更新日: 2024.04.22 贈与
生前贈与とは? 改正による変更点や節税対策のポイント・注意点を解説
この記事では、生前贈与の法的側面、税制面のメリット、生前贈与を利用するシーン、相続税と贈与税の違い、更に最新の税制改正による変更点について詳しく解説します。
生前贈与を上手に利用することで、相続税の節税や家族間の争いを減らすなど、様々なメリットが期待できます。しかし、それには適切な理解と計画が不可欠です。
この記事では、生前贈与の基本から最新の改正情報まで、幅広くご紹介します。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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目次
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生前贈与とは?
「生前贈与」とは、個人が生きている間に、他の個人に財産を無償で譲渡することを指します。
相続において生前贈与は、相続発生前に財産を移転することにより、財産の分配を計画的に行うことを可能にし、上手に行えば税制面での節税効果もあります。また、贈与される財産には、現金、不動産、株式などが含まれます。
生前贈与の法的側面
生前贈与は、贈与者(財産を渡す人)と受贈者(財産をもらう人)の間の契約に基づいて行われる片務契約(一方にのみ義務が発生する契約⇔双務契約:売買など、双方に義務が生じる契約)です。
贈与者にのみ財産を渡すという負担がありますが、受贈者も財産をもらうとはいえ承諾が必要です。また、贈与契約は口頭でも成立しますが、贈与行為を実行するまでは贈与者が一方的に解除しても法律上問題はありません。(民法550条)
また、贈与については暦年課税の場合は年間110万円を超える贈与については贈与税が課税されるので、翌年3月15日までに申告が必要です。また、不動産の贈与を受けた場合には、不動産取得税も課税されます。
更に、生前贈与は贈与者が死亡した際の相続税や遺産分割にも影響します。
生前贈与を利用するシーン
生前贈与は、生活資金を子どもに提供する、家族の住宅購入を支援する、家業の承継を円滑にするなど、様々なシーンで利用されます。また、相続税の節税対策としても用いられることがあります。
生前贈与のメリット
生前贈与には税制面、遺産分割対策、事業承継など様々な面でメリットがあります。各シーンごとのメリットを詳しく解説します。
生前贈与のメリット(1)相続税対策
一般に贈与税は相続税より税率が高いことが知られていますが、暦年課税方式では年間110万円までは非課税ですので、この非課税枠を上手に使って生前贈与を行うことで、相続発生時の財産の総額を減らし、相続税の負担を軽減することができます。詳しくは、相続税の節税対策の項目で解説します。
生前贈与のメリット(2)相続対策
生前に財産を少しずつ贈与することで、家族間の不和を未然に防ぐことにもつながります。生前贈与することで、最終的な遺産分割の方向性と意思が示されるので、実際の相続の際にも、生前の意図が伝わり易くなり、相続争いに発展するリスクを減らすことができます。
また、自宅の後継者以外に家を建てるための土地を贈与したり、建築資金を贈与することで、遺言書を書いた時の遺留分対策にも役立ちます。
生前贈与のメリット(3)資産管理の柔軟性向上
生前贈与を活用することで、資産の管理をより柔軟に行うことができます。例えば、資産活用のためにアパートを建築する際でも、アパートの所有権を一部子どもに生前贈与すれば、本来相続時まで貯まってしまう家賃収入を共有者の取り分として、先に渡すという節税対策も可能です。
生前贈与のメリット(4)家族間の経済的支援
生前贈与は、教育費の支援、住宅購入の支援など、親子間での経済的な援助を行う手段としても有効です。これにより、受贈者は財政的なサポートを受けることができ、その後の生活設計にも余裕ができることになります。
生前贈与のメリット(5)税制面
生前贈与は、暦年課税方式の基礎控除を活用することで、税負担を抑えることが可能です。また、相続時精算課税、住宅資金贈与といった特例もあり、要件を満たせば贈与税が免除される制度も存在します。これらを最大限活用して、負担を少なく若い世代に財産を引き継ぐことができます。
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贈与税と相続税の違い
