更新日: 2023.08.15 遺言書
私がもらえる財産、法定相続分より遺言に書いてある財産のほうが少ない! これってアリなの?
執筆者:田久保誠(たくぼ まこと)
田久保誠行政書士事務所代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、特定行政書士、認定経営革新等支援機関、宅地建物取引士、2級知的財産管理技能士、著作権相談員
行政書士生活相談センター等の相談員として、相続などの相談業務や会社設立、許認可・補助金申請業務を中心に活動している。「クライアントと同じ目線で一歩先を行く提案」をモットーにしている。
遺言書と法定相続どちらが優先? 遺留分がかかわる場合は?
例として、相続人が配偶者と子ども(3人)だけであれば、配偶者と子どもの法定相続分はそれぞれ2分の1で、子ども1人当たり6分の1となります。6000万円相当の財産がある場合、子どもの立場からすると1000万円相当は相続できるのではないかと考えてしまいます。
しかし、相続財産の内訳が不動産3600万円相当、金融資産2400万円と仮定して、すべての不動産を配偶者へ、金融資産を4人に均等にという遺言を残していれば、子ども1人当たりは600万円しか相続できません。
結論からいうと、この遺言は「有効」となります。なぜなら、被相続人が遺言で残した相続分が、民法上の法定相続分と異なることに問題がないからです。民法の法定相続分は、あくまでも被相続人が遺言を残していない場合の補助的な基準であり、最も尊重されるのは被相続人の意思だからです。よって、この場合子どもはその被相続人の意思を受け入れることとなります。
では、同じ条件で不動産をすべて配偶者へ、金融資産の2分の1(1200万円)を配偶者、残りの2分の1を子ども3人で均等に(1人当たり400万円)ではどうでしょうか。
この場合は「遺留分」の関係上、遺言どおりに分けられるとはかぎりません。遺留分とは、「相続人が最低相続できることが保障されている相続分」のことです。被相続人には、上記のとおり自分の財産を自由の意思で誰に渡すかの権利があります。
しかしその一方、相続制度は、相続人の生活の保障という面もあります。そのため遺留分制度という、相続財産の一定割合を特定の相続人の権利とする制度が遺留分です。この割合は、配偶者と直系卑属(子や孫)は法定相続分の2分の1が遺留分、直系尊属(親や祖父母)は法定相続分3分の1が遺留分です。ちなみに兄弟姉妹に遺留分はありません。
よってこのケースの場合、子ども1人当たりの法定相続分は1000万円ですので、その半分(2分の1)の500万円は遺留分があることになります。
遺留分を下回っている場合は
遺留分を下回っている状態(いわゆる遺留分の侵害)でそれを解消したい場合は、相続開始あるいは遺留分の侵害を知った日から1年以内に、遺言によって受け取った人(この場合は故人の配偶者)に請求します。これを遺留分侵害額請求といいます。ただし、相続開始のときから10年間が経過した場合、遺留分侵害額請求権は除斥期間により消滅します。
実際の遺留分侵害請求の手続きは、おおよそ以下のような流れになります。
1.遺留分を侵害した相手との協議
まずは、遺留分侵害している相続人と話し合うことでしょう。もし、この時点でその親族が納得してくれればここで解決します。もし、納得してくれた場合は遺留分の支払いを受ける際に、合意書のような書面を作成することをお勧めします。それによって、後々のトラブルが回避できます。
2.内容証明郵便を送付する
話がまとまりそうにない場合は、当然時間がかかることが考えられます。上記のとおり、遺留分侵害額請求は、「相続開始あるいは遺留分侵害を知ってから1年以内」に行う必要があります。内容証明郵便の送付によって遺留分侵害額請求権の時効を止める意味でも、内容証明郵便を送る必要があります。
3.遺留分侵害額の請求調停の申し立て
話し合いで解決できないなら、家庭裁判所で遺留分調停を申し立てます。調停では、調停委員が双方主張を個別に聞き調整します。調停委員という第三者が入ることにより、合意に至るケースは当事者間で話し合うより高くなります。
その結果、互いが調停案に合意すれば、調停成立となり調停調書が作成されます。ここで万が一、調停での合意事項を守らない場合でも、強制執行することも可能です。
4.遺留分侵害額請求訴訟の提訴
調停でも合意できない場合には、遺留分侵害額請求訴訟を提起となってしまいます。請求金額が140万円未満であれば簡易裁判所、140万円以上であれば地方裁判所で訴訟を提起します。訴訟では遺留分侵害の事実を立証するための証拠が必要となります。
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相続が争族にならないためにも
遺言を書くことはご自身の意思を相続人に伝える機会ですし、トラブルにならないための手段としても有効です。しかし、遺留分を侵害している等の不備があった場合は、より大きなトラブルになることも考えられます。
遺言書を書く場合は、専門家に相談するとよいかもしれません。
執筆者:田久保誠
田久保誠行政書士事務所代表