など。

気を付けるべき点としては、以下のようなものがあります。

●受贈者が30歳に達したとき専用口座に残額があった場合は、残額に贈与税が課税される。ただし、学校に在学している場合、または最長40歳まで課税されない。
 
●贈与者が期間中に死亡したときは、残額を贈与者の相続財産に加算する。(一部の例外を除く)

 

終わりに

若い家族のライフプランにおいては、子どもの教育費が大きな負担となっていることが多いです。祖父母から孫の教育費を援助できれば、親(祖父母からは子に相当)の負担を軽くするばかりでなく、相続税対策となる場合もあります。
 
祖父母から孫の教育費をその都度支払うのでは、面倒な場合やできない場合があります。そのような場合には、「教育資金の一括贈与における非課税制度」を使って贈与するのが良いでしょう。
 

引用

(※1)総務省 家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果-(二人以上の世帯) 世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況
 

出典

(※2)国税庁 No.4402  贈与税がかかる場合
(※3)国税庁 No.4510  直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
 
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)

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