更新日: 2023.08.15 相続税

税金が高いから対策したい! 相続税、どうやったら節税できる?(前編)

税金が高いから対策したい! 相続税、どうやったら節税できる?(前編)
筆者は普段、相続対策のアドバイスを行っています。筆者の相談者さまに「相続対策とは?」と聞くと、「相続税対策」と答える方が多くいらっしゃいます。「相続が発生すると多額の税金がかかる」と思っている人が多いということでしょう。
 
相続税対策は相続対策のほんの一部ですが、今回は相続税の節税対策としてどのようなものがあるかを、それぞれの注意点も併せてお伝えします。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
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3世代で財産がなくなる?

現在の相続税の最高税率は55%。数字だけ見れば、もし何も対策をしていなければ、1回の相続で財産が半減してしまうということもあるのです。「3世代で資産がなくなる」という人がいるほど、資産家にとって相続税は負担の大きい税金だといえます。
 
それだけに、資産家といわれる人たちは自身の資産防衛のためにさまざまな「相続税対策」を駆使しています(実際には、税金だけですべての財産が3世代でなくなってしまうわけではありませんが)。
 
過度な節税に対しては、国税庁もさまざまな対策を講じてきています。相続税の計算や、相続財産の評価方法などは「相続が発生した時点で施行されている法律」に基づいて行うため、今「節税になる」と思って行った対策が相続発生時に機能しない、想定ほどの効果が出ないこともあり得ることは、アドバイスする立場のわれわれから見ても悩ましいところです。
 
直近では、2015年に基礎控除額が4割減になり、実質増税されました。これまでにも相続税率や基礎控除額はたびたび改正されており、今後も見直しが行われる可能性もあります。
 

相続税節税、3つの基本

「相続税を減らす」対策の基本の考え方は


・資産を減らす
・評価額を下げる
・控除額を増やす

の3つです。今回は「資産を減らす」に焦点を当て、いくつかの対策を紹介します。
 

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資産を減らす節税策

当然のことながら、資産が減れば相続税は減ります。「本人が使ってしまう」というのも節税になります。
 
しかし、一般的にいう「節税」は次世代に渡す財産を減らさないまま、相続税額だけを減らしたい、ということでしょう。非課税、あるいは相続税よりも低い税率で贈与すれば、支払う税金が減り、節税になります。なるべく次の世代に多く残してあげたい、と考える場合には「生前贈与」の活用が選択肢になります。
 
贈与税は、相続税に比べ高い税率が設定されていますが、その方法によっては節税につながります。よく知られた方法としては「暦年贈与」があります。
 

暦年贈与

贈与税は受贈者(財産をもらった人)に課税されますが、贈与税にも基礎控除があります。現在の贈与税の基礎控除は110万円です。毎年110万円以下の贈与であれば、非課税で資産を移転できます。
 
また、贈与税の基礎控除は暦年でカウントされ、年を超えるとリセットされます。今年110万円を贈与し、翌年また110万円を贈与しても贈与税はかかりません。
 
ただし注意点があります。「贈与」は、渡す側と受け取る側の合意によって効力を発生する契約です。口頭であっても成立しますが、受け取る側にも受け取る意思がある必要があります。
 
贈与者が子や孫に贈与するつもりだとしても、贈与者が受贈者の預金通帳を管理していたり、未成年の子に「18歳になるまでは使わないように」と言って贈与をし、受贈者がその言いつけを律義に守っていたりした場合、その財産の管理者は贈与者にある「名義預金」とみなされる恐れがあります。
 
贈与をする場合は、贈与契約書の作成や受贈者が自由に使える状態にしておくことが重要です。
 
また、現在は「相続、遺贈によって財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内に暦年課税に係る贈与によって取得した財産がある場合、相続税の課税価格に贈与を受けた財産贈与時の価額を加算する(持ち戻す)」とされています。2023年の法改正により、この持ち戻し期間は3年から7年に延長される予定です。
 
