更新日: 2020.04.07 遺言書

え?無効? 遺言書の【有効】【無効】の境界線はどこに

執筆者 : 宿輪德幸

え?無効? 遺言書の【有効】【無効】の境界線はどこに
法的に有効な遺言があれば、相続人による遺産分割協議は必要ありません。遺言に書かれた「遺言者の最後の意思」により、遺産が分割されます。
 
「争族」のほとんどは遺産分割協議がまとまらないことで発生しますので、遺言により予防することができます。
 
宿輪德幸

執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)

CFP(R)認定者、行政書士

宅地建物取引士試験合格者、損害保険代理店特級資格、自動車整備士3級
相続専門の行政書士、FP事務所です。書類の作成だけでなく、FPの知識を生かしトータルなアドバイスをご提供。特に資産活用、相続トラブル予防のため積極的に「民事信託(家族信託)」を取り扱い、長崎県では先駆的存在となっている。
また、離れて住む親御さんの認知症対策、相続対策をご心配の方のために、Web会議室を設置。
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遺言は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類

遺言は被相続人の死後にその効力が生ずるため、遺言が効力を生じるときには意思を本人に確かめることができません。そのため、後で問題が起きないように民法で厳格なルールが定められています。
 
一般的に利用されているのは、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類です。実はもうひとつ平時の遺言として内容は秘密にして存在のみを公証人が証明する「秘密証書遺言」がありますが、手続きが面倒な割に確実性がないこともあり、一般的にはあまり利用されていません。
 
公正証書遺言は、公証人(裁判官、検察官、弁護士などの法務実務に30年以上かかわってきた人の中から選ばれ、法務大臣が任命する公務員)が作成しますので、法的に有効な遺言となります。
 
対して、自筆証書遺言は、法律知識が少ない遺言者本人が作成しますので、法的不備が発生しやすいと言えます。以下、自筆証書遺言について解説します。
 

「自筆証書遺言」の要件と、有効・無効のパターン

自筆証書遺言の要件は以下の2点です。
 
(1)遺言の全文、日付を自書
(2)署名、押印する
 
非常に簡単に見えますが、この2点を巡っても裁判上の争いが発生しています。有効もしくは無効となる例を見てみましょう。
 
《ワープロ使用》
字が下手で恥ずかしいので、ワープロで作成し「遺言書」「作成日付」「署名」の部分を自書した。
→無効:全文自書しなくてはならない。文字を書けない人は、自筆証書遺言ができない。
 (現在国会で、財産目録のワープロ使用を認めようという民法改正案を審議中)
 
《作成日》
遺言作成日を「平成30年私の誕生日」とした。
→有効:日付が特定できる。「還暦の日」「長女の婚姻の日」等、特定できれば有効。
 
遺言作成日を「平成30年7月吉日」とした。
→無効:日付の特定ができない。
 
《氏名》
普段使っているペンネームで署名した。
→有効:遺言者の同一性を確認できればよい。通称名、雅号でもよい。
 
《押印》
印鑑がなかったので、拇印を押した。
→有効:使用する印鑑に格別制限はない。
    押印の趣旨は、「遺言者の同一性、真意の確保」「文書の完成の担保」であり、
指印は、日本の慣行や法意識に照らしてこの2点に欠けることはない。
 
《はっきりしない表現》
「長男にトヨタクラウンを相続させる」
→無効:世の中にあるトヨタクラウンの中の「この車」ということが確定できない。
    車体ナンバーなどで、車両を特定する記載が必要です。
    「父親のクラウンはこれしかない」と主張しても、陸運局では受け付けてくれません。
 
遺言の最大の役割は、相続発生時に相続手続きを円滑にすることです。そのためには、疑問の余地がないように作成することが必要です。
 
行政書士等専門家が関与する場合は、確実な日付「平成○年○月○日」と戸籍上の氏名を記入し実印を押します。そして、財産内容については証明資料等で確認し正確に記載します。
 

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無効じゃないが、注意が必要なポイント

《遺留分》
「長男に全財産を相続させる」
→配偶者や子、祖父母には、遺留分があります。遺言は有効なので全財産を長男が取得できますが、遺留分を請求されると長男に支払い義務が発生します。
 
《「相続させる」と「遺贈する」》
「自宅土地建物を長男に遺贈する」
→遺贈では移転登記の際に、相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。一人でも協力しない者がいると登記手続きができません。「相続させる」と記載すれば、長男が単独で登記申請することができます。法定相続人に対しては「相続させる」とした方がよいでしょう。
 
失敗が許されない遺言。自信がない方は専門家に依頼するのが安心です。さらに、公正証書遺言とすれば、遺言執行もスムーズになり家族の負担が軽減できます。
 
ただし、専門家に依頼するとしても、遺言のルールを理解して希望を明確に伝えることが重要です。
 
Text:宿輪 德幸(しゅくわ のりゆき)
AFP認定者,行政書士,宅地建物取引士試験合格者,損害保険代理店特級資格,自動車整備士3級

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