更新日: 2023.11.21 遺言書

「不動産(土地建物)」の相続人を生前に決めておきたい! 正式な手続きとは?

執筆者 : 小山英斗

「不動産(土地建物)」の相続人を生前に決めておきたい! 正式な手続きとは?
相続は、亡くなった人(被相続人)が所有していた資産を親族(相続人)などが承継する制度です。
 
では、その生前に自分の意思を相続に反映させる方法はないのでしょうか? この記事では、その方法の1つである遺言書について解説します。
小山英斗

執筆者:小山英斗(こやま ひでと)

CFP(日本FP協会認定会員)

1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ

人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。

「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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遺言書とは被相続人の意思を反映させたもの

遺産分割には、法律で決められた法定相続分に沿って決める方法や、相続人同士が相談して決める「遺産分割協議」を行う方法があります。それらは資産配分について、被相続人の意思が確認できない場合にとられる方法です。
 
一方で、自分が亡くなったときに、残した資産について「誰に・何を・どのくらい」相続したいか、その考えを資産配分に反映させるために書面に残したものが「遺言書」です。
 
遺言書を準備することによって、生前に自分の意思を相続へ反映させることができます。被相続人の遺言書がある場合の相続では、原則、被相続人の考えを尊重するために遺産分割協議などは行わず、遺言書に沿って資産配分を進めることになります。
 
遺言書を残すことによって、例えば「不動産(土地建物)」といった特定の資産を特定の人に相続させる、などのことも可能となります。また遺言書には、親族など法定相続人以外の人も受遺者として指定することもできます。
 

遺言書を残した方がよいケース

遺言書は必ずしも残す必要はありません。例えば法定相続人がいて、かつ「資産配分は相続人同士で決めてくれればよい」と思っている場合は必要ないでしょう。しかし、次のようなケースでは、遺言書を用意することを検討した方がよいでしょう。


・資産の配分について自分の考えを反映させたいとき
・残された家族や親族間で相続争いなどのトラブルが生じることが考えられるとき
・法定相続人以外にも資産を残したい人がいるとき
・法定相続人がいないとき

法定相続人や特別縁故者がいない人の場合、遺言書がないと、残された資産は全て国庫に帰属することになります。そのため、そのような人が資産を誰かに残したいのであれば、遺言書は必須になります。
 
なお、特別縁故者とは被相続人と特別親しい関係(被相続人と生計を同じくしていた、被相続人の療養看護に努めていたなど)にあったことを理由に、法定相続人がいないときに家庭裁判所によって「相当の関係がある」と認められた場合に、遺産の全額または一部を取得できる人のことです。
 
特別縁故者と認められるためには、「相続財産清算人選任の申し立て」や、相続人がいないことが確定した後で行う「特別縁故者に対する相続財産分与の申立て」などの手続きを、特別縁故者が自ら進めていく必要があります。
 

遺言書を残す流れ

遺言書には書き方などのルールがあり、ルールが守られていない遺言書は無効となることに注意が必要です。遺言書作成の手順として、例えば次のような流れが挙げられます。


1.相続人と法定相続分の相続割合、遺留分割合※1を確認する
2.資産や負債を把握してリストアップする(財産目録の作成)
3.誰に何をどのくらい相続するのかを決める
4.遺言内容や遺言執行者※2を決める(遺言執行者の選任は任意)
5.普通方式で3種類のある遺言書「のうち、どの遺言にするのかを決めて遺言を書く

※1:民法で定められた、遺言に優先して相続人のために残しておくべき最小限度の財産の割合のこと
※2:遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人

遺言書には3つの種類があります。それぞれに異なる手続き方法やメリット・デメリットがあります。
 

自筆証書遺言

自筆証書遺言は遺言者が自筆で作成する遺言書です。本文や氏名、日付を全て自筆し、押印(認印可)する必要があります。
 
ただし、添付する財産目録についてはパソコンでの作成や不動産(土地建物)の登記事項証明書・通帳のコピー等の資料を添付する方法が認められています。他の遺言と異なり、証人は不要です。
 

メリット デメリット
・証人の必要もなく、いつでもどこでも作成できる
・遺言した事実も内容も秘密にできる
・費用がかからない
・詐欺に利用される可能性や、
紛失、隠匿、偽造などの危険がある
・内容に不備があり無効になる可能性がある
・遺言者が亡くなった後、遅滞なく検認手続きをする必要がある

 
自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認が必要なことに注意しましょう。検認は、遺言書が所定のルールにのっとって作成されているかを確認する手続きです。また、検認前に遺言書を開封した場合などには法律上過料(5万円以下の過料など)があることにも注意しましょう。
 
ただし、検認前に開封しても遺言書が無効になることはありません。なお、2020年7月より「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。この制度は、自筆で作成した遺言書を法務局(制度が利用できる法務局を「遺言書保管所」といいます)で保管してもらえるものです。
 
