更新日: 2023.12.22 その他相続

今さら聞けない?「相続」の種類や順位、手続きの基本を一挙に解説

今さら聞けない?「相続」の種類や順位、手続きの基本を一挙に解説
親が亡くなった後に遺言書を発見し、納得できない内容の遺産分割指示があった場合には、不満に思いながらもそれに従うしかないと考えがちです。しかし、相続人全員が協議に参加して合意すれば、遺言書の内容と異なる相続割合に変更することができます。

このように、相続には「法定されている原則」と「後から変更できる例外」があり、それぞれの手続きには要件や期限があるため、複雑な内容に注意しながら確実に手続きを終えていかなければなりません。

この記事では、相続の種類や相続財産、相続人の範囲と順位および手続きの期限などを紹介し、よくある揉めごとの事例や早期の相続準備対策の重要性についても解説していきます。
菅野 正太

監修:菅野 正太(かんの しょうた) / 弁護士

上智大学法学部法律学科 卒業
早稲田大学大学院法務研究科 卒業。
弁護士法人永総合法律事務所の勤務弁護士

中小企業法務、不動産取引法務、寺社法務を専門とする弁護士法人永総合法律事務所の勤務弁護士。
第二東京弁護士会仲裁センター委員、同子どもの権利委員会委員

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相続財産・相続人の範囲・遺産分割方法とは

相続手続きの前提になる「相続対象となる財産」「遺産を受け取れる人」「遺産分割の3つの方法」について解説します。

相続対象となる財産とは?

相続財産とは、被相続人(亡くなった方)が生前に所有していた財産(例えば不動産や預貯金および有価証券や貸付金など)のことです。

相続財産は相続した方にとって収益となる
プラスの財産だけでなく、被相続人が負っていたマイナスの財産も含まれます。

下記はプラスの相続財産とマイナスの相続財産の一例です。

なお、税法上の取り扱いはこれと異なる場合があるため、詳しくは税理士などの専門家に確認することをおすすめします。

プラスの相続財産

・現金、預貯金
・株式や債券などの有価証券
・不動産
・不動産上の権利(借地権・地上権など)
・パソコン、自動車などの動産
・貴金属類、絵画などの高価品
・ゴルフやリゾートの会員権など

マイナスの相続財産

・借金
・未払金(光熱費、家賃、クレジット請求など)
・税金(所得税、住民税、固定資産税)
・保険料(健康保険、社会保険)

下記については相続財産に含みません。

・祭祀財産(墓地や仏壇や位牌など)
・一身専属権(その人固有の権利義務、生活保護・国家資格・扶養義務や親権など)

【関連記事】
相続にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産もある その1-債務控除の位置付けと借入金
相続にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産もある その2 -未払金と葬式費用

相続人になれる人とは?

相続人になれるのは、被相続人の配偶者(夫や妻)、直系卑属(子どもや孫)、直系尊属(父母、祖父母など)、傍系血族(兄弟姉妹)です。

なお、配偶者がいる場合には配偶者は常に相続人に含まれます。その他の順位は下記のとおりです。

それ以外の者が相続できる順位

第1順位:直系卑属
子ども、代襲相続が発生している場合は孫など

第2順位:直系尊属
父母、父母ともに死亡していて祖父母が健在の場合には祖父母

第3順位:傍系血族
兄弟姉妹、代襲相続が発生している場合は甥や姪

ただし、上位の相続人がいる場合には後順位の者は相続人になれません。つまり、配偶者と子どもと父母がいる場合の法定相続人は配偶者と子どものみであり、先順位の子どもがいる父母は相続人にはなりません。

遺産分割の進み方

遺産分割は遺言の有無や協議の成否によって進行が異なっていくところ、下記の3つの段階に分類して進行を見ていきます。

●遺言

●遺産分割協議

●遺産分割調停や審判

遺言

遺言とは、被相続人が相続財産を譲る者や対象財産や分割割合などを指示した被相続人の意思であり、書面に書かれた遺言書として残されるのが一般的です。
遺言がない場合には相続財産は法定相続人の間で法定相続分を前提に遺産分割の協議を行いますが、遺言書がある場合には遺言の内容を前提に遺産分割協議を行うことがあります。