贈与税は相続税と同列に扱われることがありますが、別の法律を根拠にしており、税率・計算方法など違いが多くあります。
そもそも相続税は、相続する財産が増えるほど税率が上がる累進課税制度を取っており、多く遺産相続した人から多く税金を徴収することにより、資産の再分配を図るという役割を果たしています。
また、贈与税は生前に贈与することで相続税の課税を逃れようとする行為を防ぐという意味で、相続税を補完する役割を果たしています。
ここでは、相続税と贈与税の違いについて詳しく解説します。
税率と計算方法の違い
贈与税と相続税は、その税率と計算方法が異なります。贈与税は個々の贈与に対して課税され、相続税は被相続人の死亡時点での総財産に基づいて計算されます。
適用される税法の違い
贈与税と相続税は、適用される税法が異なり、贈与税は贈与税法に、相続税は相続税法に基づいて規定されています。
課税対象となる資産の違い
贈与税は、それぞれの個人が1年間に受けた贈与に対して適用されます。一方、相続税は被相続人の全財産に対して適用されます。
基礎控除や特例の違い
贈与税と相続税には、基礎控除額や特例の適用に差異があります。
例えば、相続税には配偶者控除や小規模宅地等の特例があり、贈与税には暦年課税方式の年間110万円控除(非課税)や教育資金控除、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用財産を贈与する際の2000万円控除などが存在します。
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贈与税を節税できる仕組み
贈与税は個人一人一人について、年間110万円の基礎控除(非課税)がありますので、この基礎控除を効率よく使って贈与税を節税できますが、これ以外にも特例や特別控除を使って節税することができます。ここでは各制度について詳しく解説します。
贈与税の節税対策(1)年間の暦年課税方式による110万円控除(非課税)の利用
生前贈与において重要なのが、年間基礎控除額の理解です。現行の税制では、1人の贈与者から1人の受贈者への年間贈与総額が110万円以下の場合、贈与税が発生しません(非課税)。
この制度を利用することで、節税しつつ、資産を移転することが可能です。具体的な利用方法としては、複数年にわたり分割して贈与を行うことが挙げられます。
例えば300万円の贈与を受ける際、1回の贈与で300万円を受け取ると、基礎控除110万円を差し引いた190万円に贈与税が課税されますが、100万円を3年間に分割して贈与を受ければ贈与税は課税されません。贈与者が高齢でなければ、継続して数年間の贈与を行うことも可能です。
ただし、大きな額の贈与を分割して支払うような贈与については、一度の大きな贈与とみなされる場合がありますので、計画的な贈与については税理士に相談の上で実行しましょう。
贈与税の節税対策(2)特例制度の活用
特例制度の中で特に注目すべきは、教育資金贈与の特例や住宅取得資金の特例です。
「教育資金贈与の特例」では、子や孫への教育資金としての贈与に最大1500万円という控除枠が設けられています。使用目的は教育資金に限られ、贈与者が死亡した場合には使っていない残額が相続で受け取ったものと相続財産に加算されますが、それでも1500万円までの贈与が無税にできるということは、大きな節税対策となります。
また、「住宅取得資金」に関しても、直系の子や孫が住宅を建築する場合に援助できるよう、最大1000万円までの贈与が非課税となります。
これらの特例を活用することで、より効果的な資産移転が可能になり、結果として相続税の節税につながります。
贈与税の節税対策(3)相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、60歳以上の親から18歳以降の子に、2500万円までの贈与は毎年の申告を要件として贈与時には非課税とし、相続が発生した時点で相続税として計算しなおして税金を精算する制度です。
この制度を利用すると贈与時点での税負担を先送りし、将来の相続税と合わせて計算することができます。この制度は、大きな資産移転を予定している場合に特に有効です。
後述しますが、令和6年1月1日以降の相続税改正により、相続時精算課税制度を使っている親子間等でも年間110万円までは申告不要で非課税となりました。
