更新日: 2023.08.27 贈与

一代飛ばして孫への「生前贈与」 2023年度の制度改正で利用者は増えるのか?

一代飛ばして孫への「生前贈与」 2023年度の制度改正で利用者は増えるのか?
誰かが亡くなると、通常は相続が問題になります。相続の権利のある法定相続人の順位は、まず配偶者と子どもです。
 
ところが、2022年12月に「令和5年度 税制改正大綱」が公表され、生前贈与を行った財産のうち、相続税に合算される部分が、3年から7年に延長されることが確定し、法定相続人への暦年贈与は、やりにくくなるかもしれません。
 
本記事で説明していきます。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

子どもへの生前贈与には制約が

今回の制度改正により、子どもなど法定相続人への暦年贈与をためらう方は、確実に増えてくると思われます。これまで生前贈与した分のうち、相続時点から逆算して3年分は贈与としては認められず、財産を戻したうえで、相続税として再計算されてきました。
 
その3年が7年に延長されるため、これまで以上に、配偶者と子どもへの生前贈与が制約を受けるようになります。実際に7年間が適用されるのは、2031年からです。しかし、節税のために長期間かけて少額の暦年贈与を進めてきた方も、贈与者が亡くなる前の7年分は、贈与した意味が薄れてしまいます。
 
これまでも、重い病気などで余命が数年と考えられた場合、生前贈与をするかどうか難しい判断を迫られました。贈与を行ってから3年が経過すれば贈与が成立しますが、3年以内に亡くなった場合は、すべて相続財産として再計算の対象になります。
 
この3年間が延長され7年間になるため、贈与者が贈与を行ってから、少なくとも7年は生存してほしいと期待されます。このため健康状態に不安がある方の子どもや配偶者への生前贈与は、難しい選択を求められます。
 

孫などへの贈与は影響されない

配偶者や子どもなどの法定相続人への暦年贈与は、相続税の再計算の対象となりますが、孫をはじめ法定相続人以外の方への暦年贈与は、これまでどおりで制約はありません。子どもが生存しているかぎり、孫は法定相続人ではないからです。
 
そのため孫への贈与は、相続財産の減額になり、節税効果も期待できます。今回の制度改正では、孫への贈与に関し議論があったと推測されますが、孫などへの贈与に関しては変更点もありません。
 
そのため孫がいる場合、配偶者だけでなく、子どもを飛び越し贈与を行おう、という機運が今後高まることが考えられます。最近では平均寿命も延びており、80歳を超えても元気な高齢者は多くいらっしゃいます。専門家によっては、多くの資産が高齢者に偏在し若い世代への移転が進まない、との指摘もあるくらいです。
 
個々の事情があるにせよ、孫の世代が成人に達している方もいると思われます。配偶者と子どもに財産を相続させたとしても、そう遠くない時期に、新たな相続問題が発生します。その点、一部の財産を一代飛ばして孫に贈与しておけば、子どもの代から孫の代への相続を省略できるメリットが生まれます。
 

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法定相続人以外への贈与は効果大

贈与は相続とは異なり、法定相続人だけでなく誰に対しても可能です。親戚はもとより他人であっても贈与は可能です。しかし土地などの贈与を他人に行うと、権利関係が複雑化し後々トラブルになる可能性もあります。「誰にでも」という発想は、よほどの事情がないかぎり、避けたほうが賢明です。
 
そのため、まず孫への贈与が優先されると思われます。孫以外にも、子どもの配偶者、甥・姪、ひ孫など、血縁関係のある方を中心に検討することをお勧めします。こうした贈与に関しては、現在でも「3年以内」という制約がなく、相続発生の直前であっても、贈与は可能です。
 
ただし、不動産を分割せずに数人で共有する方法は、後になって受贈者同士がトラブルを起こす可能性もあるので、できれば避けたいものです。分割しにくい不動産ではなく、現預金や有価証券での贈与がより望ましいといえます。
 
贈与税は相続税に比べて税率が高く設定されていますが、年間110万円の控除額もあり、時間をかけて何度でも贈与できるメリットがあります。手間もかかりますが、不動産や有価証券などを多く保有されている高齢の方は、配偶者や子どもへの贈与だけでなく、孫などへの贈与を決断するよいタイミングかと思われます。
 

その他の贈与手段と注意点

子どもや孫に対する贈与の方法としては、これまで見てきた暦年贈与の活用以外に、教育資金の一括贈与と、結婚・子育て資金の一括贈与という方法もあります。どちらも1000万円以上の金額を一括贈与できますが、対象者の年齢制限や利用方法の自由度が少ないため、よほど条件を理解してからでないと、利用しにくくなっています。
 
どちらも時限立法で、教育資金は2026年3月末まで、結婚・子育て資金は2025年3月末まで、利用できる制度です。特に法定相続人となる子どもに対しても、一括で多額の資産の移転ができるメリットがあります。条件さえ合えば、この一括贈与は、暦年贈与に比べ1回で多額の資金移転が可能になり、一挙に相続財産を減額できます。
 
孫などに対して生前贈与を行う場合、いくつか注意点もあります。それは数人の対象者がいるケースでは、できるかぎり「公平に」贈与することが原則です。個人的な好き嫌いや男女により贈与の内容に差をつけると、異論が噴出しトラブルになりかねません。「私情」を前面に出すのは、決して好ましいことではありません。
 
さらに考慮すべき点は、孫などへの生前贈与に今後は制約がかかる可能性があることです。できるだけ早く実行することです。
 
今回の暦年贈与の期間延長が決定されるに際にも、「孫などへの贈与にも制約を……」という意見も出たかもしれません。実際に、孫などへの生前贈与の件数や金額が急増するようだと、孫などへの贈与に対して「網をかけられる」事態が発生する可能性があります。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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