日本では遺言には法定の様式があり、現時点(2023年12月)で動画や音声に遺言としての法的効力はありません。
しかし、法的な効力はないとしても被相続人が生前に残した動画や音声にしたがうことまでは禁止されておらず、むしろ動画や音声によって、故人の意思を明らかにしておくことで揉めごとを回避できる場面もあります。

なお、一定の信憑性や説得力がある動画や音声が遺言書と同様の証拠として認められている国もあります。
但し、画像加工やAI技術により容易に変造ができて見分けがつかないという懸念があるため、動画や音声はあくまで、手がかりの一つとしておき、被相続人が生きている間に専門家の助力を得ながら遺言書として書面に残しておくことが大切です。

遺産分割協議

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産を受けとる人や分配する遺産の指定および分割の割合などの協議を行うことを指します。

遺産分割協議書は相続人全員による作成が必要となり、一人でも欠けていれば無効となります。そのため、遺産分割協議書を作成する場合、法定相続人全員が署名および実印の押印をして印鑑証明書を添付します。

なお、法定相続分とはあくまで相続割合の目安でしかなく、相続財産は遺産分割協議で相続人全員の同意があればどのように分けても問題ありません。

さらに、遺言書で財産の範囲や相続割合について指定がある場合でも、遺言書の内容に不満がある場合に相続人全員の同意が得られれば、遺言書よりも遺産分割協議内容を優先させることもできます。

ただし、遺言書でも遺産分割協議でも、遺留分の侵害は揉めごとの原因になることが多いため注意が必要です。(※遺留分とは法律で保証される遺産の最低限の取り分になります。)

遺産分割調停や審判

遺産分割調停とは、遺産分割協議を行ったものの全員の同意が得られない場合に、申し立てを受けた家庭裁判所の調停委員や裁判官が、各相続人の意向を汲み取りながら調整することによって合意を目指す方法です。

遺産分割調停で全員が合意すれば調停は成立し遺産分割の内容が確定します。遺産分割調停は、 スムーズに進めば3ヶ月程度で終了する場合もありますが、お互いが一歩も引かないような場合には1年以上続くことも珍しくありません。

但し、お互いの意見が相容れず感情的になってしまうなど遺産分割調停で合意できそうにない場合は、法的強制力のある 遺産分割審判へと移行して最終的な決着に至ります。

調停委員とは常設の裁判所職員のような公務員ではなく、調停のために裁判所に選任された民間人であり、調停委員の労務に対して報酬が支払われるのが一般的です。調停委員に選任される基準は、法律、ビジネス、地域社会などの豊富な経験を持ち、公平性と中立性を保つにふさわしいと信頼された人物です。

相続の優先順位と割合の法定ルール

民法では、相続人の構成や優先順位および法定相続分について法律で定められています。

法定相続分(法定相続による相続割合)

日本の民法では、相続人の優先順位や相続分が法定されています。 配偶者がいる場合に配偶者は必ず相続人に含まれますが、それ以外の相続人との組み合わせによって、法定相続分は以下の図表1のようになります。

*人数が複数いる場合は、当該法定相続分を人数で分ける形になります。
(例:配偶者と子2人の場合、子一人当たりの法定相続分は、4分の1)

図表1

相続人の構成メンバー 各相続人の法定相続分割合
配偶者 子ども 父母 兄弟姉妹
・配偶者のみ 全部
・配偶者
・子ども
2分の1 2分の1
・配偶者
・父母
3分の2 3分の1
・配偶者
・兄弟姉妹
4分の3 4分の1
・子どものみ 全部
・親のみ 全部
・兄弟姉妹のみ 全部

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分を基に筆者作成

遺留分(法律で保証される遺産の最低限の取り分)

遺留分とは、法定相続人に保証される最低限の遺産取得分であり、被相続人の遺言でも侵害することはできません。

したがって、ある特定の相続人が遺言によって多額の遺産を相続することになっていたとしても、遺留分の権利を持つ別の相続人が「遺留分相当額にあたる金銭を支払え」と主張して手続きをすれば、遺留分の割合に相当する金銭を取り戻せます。なお、相続人の組み合わせと遺留分割合は以下の図表2のとおりであり。具体的な遺留分額は、全体の遺留分割合に各相続人の法定相続分を乗じた金額になります。
(例:相続人が配偶者と子1人の場合で、1000万円の遺産を配偶者で全額取得した場合の子の遺留分 1000万円×2分の1×2分の1=250万円)

