配偶者が亡くなったが、自宅に住み続けたい! 配偶者居住権とは

配信日: 2023.08.09

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配偶者が亡くなったが、自宅に住み続けたい! 配偶者居住権とは
夫婦は、いつまでも元気で仲良く暮らしていければよいのですが、どちらかが先に亡くなる時がいつかは訪れます。遺された配偶者が住み慣れた住居で安心して生活ができるように、2020年4月1日以降の相続から認められるようになったのが、「配偶者居住権」です。どんな権利なのか見ていきましょう。
篠原まなみ

執筆者:篠原まなみ(しのはら まなみ)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、宅地建物取引士、管理業務主任者、第一種証券外務員、内部管理責任者、行政書士

外資系証券会社、銀行で20年以上勤務。現在は、日本人、外国人を対象とした起業家支援。
自身の親の介護、相続の経験を生かして分かりやすくアドバイスをしていきたいと思っています。

配偶者居住権の創設の目的

2021年の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳となりました※1。また夫のほうが年上の夫婦の割合が多いことを考えると、夫が先立ち、妻が遺されるというケースが必然的に多くなります。夫が亡くなった時、妻が夫婦で暮らしていた家の所有権をもっていなくて(夫に)子どもがいた場合、法定相続どおりに遺産を分割すると妻が自宅に住み続けられなくなることがあります。
 
Aさんに妻Bさんと子Cさんがいるケースを考えてみましょう。
 
Aさんは、4000万円の価値の自宅と預金2000万円を持っていました。Aさんが亡くなった時、遺産の分割は、Aさんが遺言をしていなければ、妻Bさんと子Cさんの間で自由に決めることができますが、2人の意見が合わない場合は、法定相続分で遺産を分けることになります。
 
法定相続では、配偶者と子どもの相続の割合は2分の1です。今回のケースでは、自宅(4000万円)と預金(2000万円)を合わせると6000万円になりますので、妻Bさんと子Cさんの取り分は3000万円ずつです。
 
そうすると妻Bさんは、預金では足りないので自宅を売却しなければならなくなります。妻Bさんが高齢の場合、新たに住まいを探すのはとても大変なことで、路頭に迷うことになりかねません。このようなことが起こらないようにするために「配偶者居住権」が、創設されました。
 
「配偶者居住権」は、(法律上の)配偶者が相続のときに被相続人が所有していた建物に居住していた場合、原則として賃料の負担なく終身の間住み続けることができる権利です(注1)。「配偶者居住権」を設定すると、自宅に利用権(配偶者居住権)と所有権の2つの権利が存在する形になります。
 
先ほどの妻Bさんと子Cさんの例でいうと、仮に「配偶者居住権」の価値が2000万円(注2)で所有権が2000万円だった場合、妻BさんはAさんの遺産6000万円のうち、2000万円の「配偶者居住権」と1000万円の預金を確保することができ、子Cさんは、所有権2000万円と預金1000万円を相続します。
 
妻BさんがAさんとの婚姻期間が20年以上で、配偶者居住権の遺贈があった場合は、居住用不動産の贈与等に関する優遇措置が適用されて、妻Aさんは2000万円の「配偶者居住権」と2000万円の預金、子Cさんは所有権2000万円(預金は0円)を取得します(※1)(注3)※2注3。
 

配偶者居住権の設定

「配偶者居住権」は、遺産分割協議、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかによって取得できます。「配偶者居住権」の価額は、以下の算式により計算した金額となります。
 
建物相続税評価額―建物相続税評価額×(建物の残存年数―存続年数)/建物の残存年数(※)×複利現価率
※下線部が0未満となる場合0とします(※3)。
 

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配偶者居住権設定後の注意

(1) 「配偶者居住権」は、配偶者が自宅に住み続けることができる権利なので、自宅を譲渡したり、売却したりできません。一方、子どもが所有権を相続した場合は、第三者に譲渡・売却はできますが、「配偶者居住権」が設定されているため、第三者は住むことはできません。
 
そのため、配偶者が認知症や病気になり、施設や病院に入った後でも配偶者自身が「配偶者所有権」を放棄しない限り、子どもは配偶者が亡くなるまで(注4)家に誰かを住まわせることができません。
 
(2) 建物の固定資産税は、配偶者居住権を取得した配偶者が負担しますが(注5)、土地の固定資産税は原則として所有所である子どもが負担しますので、子どもにとっては自分が住んでいないのに支払い義務があることに不公平感を感じるかもしれません。
 

まとめ

「配偶者居住権」は配偶者が居住する権利であるため、配偶者が亡くなった時は「配偶者居住権」は消滅し相続税の課税対象にならず、税負担軽減にもなりメリットがありますが、注意するべき点もありますので、親族でよく話し合い、納得した上で設定することが望ましいです。
 
(※1)厚生労働省 令和3年簡易生命表の概況
(※2)法務省 残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。
(※3)国税庁 No.4666 配偶者居住権等の評価
 
(注1)
1. 被相続人と同居していたことまでは求められていません。被相続人が、自宅を配偶者以外の人と共有していた場合は、「配偶者居住権」を設定できません。
2. 「配偶者居住権」は、建物に対して登記することで第三者に対抗することができます。
 
(注2)
「配偶者居住権」は、住む権利だけで第三者に譲渡したり、所有者に無断で建物を賃貸したりすることができない等の制約がある分、所有権を取得するよりも低い価値で取得することができます。
 
(注3)
計算式:6000万円(合計相続財産)-2000万円(配偶者居住権)×1/2=2000万円となり、妻Bさんは(配偶者居住権を除いて)2000万円、子Cさんは2000万円取得します。
 
(注4)
遺産分割や遺言等で期間を設定することは可能ですが、特に期間を決めなかった場合は、配偶者が死亡するまで権利は有効です。
 
(注5)
改正前の民法では所有者が負担するとしていましたが、改正法では居住建物の「通常の必要費」は居住している配偶者が負担すると規定しており、建物の所有者が固定資産税を払った場合は、配偶者に請求することができます。
 
執筆者:篠原まなみ
AFP認定者、宅地建物取引士、管理業務主任者、第一種証券外務員、内部管理責任者

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