更新日: 2023.04.23 その他相続
2023年4月から遺産分割に関する新しいルールが設けられたのをご存じですか?
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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遺産分割とは
遺産分割は、被相続人(亡くなった方)の遺産を各相続人について、特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」に応じて公平かつ適正に分配する手続きです。特別受益は、被相続人が相続人の一人にだけ多額の贈与を生前に行った場合など、特別な利益を与えているような場合です。
例えば、父親(被相続人)が3000万円の預金を残して死亡したとします。相続人は、子ども3人とします。子どもの一人であるCに、父親が結婚資金として600万円を贈与していたケースで考えましょう。
この場合、3000万円の預金を法定相続分にしたがって、1000万円ずつ相続すると不公平になります。そこで、3000万円の預金に600万円を加えて、3600万円を相続財産とします。そうすると、子どもAは1200万円、子どもBは1200万円、贈与を受けたCは600万円(1200万円-600万円)となり、相続人間の公平が保たれます。
寄与分は、相続人の一人が被相続人の財産の維持または増加に貢献したと考えられる場合、寄与分を主張する人の請求により、寄与分に相当する財産を具体的な相続分に加えることができます。
例えば、父親(被相続人)の相続財産の開始時の財産が4000万円とします。相続人は、子ども3人とします。子どもAの貢献によって父親(被相続人)の財産が増加して、その評価額が1000万円とします。この場合の相続財産は3000万円(4000万-1000万円)とされます。これにより、子どもは各自1000万円を相続しますが、子どもAは貢献分1000万円を加えた2000万円を取得することになり、相続人間の公平が保たれます。
従来の遺産分割ルールの問題点
従来の遺産分割ルールの問題点として、以下のことが指摘されていました。
●具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについては、時的制限がなく、長期間放置をしていても具体的相続分の割合による遺産分割を希望する相続人に不利益が生じないので、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい。
●相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れる。長期間が経過すると、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがある。
(法務省「具体的相続分による遺産分割の時的限界」より、一部引用・抜粋)
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新しい遺産分割のルール
上記の問題点を解決するため、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後に行う遺産分割は、原則として、特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」ではなく、「法定相続分(または指定相続分)」によることとしました(新民法904の3)。
例外として、(1) 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき、(2) 10年の期間満了前6ヶ月以内に、相続人に遺産分割請求が不可能となるやむを得ない事由があった場合において、当該事由消滅時から6ヶ月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に対し遺産分割請求を行ったとき、には引き続き「具体的相続分」により分割が可能です。
また、10年が経過し、「法定相続分等」による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が「具体的相続分」による遺産分割をすることに合意したケースでも、「具体的相続分」による遺産分割が可能です。
なお、新しいルールは2023年4月1日までに開始した相続についても適用されますので注意しましょう。ただし、2023年4月1日の時点で、すでに相続開始から5年を超える期間が経過している場合、2028年3月31日までの間は、「具体的相続分」による遺産分割をすることができるように猶予期間が設けられています。
まとめ
新しい遺産分割のルールにより、「具体的相続分」による分割を求める相続人に早期の遺産分割請求を促す効果を期待できます。また、「具体的相続分」による分割の利益を消滅させ、画一的な割合である「法定相続分」を基準として円滑に分割を行うことが可能になります。
出典
法務省 あなたと家族をつなぐ相続登記 ~相続登記・遺産分割を進めましょう~
法務省 具体的相続分による遺産分割の時的限界
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。