この請求権は「遺留分侵害額請求権」というもので、請求権者が「相続の開始および遺留分侵害の事実」を知ったときから「1年以内」に遺留分を請求する必要があります。

つまり、被相続人の死亡や遺留分を侵害する不公平な遺言、遺贈を知りながら1年間放置すれば、遺留分侵害額請求権は消滅します。また、相続開始や遺留分侵害を知らずに相続開始から10年経過しても「除斥(じょせき)期間」によって請求権を失います。

以前は「遺留分減殺(げんさい)請求権」とよばれる「遺産そのもの」の返還を請求する手続きでしたが、2019年(令和1年)7月1日に改正された相続法によって侵害分に相当する「お金」で返還を受ける制度に変わりました。

相続人に対して特別寄与料の請求が認められる

「寄与分」とは相続人が被相続人の財産の保存や増加に対して特別な貢献をした場合に、その貢献度で考慮した相続割合を付与するなど、貢献度を相続分に反映させる制度です。

特別寄与料とは、相続人でない親族(相続人の配偶者など)も被相続人に特別な貢献をした場合、貢献度に応じて金銭請求できる制度で、2019年7月1日施行の相続法の改正によって創設されました。

例えば、被相続人の介護を長期にわたって行った第三者が、その貢献に相当する金銭を相続人へ「特別寄与料」として請求できるという制度です。

特別寄与料は一般的に家庭裁判所が判断しますが、特別な寄与を行う本人が日誌、メモ、動画、音声などで記録したものによって証明する必要があり、そのハードルは比較的高いといえます。
被相続人もその者の貢献や財産の遺贈について遺言に記載するなどの後押しをしておくとよいでしょう。

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相続手続きの流れ(実行時期と手続き内容)

相続手続きは、被相続人に関係する財産、それ以外の権利やサービスの廃止や切り替えなどたくさんの手続きが必要となります。

各種手続きを実施する時期や内容については、以下の図表2をご参照ください。

図表2

手続き時期 手続き項目 申請先
7日以内 死亡届 最後の住所地の役所へ申請
14日以内 国民年金・国民健康保険の廃止 国民年金:年金事務所へ申請
国民健康保険:自治体へ申請
3ヶ月以内 相続放棄・限定承認・単純承認 家庭裁判所へ申請
10ヶ月以内 相続税の申告と納税 税務署へ申請と納付
なるべく早く 相続人の確定
相続財産の調査
公共料金や利用サービスの変更
・遺言書あり:自筆証書遺言の検認
・遺言書なし:遺産分割協議の開催
預貯金・有価証券などの手続き
生命保険金の請求
不動産の名義変更
その他の手続き
戸籍取り寄せ
資産の書類調査
廃止・名義変更の申請
・家庭裁判所へ未開封の遺言書を提出
・協議書の作成(司法書士など)
金融機関金融期間・証券会社・販売所へ申請
生命保険会社へ申請
法務局(司法書士など)
サービス元などへ適宜

筆者作成

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相続でよくある揉めごとの事例

相続時の揉めごとの大半は、相続人間の意見の対立によって起こります。揉めごとの原因になる4つの事例について解説します。

揉めごと(1)遺言の内容(遺留分の侵害)

被相続人は「誰に」「どの財産を」「どの割合で」相続させるかを自由に決められます。

しかし、実際の分割手続きは被相続人が亡くなった後で行われ、各相続人の経済状況や思惑などによって意見が対立するため、分割内容や遺留分の侵害で揉めるケースは少なくありません。

そのため、特定の相続人に偏った財産配分になっている場合には注意が必要です。

したがって、遺言書の作成は遺留分の侵害が起こらないかを確認しながら行い、分割しづらい財産、価値判断や好き嫌いが分かれそうな財産は生前に処分してしまうのも揉めごとの減少につながります。
また、被相続人の財産内容が変わったときや数年ごとなど定期的に、遺言の内容を見直して更新すると良いでしょう。

揉めごと(2)遺産分割協議で合意が成立しない

遺産分割協議は、同時にその場に揃う必要はないものの、必ず全ての相続人が協議に参加して相続財産を誰にどの割合で分配するかを話し合うため、多数の相続人が遠方など、広範囲に住んでいる場合には協議成立の難易度が上がります。