以前は、一度相続時精算課税制度を選択すると、翌年以降は贈与者が亡くなるまでは1円でも贈与があると申告が必要でしたが、年間110万円までは申告も納税も不要となりました。従って、2500万円の相続時精算課税制度を適用しても、110万円の控除額を使って相続税の節税対策が可能です。
また、相続税の基礎控除内の資産の方にとっては、丸々2500万円を非課税で贈与できるので、住宅建築の援助などには使いやすい制度となっています。
生前贈与を使った相続税対策
相続税対策は、生前贈与をいかに駆使するかにかかっています。そして、「相続税対策」=「節税対策」と思われていますが、実は他にも大事な相続税対策があります。
ここでは、3つの相続税対策、「節税対策」、「納税資金対策」、「争族対策」を解説します。
生前贈与を使った相続税対策1.節税対策
相続税対策で一番にあげられるのは、もちろん相続税を減らす節税対策です。
「生前贈与を利用した節税対策」では、相続税で該当する税率を計算し、暦年課税の控除を含めた実質の税率と比較して低い税率でできるだけ大きい額の生前贈与を行い、相続税の総額を減少させます。また、アパートのように贈与後に収益を生み出す資産の場合は、受贈者が受け取った財産以上の生前贈与になるので、節税効果は更に高まります。
贈与税の実質の税率は下記のように計算します。
母から600万円の贈与を受けた場合、まず基礎控除後の課税価格を算出します。
【特例贈与財産の価格】 【基礎控除額】 【基礎控除後の課税価格】
(600万円) - (110万円) = (490万円)
基礎控除後の課税価格490万円は、600万円以下の税率が適用されますので20%をかけて、出てきた金額から、600万円以下の控除額である30万円を引くと贈与税額が算出されます。
【基礎控除後の課税価格】 【税 率】 【控除額】 【贈与税額】
(490万円) × (20%) - 30万円 = (68万円)
68万円÷600万円=11.33(%)が実質の税率となります。相続税の計算は割愛しますが、相続税の実質税率が15%や20%になる方で、生前贈与を急ぐ場合には600万円を贈与して贈与税を支払っても、差額が節税になります。
※不動産の贈与の場合にはこれ以外に司法書士報酬、登録免許税、不動産取得税がかかりますので、相続税が実質税率20%以上の方に効果が高くなります。
生前贈与を使った相続税対策2.納税資金対策
相続税の節税対策と同じくらい大切なのが、「納税資金対策」です。
相続税を減らすことに注力していると、いざ相続税の申告になった時、現金が目減りしていて、納税するための現金が不足してしまう、ということがあります。もちろん、相続人が生前贈与を現金で受けていて潤沢な資金があれば大丈夫ですが、不動産中心の相続財産で融資を受けてアパートを建てている場合は、現金比率が低い場合があり、相続税を納税するために結局、不動産を手放す羽目になることがあります。
相続税節税のために生前贈与をするのであれば、まずは相続税が幾らになるか、現金の余裕はあるか、生前贈与するものは不動産か現金、または不動産を早めに処分して納税資金を確保するのか、確認して方針を立てて行うことが大切です。
生前贈与を使った相続税対策3.争族対策
「争族対策」は、相続開始後に相続人間で遺産分割方法について争わないように対策をすることです。
小規模宅地の特例や配偶者控除を使って相続時の相続税を減らすように計画していても、遺産分割協議で他の相続人から反対を受けてしまい、予定どおりの分割ができなければ、節税対策は破綻してしまいます。
そのためにはまず、遺言書を作成して遺産分割方法の指定を行います。そして、節税対策の理由や状況、配分の理由などをしっかりと生前に説明しておけるとベストです。どうしてもそれが難しい場合には、遺留分侵害請求を想定して、該当する金額を配分するなどの対策をしておきましょう。
相続税対策は、どうしても「幾ら相続税を減らせるか」に注目しがちですが、相続税を減らすために現金を若い世代に沢山渡してしまい、不動産だけが残り、結局売却することになってしまうと、本末転倒です。節税対策には納税資金を確保し、争族対策と合わせて行うことを心がけましょう。
生前贈与を利用すべきかの判断基準
生前贈与を利用すべきかの判断基準は幾つかありますが、一番重要なことは生前贈与の目的から判断することです。その上で資産規模に応じて本人を含めた家族の将来設計を想定して行います。
生前贈与を利用すべきかの判断基準(1)生前贈与の目的から判断する
生前贈与で財産を子や孫にあげる(贈与する)目的は何でしょう?
