更新日: 2023.10.26 その他相続

遺産分割されないまま相続開始から10年経過した相続財産の取り扱いはどうなる?

遺産分割されないまま相続開始から10年経過した相続財産の取り扱いはどうなる?
令和3年4月の民法改正により、相続開始から10年が経過しても遺産分割されていない相続財産については、原則として「法定相続分」または「指定相続分」によって遺産分割することとなりました。この改正は、既に令和5年4月1日に施行され、施行日より前の相続についても対象となっています。
 
この記事では、同改正による影響や経過措置などについて確認してみたいと思います。
高橋庸夫

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

相続開始から10年経過後に未分割の財産がある場合の影響

相続人が複数人いる場合、被相続人の相続財産は「相続人全員の共有財産」となります。
 
その後、「指定相続分」(遺言書によって指定された分割割合)、「法定相続分」(民法で定められた各相続人の分割割合)、「具体的相続分」(各相続人の個別の事情である特別受益や寄与分を加味した分割割合)のいずれかの方法で遺産分割されます。
 
令和5年4月1日に施行された改正では、相続開始から10年を経過しても遺産分割がされていない場合、これら3つの方法のうち、具体的相続分を適用することができなくなります。
 
つまり、遺産分割自体には、これまでと同様に期限があるわけではないのですが、10年経過後の遺産分割の場合には、原則、具体的相続分である特別受益や寄与分の主張ができなくなるということです。
 

具体的相続分とは

具体的相続分として計算される特別受益、寄与分とは、以下のようなものをいいます。
 

(1)特別受益

特定の法定相続人が、被相続人から受けた特別な利益のことをいいます。この利益については、「相続財産の前渡し」と見なし、特別受益を受けた相続人(特別受益者)の相続分から特別受益分を減らすことで、他の相続人との公平を図るようにするものです。
 
具体的によくある事例としては、特定の相続人が被相続人から自宅の購入資金や建築資金をもらっていた、生活費の援助を受けていた、不動産の贈与を受けたなどが挙げられます。なお、特別受益には生前贈与とともに、死因贈与や遺贈によるものも含まれます。
 

(2)寄与分

法定相続人の中で、被相続人の財産形成や、その維持に特別の寄与をした者に対し、相続分に寄与分を加算して取得させることで、実質的な公平を図る制度のことをいいます。
 
具体的によくある事例としては、被相続人の家業の手伝いをしていた、被相続人に対して長年介護をしていたなどが挙げられます。
 
今回の改正により、相続開始から10年経過した後には、これらの特別受益や寄与分を主張することができなくなります。
 
そのため、遺産未分割または遺産分割協議が継続中などの場合で、上記のような事例に該当し、特別受益や寄与分を主張したいケースには、10年の期限があることを意識しておきましょう。
 

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施行日前の相続にも適用される

今回の改正は、施行日前(令和5年3月31日以前)に相続開始した場合にも適用されます。ただし、経過措置として施行日から5年間の猶予期間が設けられています。経過措置の概要は以下のとおりです。
 

(1)令和5年4月1日時点で既に相続開始から10年を経過していた場合

経過措置として施行日から5年間の猶予期間が認められ、その間は具体的相続分による遺産分割ができます。
 

(2)令和5年4月1日以降、5年経過前に相続開始から10年を経過する場合

同じく経過措置として、施行日から5年間の猶予期間が認められます。
 

(3)令和5年4月1日以降、5年経過後に相続開始から10年を経過する場合

このケースでは経過措置は認められず、原則どおりに相続開始から10年が経過した後には具体的相続分は適用できなくなります。
 

10年経過後でも具体的相続分が適用できるケース

相続開始から10年経過した後でも、相続人全員の合意によって、法定相続分や指定相続分とは異なる遺産分割をすることは可能です。
 
また、相続開始から10年経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたときや、10年の期間が満了する6ヶ月以内に遺産分割の請求ができないやむを得ない事由が相続人にあり、当該事由の消滅時から6ヶ月経過前までに当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合には、例外として具体的相続分を適用することができます。
 
つまり、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で10年を経過しそうな場合でも、家庭裁判所に遺産分割請求することで特別受益や寄与分を適用できるケースがあるということです。
 

まとめ

今回の改正の背景には、遺産分割がされないまま相続財産が長期間放置されることで発生する「相続関係の複雑化」や「所有者不明土地」などの諸問題があります。それに併せて、令和6年4月からは「相続登記の義務化」もスタートします。
 
一部の相続人が特別受益や寄与分を主張することは、遺産分割協議自体がもめ事となってしまう原因になる場合もあります。ただし、この改正は施行日前の相続も対象となるため、該当する方は5年の猶予期間を意識した対応が必要となります。
 
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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