更新日: 2024.06.07 贈与
年3回の帰省のたび、母が「30万円」を現金で渡してくれます。「口座振り込みだと履歴が残る」とのことですが、現金手渡しなら問題ないのでしょうか? 贈与を疑われないか心配です…
本記事では、少額ずつ現金手渡しでの生前贈与をしたときのリスクについて解説します。
執筆者:古澤綾(ふるさわ あや)
FP2級
少額ずつの現金手渡しでも生前贈与はバレる
生前贈与は、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の合意により成立します。口頭での合意や現金手渡しでも法的には問題ありませんが、贈与者が亡くなり税務調査を受けたときには困る可能性が高まるのです。
贈与のために、あげる人(今回の例では母親)が定期的に預金を下ろしていた場合、税務職員は預金口座から出金があったことを把握します。そして、このお金について「使途不明金」として調査され、主に次の3つの可能性について聞き取り等を実施します。
・何かに支出した(消費)
・現金として残っている(タンス預金)
・誰かに渡した(生前贈与)
「母が何か買った」と言えば逃れられると考えるかもしれませんが、明確な領収書などがなければ、タンス預金や生前贈与を疑われてより入念に調査されてしまうでしょう。
こっそり行った生前贈与があとからバレたらどうなる?
現金手渡しで生前贈与を行っていた場合、入念な調査によってあとからバレたときの税務署判断は次の2つに分かれます。
1.生前贈与があった
2.生前贈与ではなかった
それぞれのケースの対応について、順に解説していきます。
「生前贈与があった」と判断された場合
税務調査によって生前贈与があったと判断された場合は、「暦年課税制度」によって贈与税の計算を行い納付する必要があります。暦年課税制度では、1年間に贈与を受けた金額の合計が110万円を超えた場合、金額による税率で贈与税を計算します。
税務調査で年間110万円以内の生前贈与と判断されれば新たな納税は発生しませんが、年間110万円を超えていたと見なされた場合には納税が必要です。このとき、「無申告加算税」として最大20%、「延滞税」として年8.7%が加算された追徴税がかかります(2024年6月時点)。
「生前贈与ではなかった」と判断された場合
税務調査の結果、「たしかに資金が移動しているが、お互いの同意がなかった」とされて生前贈与と見なされないケースもあります。例えば「子どもが勝手に親の口座から資金を下ろしていた」などと見なされた場合です。
今回の場合は、生前贈与として受け取っていた金額の全部か一部が「母親の財産」と見なされ、相続税の計算をやり直すことになります。生前贈与された金額を相続財産に加算して相続税の再計算を行って修正申告し、相続税の加算分を納付する必要があるのです。
このときも、10~15%の「過少申告加算税」が加算される可能性があります。さらに生前贈与と見なされた場合と同様、納税が遅れたことに対する「延滞税」が課されます。
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基礎控除を活用して堂々と生前贈与を
上述のとおり、暦年贈与による生前贈与には「基礎控除」があります。合計で年間110万円までであれば贈与税がかからずに、生前贈与を行えます。あとから疑われないためには、こっそり現金手渡しするのではなく、口座間で資金の移動をして履歴を残しましょう。
さらに使途不明金として調査を受けないようにするなら、その都度「贈与契約書」を作成して記録を残すことがおすすめです。
なお、2024年1月1日から法改正によって、生前贈与の加算対象期間が3年から7年に変更になりました。相続開始前の7年以内に贈与された金額については、相続財産として計算します。これまでよりも計画的な生前贈与が必要となるでしょう。
まとめ
少額ずつ現金手渡しで生前贈与しても、いざ相続が発生したときには母親の「使途不明金」として税務調査を受ける可能性があります。調査の結果「年間110万円以内の生前贈与だった」と見なされた場合は、追徴税を支払う必要はありません。
しかし、年間110万円を超える生前贈与であったと見なされた場合は、無申告加算税や延滞税を支払う必要があります。また、生前贈与ではなかったと見なされた場合には、相続財産として改めて計算を行い、修正申告を行わなければなりません。
生前贈与年間110万円の基礎控除を活用し、口座間の資金移動で履歴を残したり、贈与契約書を残したりすることが大切です。このような履歴を残すことで、かえって税務署から疑われる可能性が低くなるでしょう。
出典
国税庁 加算税制度(国税通則法)の改正あらまし
国税庁 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正あらまし
執筆者:古澤綾
FP2級