持ち戻しの対象は法定相続人が受けた贈与に限りません。例えば、生命保険金の受取人になった者も「相続などによって財産を取得した者」に含まれます。
 
もし「孫にも財産を残したい」と考え、孫を受取人にした生命保険に加入し、さらにその孫に暦年贈与も行っていた場合、孫への贈与も持ち戻しの対象となり、孫は持ち戻された財産に相当する部分の相続税を支払う必要が出てきます。
 

贈与税の非課税が適用される特例

一定の条件を満たすことで、税制の優遇を受けられる特例があります。令和5年現在、下記のような特例があります。
 
■住宅取得資金の贈与
直系尊属(父母、祖父母など)から、自分が住むための住宅の新築、取得、増改築等に使う資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば、非課税限度額(省エネ等住宅の場合には1000万円、それ以外の住宅の場合には500万円)までの金額について、贈与税が非課税となる特例です。贈与税の基礎控除(110万円)との併用も可能です。
 
ただし、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住、または同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれることが条件です。贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家屋に居住していないときは、この特例の適用を受けられず、修正申告を行い、贈与税を納付する必要があります。
 
この特例は、令和5年12月末までに行われた贈与が対象です。
 
■夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
結婚してから20年以上の夫婦間で居住用の不動産を贈与した場合(居住用不動産を購入する資金を贈与した場合も含め)に、最大2000万円まで贈与税が非課税になる特例です。贈与税の基礎控除(110万円)との併用も可能です。
 
■教育資金の一括贈与
30歳未満の受贈者が、教育資金に充てるため、受贈者の直系尊属(祖父母など)から贈与を受けた場合、最大1500万円まで贈与税が非課税となる特例です。
 
この制度を利用するためには金融機関に専用の口座を開設し、書面で贈与契約等を結ぶ必要があるなど一定の条件があります。また、贈与者が亡くなった際にはその残額については相続により取得したとみなすのが原則です(例外もあります)。
 
この制度は、令和8年3月末までに行われる贈与に適用されます。
 
■結婚・子育て資金の一括贈与
18歳以上50歳未満の受贈者が、結婚・子育て資金に充てるため、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受けた場合、最大1000万円まで贈与税が非課税となる特例です。
 
この制度も教育資金の一括贈与と同様、金融機関に専用の口座を開設し、書面で贈与契約等を結ぶ必要があるなど一定の条件があります。また、贈与者が亡くなった際にはその残額については贈与により取得したとみなすのが原則です。例外もあります。
 
この制度は、令和7年3月末までに行われる贈与に適用されます。いずれも、時限的な特例です。詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
 
また、特例ですので、この制度を利用した結果、非課税となる場合でも贈与税の申告を行うことが条件ですのでご注意ください(「教育資金」「結婚・子育て資金」については金融機関を通じて「非課税申告書」を提出)。
 

生活費や学費などはそもそも贈与税の対象ではない

夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費(日常生活に必要な費用、治療費、養育費など)や教育費(学費、教材費、文具費など)に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものはそもそも贈与税の対象になりません。
 
ただし、必要なときに、必要な分を受け取り、使い切ることが条件です。生活費や教育費の名目で受け取っても、それを預金したり株式や不動産、名目以外の物品の購入などに充てたりした場合は贈与税の対象になります。学費などは贈与者が直接払い込む、必要なものは直接買ってあげる、などとするほうが確実です。
 

生命保険の活用

自身に相続が発生した(亡くなった)ときに支払われる生命保険(死亡保険)に加入しておけば、一時払い終身保険の場合はそのときに、一定期間保険料を支払うものの場合は支払うごとに財産が減ります。亡くなられたときには、指定した受取人が保険金を取得することになります。
 
また、生命保険金には相続税の非課税枠もあるので、「控除を増やす」節税策としても活用できます。
 

まとめ

今回は、相続税の節税対策のうち「相続財産を減らす」ことによる節税策を紹介しました。
 
冒頭にもお伝えしたとおり、相続税対策は相続対策のほんの一部です。節税を図るあまり、分割対策や納税資金対策がおろそかになり、結果として相続発生時にもめてしまっては元も子もありません。
 
節税対策を行う前に「この方法でもめないか」「後で問題にならないか」を慎重に検討して実行する必要があることを十分ご承知おきください。
 

出典

国税庁 No.4155 相続税の税率
国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
国税庁 父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役

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