また、被相続人が再婚している場合には再婚前の子どもと再婚後の配偶者や子どもとが配分を巡って争うことも少なくありません。

また、生前にもらい受けた進学費用や自宅購入費用などが特別受益(法定相続人の一人が特別に得ていた利益)にあたるのかの判定も意見が分かれやすく「特別受益の持ち戻し計算」の金額でも意見が分かれます。

相続でこのような金銭があると取り分に不公平感が出やすいため、揉めごとの原因になることがあると覚えておきましょう。

揉めごと(3)不動産など不可分財産の分配

不動産は多くの場合に分けられない財産として揉めごとの原因になります。

例えば、実家や収益不動産(毎月一定の賃金収入がある不動産)などを単独で相続しようとする人が、他の相続人の所有権持分を金銭で買い取る、もしくは他の財産を渡してバランスをとるという精算方法があります。

このときに、不動産の価格査定および精算する金銭や代替資産の額について、相続人間で意見が合わなければ揉めごとになるのです。

相続準備に早く着手すべき理由とは

相続開始後の手続きには期限があるため迅速に行う必要がありますが、相続準備についてもできるだけ早く取りかかるべき3つの理由を解説します。

代襲相続や再転相続、数次相続を起こさせない

代襲(だいしゅう)相続とは、相続人が被相続人よりも先に亡くなった場合に、その相続人の子どもが代わりに相続人になる制度です(直系卑属は何代でも制限はありませんが、兄弟姉妹は一代のみになります)。

再転相続(再転相続)とは、被相続人の死亡後、3か月の熟慮期間経過「前」に相続人が死亡して、二次相続が発生することを指し、数次(すうじ)相続とは、被相続人の死亡後、熟慮期間経過後で遺産分割などが終わる前に相続人が死亡して二次相続が発生するなど、相続が立て続けに起こった状態を指します。

相続手続きを怠っていると、代襲相続や再転相続、数次相続によって相続人の人数や関係が複雑になるため、相続手続きはできるだけ早く準備に取りかかり早く完了させる必要があります。

なお、2024年4月1日には「相続登記義務化」がはじまり、それ以前の全ての相続登記は「相続を知った日または遺産分割協議が成立した日、制度開始前の相続は制度開始日などから3年以内」に完了させなければ10万円以下の過料が科される場合があるため注意が必要です。

生前贈与の節税効果を解消させないため

2023年12月時点では、生前贈与により分配された財産を相続財産として加算してから相続税を計算する遡及期間は相続開始前3年以内ですが、2024年6月1日からはその遡及期間が7年へと延長されるため、生前贈与による相続税の節税効果は実質的に縮小することが決まっています。

つまり、被相続人が生きているあいだの早い段階から取りかかることで、被相続人の財産を身内などへ分配する生前贈与の節税効果を最大限活かすことができます。

相続争いを意識した財産形成をするため

多くの被相続人は「自分の家族だけは相続争いとは無縁だろう」と考えていますが、実際には財産の取り分を巡って不公平感や不満を覚えるケースは少なくありません。

相続で揉めれば不要な時間や手続き費用がかかり、身内の関係が悪化するなど良いことはありません。そのため、被相続人の思いとは別の視点で遺産相続の不公平感をなくす配慮や努力が重要です。

また、価値判断が分かれる財産や維持管理が大変な財産は生前に処分して、相続財産自体のボリュームも減らしておくとよいでしょう。

まとめ|できるだけ生前に相続対策を

相続後の手続きには様々なものがあり、その多くでは期限が決まっています。特に遺産分割では複数の相続人が納得する配分にして合意しなければ調停などの法的手続きに発展する可能性があります。

また、財産によっては管理の手間やコストがかかるものもあり相続関連の法令は年々変化していくため、特に不動産会社・税理士・弁護士、司法書士など相続の手続きでは欠かせない専門家にサポートしてもらうことが大切です。

被相続人が自由な内容で作成できる遺言書ですが、揉めごとの火種になる場合があることを想定してバランスに配慮して作成し、意見の相違や揉めごとは小さいうちに適切で迅速に解決することが大切だといえるでしょう。

出典

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
国税庁 令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
法務局 法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)

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