「孫に欲しいと言われたから」、「 子が家を建てるのに必要だと言われたから」、「 相続税が大変なことになるから、節税の一環として子や孫に100万円ずつ配って欲しいと言われたから」 など色んな事情があるかもしれませんが、生前贈与する目的も無く、言われたままに無計画に生前贈与してしまうと、気付いた時には財産がなくなっているかもしれません。
相続税の節税対策をしたいから生前贈与をする、というのであれば相続税が幾らかかるかを把握した上で検討しましょう。相続税がかからないのであれば、そもそも節税の必要が無いので、生前贈与自体も不要となります。
また、住宅資金や教育資金が必要と言われたので贈与するという場合でも、ご自身の生活設計を考えて、今後の生活がしっかりできるだけの資金を差し引いて、余った現金があれば、生前贈与をしても良いでしょう。
生前贈与を利用すべきかの判断基準(2)資産規模に応じて判断する
生前贈与を検討する際、まずは資産がどれだけあるかを把握し、現在時点で相続税の基礎控除(3000万円+相続人×600万円)を超える財産があるか、そして基礎控除を超えるのであれば、相続税が幾らになるかを知ることが重要です。
資産規模が大きいほど、相続税の負担が大きくなり、贈与による節税対策のメリットが顕著になりますが、相続税がかからないのであれば、そもそも生前贈与を使う必要がありません。ですので、生前贈与は資産状況に応じた計画を立てることが肝要です。
生前贈与を利用すべきかの判断基準(3)家族構成と受贈者の状況で判断する
生前贈与を行うことになった場合、家族構成や受贈者の状況も重要な要素です。
贈与の対象となる家族の数やそれぞれのニーズ、資金状況を考慮することで、より適切な贈与計画が立てられます。特に、受贈者の将来の生活設計や教育計画などを考慮に入れることが重要です。
生前贈与を利用すべきかの判断基準(4)将来の資金ニーズを予測して判断する
また、将来の資金ニーズを予測することも、生前贈与を検討する上で不可欠です。ご自身の老後の生活費や、予期せぬ医療費や手術など、将来的に必要となる資金を見積もることは、安定で確実な生前贈与につながります。
過度な贈与によるご自身の生活資金の不足を避けるためにも、慎重な計画が求められます。相続税を節税できたけど、子どもに追い出されたとか、日常生活に苦慮するようになった、というのでは本末転倒です。
まずはご自身の生活が最期まで十分に暮らせる資金計画を立てて、その上で余裕があれば生前贈与を検討する、という順番が大切です。
生前贈与を利用すべきかの判断基準(5)税制変更への対応で判断する
税制の変更に対応することも大切です。数年ごとに改正され、今回も改正がありました。昨年までは相続税の申告において、相続開始日から3年前までに生前贈与された財産が相続財産に加算されていましたが、令和6年1月1日以降の相続については、相続開始日から7年前までに生前贈与された財産を相続財産に加算する、と改正されました。
このように改正があると、3年前までの持ち戻しなら大丈夫と思っていたものが変わってしまうので、1年あたりの贈与金額を減らす、増やすといった計画の見直しが必要となります。
現行の税制を正確に理解し、将来の変更にも柔軟に対応できるように計画を都度見直すことが肝要です。
生前贈与を利用する際に注意すべきこと
生前贈与を利用する際に注意すべきことは、次のとおりです。
生前贈与の注意点(1)法令・税制の理解と遵守
生前贈与を行う際、「法令・税制をしっかりと理解した上で、遵守すること」が重要です。
特にインターネットで調べて生前贈与について調べることが多いと思いますが、記事に書かれていることとご自身の状況が細かいところで違っていて、実際には使えなかったり、そもそも解釈が間違っている、というおそれもあります。