この制度を利用することにより、紛失のリスクをなくすことができる、検認の手続きが不要になる、などといったメリットがあります。また、遺言者があらかじめ希望した場合には、遺言者が亡くなったときに、あらかじめ指定された人へ、遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらうこともできます。
 
保管時には、民法が定める自筆証書遺言の形式に適合しているか、法務局職員による確認が受けられますので、無効な遺言書となるリスクも軽減できます。ただし、この確認は遺言書の有効性を保証するものではないことに注意が必要です。なお、制度を利用する際は、3900円分の遺言書保管手数料がかかります。
 

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場において2人以上の証人の立ち会いのもと、遺言者が口述した遺言を公証人が筆記して、遺言書を作成します。遺言者と証人が作成された遺言書を確認した後、各自が署名押印します。そして公証人が、方式に従って作成された遺言書である旨を付記して署名押印します。
 

メリット デメリット
・公証人により作成されるので、証拠能力が高く、
安全で確実な遺言にできる
・遺言書原本を公証人が保管するため、偽造や隠匿の危険がない
・検認手続きが不要
・公証人の関与により、作成手続きに手間がかかる
・遺言の存在と内容を秘密にできない
・公証人の手数料などの費用や、証人2人以上の
立ち会いを必要とする

 

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言を残したという事実を明確にしたいけれど、内容を生前に知られたくない場合に利用します。あらかじめ作成し封をした遺言書を、証人2人以上とともに公証役場に提出し、公証人の前で遺言者が遺言である旨と住所氏名を申述します。その後、公証人が日付と遺言者が申述した旨を封書に記載し、遺言者、公証人、証人それぞれが署名、押印します。
 

メリット デメリット
・遺言があることを明確にでき、かつその内容を秘密にできる
・偽造の危険が少ない
・署名押印できれば、自筆証書遺言のような
全文自書の必要がない
・公証人の関与により、作成手続きに手間がかかる
・公証人が遺言書の内容を確認しないので、あいまいな
内容だったり、実現可能性に問題があるようなときに、
紛争が起きる可能性がある
・証人2人以上の立ち会いや、検認手続きが必要

 

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不動産(土地建物)に関わる遺言書の書き方の注意点

不動産(土地建物)については法務局で最新の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、そこに記載のとおりの項目を遺言書に記載することが大切です。普段使っている住所の番地などは住所表示のための番地となっており、登記簿謄本に記載されている土地の「地番」とは異なる場合があるので、注意しましょう。
 
また、登記されていない建物などの場合は、役所で固定資産評価証明書などを取得してその内容を記載し、家屋番号の欄には「未登記」と記載した上で「上記建物は未登記のためXX年X月X日付XX市長XX作成家屋評価証明書の記載による」のように付記するようにしましょう。
 

その他の遺言書の注意点

遺留分は法定相続人が最低限受け取ることを請求できる財産の取り分(法定相続割合の2分の1または3分の1)のことです。
 
たとえ遺留分を無視した遺言書を残していたとしても、法定相続人が遺言書の内容を承知・納得しなければ、法定相続人は遺留分について請求できることに注意が必要です。なお、法定相続人でも兄弟姉妹は遺留分の権利対象外です。
 
もし「遺留分すら相続させたくない」と考えている場合は、生前に「相続人の廃除」という手続きを取る、または遺言書にその意思表示をすることで、特定の相続人から遺留分を含めた相続の権利を失わせることが可能となります。
 
ただし、相続人の廃除が認められるのは、相続人による虐待や重大な侮辱、相続人の著しい非行が家庭裁判所に認められた場合に限られます。
 
なお、相続人となるべき人が故意に被相続人を殺害したり、詐欺や脅迫によって遺言書を書かせたりしたような場合でも、その相続人は「相続欠格者」となり、相続人としての資格を失うことになります。
 
また、基本的には被相続人の意思が尊重される遺言書があったとしても、相続人と受遺者(遺言による贈与(遺贈)を受ける人)全員の合意があれば、遺言とは異なる方法による遺産分割が可能とされています。
 
この場合は、相続人同士で決めた遺産分割内容で遺産分割協議書を作成すれば、そのとおりに相続手続きを進めることができます。逆に言えば、相続人と受遺者のうち1人でもそれに反対した場合には、遺言書どおりに遺産を分けなければなりません。
 

まとめ

一度遺言書を作成した後でも、財産に変化が生じたり、資産の配分を考え直したりした結果、遺言書を書き直したいと思うこともあるかもしれません。遺言書は一度作成した後でも、加筆修正をすることができます。
 
ただし、加筆修正をする場合でも遺言が無効とならないように、ルールに沿った方法で手続きすることが重要です。遺言書を残すにはルールに沿った手続きが必要なため、自分で準備するのが不安な人は弁護士や司法書士などの専門家へ相談することも検討しましょう。
 

出典

政府広報オンライン 知っておきたい遺言書のこと 無効にならないための書き方、残し方
法務省 遺言書の様式等についての注意事項
法務省 自筆証書遺言書保管制度について
 
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)

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