父親からの遺贈を放棄したら相続人にはなれないって本当?
配信日: 2018.10.15 更新日: 2019.01.10
遺贈も相続も、故人から財産を受け継ぐという点においては同じですが、両者の間にはさまざまな問題があります。
その問題の1つに、「相続人のうち1人が被相続人(故人)から遺贈を受けていたとき、その遺贈を放棄したら相続人たる地位も失ってしまうのか?」という問題があります。
はたして、遺贈を放棄したら、それと同時に相続人としての地位も失ってしまうのでしょうか。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
遺贈の放棄は相続の放棄?
父が亡くなったことにより発生した相続の手続きを進めるため、兄弟であるAさんとBさんは遺言の内容を確認しました。
すると、遺言には「家はAに遺贈する」との一文が記載されていました。
家よりも他の財産が欲しいと感じたAさんは、「俺は家はいらないかな。親父には申し訳ないけどこの遺贈は放棄するよ」と遺贈を放棄しました。
その日はそれ以上、特に話が進むこともなく、遺産に関する話は後日持ち越しとなりました。後日、Aさんは再び遺産について話し合おうとBさんを訪ねたところ、BさんはAさんに対しこう言いました。
「以前、遺贈を放棄したじゃないか。それって遺産を相続しなくてもいいってことだろ? 遺贈での財産の受け継ぎは拒否するのに相続での財産は受け継ぐっておかしくないか?」
それについてAさんはこう反論しました。
「放棄したのはあくまでも遺贈によって家を受け継ぐことであって、相続によって財産を受け継ぐことまでは放棄していない!」
さて、遺贈を放棄したAさんは相続する権利についても放棄をしたとみなされ、通常の相続人として相続することができないのでしょうか。
遺贈を放棄しても相続を放棄したことにはなりません
まず結論からいきましょう。
結論としては「Aさんは相続人として通常どおり財産を相続することができる」となります。
たしかに、相続人でもある受遺者(遺贈を受けた人)が遺贈を放棄した場合、財産を受け継ぐ相続も一緒に拒否したと考えられないわけではありません。にもかかわらず、通常どおり相続人として相続財産を受け取ることができるのはなぜでしょうか。
それは、相続人たる地位と受遺者としての地位は別物であるからです。
今回の事例におけるAさんは、たまたま遺贈を受けていたために受遺者としての地位も、相続人としての地位も得ていました。だからといって両者の地位が混ざり合うことはありません。相続人としての地位だけを利用し、受遺者としての地位だけを放棄するということも可能なのです。
それにより、今回の事例におけるAさんは、家の遺贈については放棄しつつも、相続人として財産を受け継ぐことができるのです。
逆に、Aさんが財産を一切受け継ぎたくないと考えるのであれば、遺贈を放棄するだけでは不十分です。遺贈を放棄したとしても相続人としての地位は放棄されないため、遺贈の放棄にくわえて相続放棄の手続きもする必要があるのです。
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受遺者としての地位と相続人としての地位は別物
受遺者としての地位と相続人としての地位は別物であり、基本的には遺贈を放棄しても相続まで放棄したとはみなされません。
しかし、遺贈の放棄は基本的に撤回することできません。(民法989条1項)
遺贈の放棄を行う際は本当に放棄してもよいのかどうかしっかり考えてから行うようにしてください。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士