思い込みで間違った手続きを行ったり、計算してしまうと、思わぬペナルティーを受けてしまうかもしれません。できるだけ税理士や弁護士といった専門家に相談して、生前贈与を実行しましょう。
生前贈与の注意点(2)贈与の意図の明確化
贈与は、ただ単に資産を渡す行為以上の意味を持ちます。生前贈与をする背景には、相続税節税対策、教育資金の提供、生活支援など様々な意図があることが多いものの、受贈者はもらうことと、税金対策に精一杯で、贈与の意図が十分に伝わっていないことが考えられます。
贈与の意図を明確にすることは、受贈者に対する責任感を促し、将来的な誤解や紛争を防ぐために重要ですので、贈与の意図をしっかりと伝えて、贈与者・受贈者がお互いに理解しあった上で手続きを進めましょう。
生前贈与の注意点(3)家族間のコミュニケーション
生前贈与は家族間の関係に大きな影響を及ぼす可能性があります。従って、贈与については家族間でオープンなコミュニケーションを行い、意見や期待を明確に共有することが大切です。
内容によっては、「他の家族に共有すると話がこじれてしまうおそれがある」、「相続税の節税が達成できなくなるのでどうしても秘密にしておきたい」という場合には相続の際にその人が納得できるような資料や、配分を考えておくことが大切です。
適切なコミュニケーションをこころがけることで、生前贈与が家族関係を強化する一助となる可能性があります。
生前贈与の注意点(4)専門家への相談の重要性
税理士や弁護士などの専門家への相談は、生前贈与の計画と実行において非常に重要です。生前贈与や相続などは、個人が何度も経験するものではなく、まして難解な法律や税金を駆使して行われる手続きです。
専門家は税法や法律の最新の知識と経験を提供し、個々の状況に最適なアドバイスをしてくれます。最終的な決断はご自身で行うべきですが、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを知ることで、不測の問題を回避し、最大の効果を得ることができます。
令和6年最新版! 贈与税税制改正で生前贈与はこう変わる
令和5年度税制改正大綱において、贈与税の税制改正の大きなポイントは2つです。それは、相続時精算課税制度に年110万円の控除額が新設されたこと、生前贈与の持ち戻し期間が3年から7年に延長されたことです。ここでは、この2点について詳しく説明します。
税制改正による生前贈与の変更点1.相続時精算課税制度に年110万円の控除額が新設
令和5年までの相続時精算課税制度は、この制度を申告すると60歳以上の親から18歳以上の子または孫に贈与をしても、2500万円までは贈与税がかからず、贈与者(親)が亡くなった時に相続財産として持ち戻して相続税で計算しなおす、というものでした。
贈与税より相続税の方が、基礎控除額が高く税率が低いので、とても良い制度に思えますが、相続税が課税される世帯においては、結局相続税で計算しなおされるので実際に支払う相続税額は変わらない、一度相続時精算課税制度を選択すると毎年申告が必要で、数万円の贈与でも課税対象となる、2500万円を超えると20%の贈与税を一旦支払う必要がある(相続税申告時に精算)、といった問題がありました。
しかし、今回の改正で相続時精算課税制度を選択した親子間でも、毎年110万円の基礎控除枠(非課税)が新設され、年間110万円までは申告不要で贈与が可能となりました。従って、毎年の申告、110万円の暦年課税が使えなくなることがハードルになっていた方も、相続時精算課税制度を選択しやすくなりました。
※相続時精算課税制度の利用者に毎年110万円の基礎控除枠が「新設」されたので、暦年課税方式が使えなくなることに変更はありません
税制改正による生前贈与の変更点2.生前贈与の相続税への加算が死亡前3年から死亡前7年に延長
令和5年までは、相続開始日(死亡日)前3年間に行われた贈与については、相続財産に加算されていました。しかし、今回の改正でこの3年間の期間が7年間に延長され、死亡日前7年間に贈与された財産から100万円を差し引いた額が相続財産に加算して計算されることになりました。
死亡日は調整できないどころか、誰にも分かりませんので、どれだけの方がどのような影響を受けるかは一概に説明できませんが、贈与した方がこの数年間で亡くなってしまうと、結果として加算される財産が増えて想定よりも相続税が増えてしまうおそれがあります。
税制改正による影響を分析
今回の改正により、特に中小企業の経営者や高齢者の資産移転に大きな影響が考えられます。
相続時精算課税制度の非課税枠の拡大は、相続時精算課税制度を使っても新設された控除枠を使えば更に生前贈与が可能で、更に年間110万円の範囲内であれば申告不要(非課税)になったので、相続時精算課税制度の利用者も増えることが予想されます。
また、相続税の生前贈与加算期間の延長により、生前贈与を検討している方は、できるだけ早い時期からの実行を進める必要があります。もしも令和15年に亡くなる方がいたとして、今までなら令和10年、令和11年(令和15年から数えて4年前、5年前)に贈与をしていた場合、令和5年までの制度(死亡日前『3』年間の贈与は相続財産に加算)ならば相続税に関係なかった贈与が、令和6年以降の制度(死亡日前『7』年間の贈与は相続財産に加算)では相続税に加算されてしまいます。
このような後悔をしないように、生前贈与をするのであれば、できるだけ早めにしておく方が良いでしょう。
結局、今回の贈与税改正で影響を受ける人は?
今回の贈与税改正で影響を受ける人は、「相続時精算課税制度を使用すると、親子(祖父母と孫)間で暦年課税の110万円控除(非課税)が使えなくなるので更に生前贈与がしにくい上に、毎年の申告が面倒」と考えていた人と、「財産が相続税の基礎控除以上あって、相続開始前7年間の贈与として相続財産に加算されたくない」人を中心に影響すると思われます。
生前贈与まとめ
生前贈与は、生きているうちに財産を他人に無償で移転することを指します。
生前贈与には相続税の節税、家族間の不和の予防、資産管理の柔軟性の向上など多くのメリットがあります。贈与税と相続税は異なる税法で計算方法や税率、基礎控除額に違いがありますが、贈与税は相続税の補完的役割を持っています。
また、生前贈与は教育資金の贈与や住宅取得資金の贈与といった特例を利用することで、より効果的な相続税の節税が見込めます。
令和6年の税制改正では、相続時精算課税制度に年110万円の控除額が新設され、生前贈与の相続財産への持ち戻し期間が3年から7年に延長されました。
この改正では、相続時精算課税制度の利用を躊躇していた人にとっては使いやすくなったために利用者が増えると考えられます。また、生前贈与の持ち戻し期間の延長については、生前贈与を前倒して行う契機になると考えられます。
生前贈与を検討する際は、こういった法令や税制の適切な理解と遵守が必要なために、専門家への相談が重要です。また、生前贈与を実行する際には家族間のコミュニケーションを十分に行い、意図を明確に伝えることが重要です。個々の資産規模、家族構成、将来の資金ニーズなどを総合的に考慮し、家族全員の幸せにつながる生前贈与を行いましょう。
出典
e-Govポータル 明治二十九年法律第八十九号 民法
国税庁 【贈与税の申告等】 Q28 贈与税の申告をする必要がある人は、どのような人ですか。
財務省 もっと知りたい税のこと 令和元年10月 4「相続税」と「贈与税」を知ろう
国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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